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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋とゲームの勝敗は気にしないほうが世のため人のため


「むう~~~…………!」


 喫茶店に来店すると、出迎えたのは膨れっ面の遥。可愛いけど。


 どうして怒ってるのだろうか……まさか!?


「ま、まだ怒ってるのですか……?」


 戦々恐々と震えながら遥に聞いてみる。


 この前、無駄なネタバラシをしたその日の夜、電話で叱られその時間は夜更けまで続いた。


 後に語られるぴっちりスパッツ事件の事である。


 深夜に続く大説教、それで怒りは収まったはずだけれど……?


「え? いえ……違うんです。実は」


「はーちゃんってば、私に全然勝てないから拗ねてるのよね」


 カウンターに先に座っていた霜崎さんが、からかうような笑みを浮かべて言う。


「むううううう……!」


 頬が更に膨張する。


 膨れた部分をつんつんしてみた。柔らかかった。じゃなくて。


「勝てないって、なんか勝負でもしてたのか?」


「ええ……ゲームで」


 へえ……ゲームとかあまりしてなさそうだから声掛けなかったんだけど。


 するなら、今度から誘ってみてもいいかもしれないな。


「ダメよジロー。勝ち過ぎるとこうなるから」


「むううう……!!」


 こうなる。


 とても可愛い。


 しかし怒りの視線は俺に向くのか。それは御免被る。


「ジローさん!!」


「は、はいっ!?」


「ジローさん家ってゲームありましたよね!」


「あります!」


「ならジローさん家で特訓しましょう!!」


 ……それは俺と? それとも一人で?



――――――――――



「さあジローさん! やりますよ!」


 俺とでした。


 勇ましくコントローラーを握った腕を天高く突き上げる。


 ワイヤレスのコントローラーはつるりと遥の腕から滑り、空高く打ち上がる。


 あっ、という言葉と共にコントローラーは緩やかな放射線を描き、重力に従い俺の頭上へ舞い落ちる。


 グリップの先端部分が俺の脳天に直撃。


「ぐ、ぐおおお…………!!」


「きゃーっ!! ジローさん!?」


 強烈な痛み。悶絶する。


 頭を抱え、テーブルに突っ伏す俺の背中を、遥は撫で続けるが痛いのは背中じゃない。


 とは言え痛みの発生源である頭頂部は俺が手で抑えているわけだが。


「は、遥さん……物を持ってはしゃぐのはやめましょう……」


「はい……」


 しゅんとしていた。


 ようやく痛みが収まってきた。


「それで? 一体どんなジャンルで負けたの?」


「ええと……」


 一つの握り拳を持ち上げる遥。


「レース……」


 指が一本立つ。


「パズル……クイズ……ボードゲーム……リズムゲーム……」


「もういい、わかった」


 握り拳が開かれる所で制止した。


「何から挑戦したい?」


「全部でお願いします」


「出来るかあ!!」


 一台しかないんだぞ!


 練習するということで、霜崎さんからソフトは借りてきておいた。


 なるほど、女性が好みそうなポップな絵柄が多めである。


「まずはレースにしよう」


「はい! お願いします!」


 勇ましく返事をする遥。


 その意気込みやよし、とソフトを入れてゲームを起動。


 各々使う車種を選び、ゲームスタート。


 ………………。


 曲がると同時に体が一緒に動いていた。


 その程度は予想できていた。問題ない。


「あっ……うわ…………ちょっ、待っ……」


 そして独り言が多い。これは可愛さポイントアップ。


 ファイナルラップ。


 俺は一位、そして遥は…………十二位。


 最下位だった。


 その順位は覆ることなく、ゴールを決める。


「………………」


 何故か睨まれていた。


 隣の猛獣とは目線を合わせないように目線を逸らす。


「次…………パズルです!」


「……はい」


 段々と嫌な予感がしてきていた。


 ………………


 …………


 ……


「………………………………」


 睨まれ続ける俺。


 遥がいる反対側を眺める。わあ、お空が綺麗。雲一つない綺麗な青空だ。


 世の中には、いると思うんだ。


 ゲームが苦手な人って。


 だけどそれが悪いこととは思わない、例えばその人は料理がとても美味しく作れたり。


 家事が凄く得意で凄く早いとか。違うベクトルに得意属性が生きているだけなんだ。


「………………………………」


 だからそんなに睨むのはやめてほしい。


 ゲームの特訓にならどれだけでも付き合う。だから負ける度に恨みがましい視線を投げかけないでください。


 睨まれていると思うだけで胸が痛くなっちゃうんです。


「…………ジローさん、なんですかこれ」


 いつの間にか睨むのはやめていた遥。


 近くに置いてあったゴーグルに興味を示した。


「ああ、それVRのゴーグルだよ」


「VR?」


 ゲームに慣れていないと聞き馴染みがないのだろうか?


