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失恋と警察


 時刻は夜21時。


 ローテーブルの前で正座してかれこれ30分。


 テーブルの上に置いたスマホを睨み続けていた。


 意を決してスマホを持ち上げる。


「………………よしっ」


 後は通話ボタンを押すだけ。押すだけ。


 押すだけ…………。


「くそっ!!」


 机に叩きつけるようにスマホを置く。


 押せないっ!


 押すだけで遥ちゃんに繋がるっていうのに、後一押しがどうしても出来ない!!


 なんだ俺は、中学生か!?


 鼻息荒くスマホの画面をちらりと一瞥。


 そこには遥ちゃんという登録文字と。


 何故かカウントが進んで行く通話時間の数字が。


「…………もしもーし? 次郎さん?」


「アッ!!!!」


 勢いで通話ボタンを押してしまっていたらしい。痛恨のミスだ。


 まだ気持ちの準備が!


「あれ、次郎さん?」


「あ、え、あの、え、ちょ……っと待って!」


 慌てる俺、いや見ればわかるか。いや見れないか。


 わかりやすくテンパってる間にも、通話時間はどんどんと過ぎていく。


 この間にも遥ちゃんを待たせてるのだ、男次郎……意を決して行きます。


「…………も、もしもし?」


 凄く上ずった声が出た。恥ずかしくて死にそう。


「なんか騒がしかったですけど……外ですか?」


「え? い、いや……家だけど」


「そうですか……なんか奇声じみた声とか……裏声みたいな声とかが……」


 それ全部俺。


「ご、ごめんな……いきなり電話して」


「いえ、大丈夫ですよ……どうかしましたか?」


 会話を順序立てて脳内シミュレートしていたにも関わらず、出だしが想定外だったので何から話せばいいのか吹っ飛んでしまった。


 え~と……。


「次の……土日、どっちか空いてるかな?」


「土日、ですか」


「うん、デー…………何処か、遊びに行けたらな、と思って」


 日和ったー!


 男らしくデートに行こうと誘いたかったのにーっ!


「日曜日は午後から手伝いがあるので……土曜日なら大丈夫ですよ」


 手伝い? 何の手伝いだろう?


 まあいいか、土曜日が空いてるなら。


「じゃあ、次の土曜日にでも、遊びに行かないか?」


「はい、大丈夫ですよ。何処に行くかは……」


 それは当日のお楽しみだ。何故ならまだ考えていないから。


 考えていない部分だけを省いて説明すると、楽しげな遥ちゃんの声が耳元から聞こえてきた。


「くす、はい。じゃあ当日楽しみにしてます」


「うん、じゃあ土曜日に」


「はい…………デート、楽しみにしてますね」


 そう言って、切れた。


「……………………」


 なんだ、俺を殺す気