 ゴーグルを取り付け、モニターにも表示させるように設定する。


 ……とりあえず、これでいいか。


「遥、ほら」


 後ろに回ってゴーグルを遥に取り付ける。


「うわっ、なんか凄い!」


 俺が選んだのは、ウォーキングシュミレーター。


 ホラーのな。


 しかしその時の俺はわかっていなかった。


 遥のゲームへの経験値の低さと。


 俺の部屋の狭さを。


「きゃあああああ!! きゃあああああああああ!!」


 耳をつんざく遥の悲鳴。


 動き回ろうにも俺の部屋は狭く移動はままならない。


「いったあ!! 足斬られたんですか!?」


「違う、テーブルにぶつけただけ」


「あう! 右になにかいます!」


「それ家の柱!」


「なんか柔らかいもの踏みましたあ!!」


「それ俺の足!!」


 と、阿鼻叫喚である。


 何故俺はこんなパニックになるものを選んだんだろう。


 もっと言えば、何故俺は家が狭いのにVRを買ったんだろう。


 今思い出すと、ほとんど使ってなかったりする。


 何故俺は遥にやらせたんだろう。


「きゃー! いやー!!」


 騒ぐ遥。見てて面白い。


 しかし隣人は面白くなかったようで。


「うるせえぞコラァ!!」


 バン、と俺の家の扉を開けて入ってくるのは隣に住む雨宮さん。


 いつものジャージ姿だった。


「……あん、何してんだこれ」


「いやー! 来ないでー!」


「狭い室内でVRです。大変危険なのでやめましょう」


 遥はまだ雨宮さんが来たことに気付いていないようだ。


 騒ぎ続ける遥を見て、何故か雨宮さんはニヤニヤし始めた。


 嫌な予感がする。


「っ!? いやああああああああ!!」


 雨宮さんは遥の背後に回ったと思うと、脇腹をくすぐり始めた。


 いきなりの接触に驚いた遥は腕を振り回す。


「あううっ!?」


 裏拳が俺の側頭部にヒット。


「た、倒しました!?」


 そういうゲームじゃない。逃げるだけなんだ。


 ゲームでは尚も追いかけられている。


「来ないでーっ!!」


 またもパニックになった遥は自分の脚に躓き、バランスを崩す。


 倒れそうになった体を引き寄せた。


 その衝撃でゴーグルが外れ、愛らしい顔がこんにちは。


「あ、ありがとうございます………………ってあれ、姫宮先生? いつの間に……?」


「さっきからいたけど」


 俺に抱きしめられたまま雨宮さんに挨拶する遥。


 ちなみに姫宮先生というのは雨宮さんのペンネームだ、念の為。


「あ、そうだ」


 そう言って雨宮さんは俺の家を出ていった…………と思えばすぐに戻ってきた。


「ほら、この前のジャージ。洗っといたから」


「ああ、どうも」


 そういえば渡してたな。


「ジャージ…………?」


「……はっ!」


 いかん、気付いてしまう!?


「ジャージ……運動…………」


 どんどん連想してるーっ!!


「エロい美女のむっちりスパッツって…………姫宮先生のことですか!!」


 割と簡単に行き着いた!


「だ……誰がむっちりだこの野郎!!」


「ジローさんが言ってました!」


「テメェコラ!!」


 胸ぐらを掴まれる。


「え……え、エロいとか、いらねえだろ……っ!!」


 顔を真っ赤にしていた。野蛮な割に純情。それが日本が誇るラブロマンス小説家、姫宮ヒメ先生である。


「いくら姫宮先生でもダメですからね!! ジローさんは渡しませんから!」


「………………い、いらねえよ!」


 胸ぐらが解放される。少し伸びたけどまあいいや、安物だし。


「姫宮先生のこのゲームしてみてください」


「え? あたしはいいよ……」


 と言う割にウッキウキで装着した。


 ヤバそうな事になりそうなので、周囲の物を全て遠くに追いやる。


「いやああああああ!!」


 次は雨宮さんの悲鳴が俺の家に響くのであった。

読んでいただきありがとうございます。


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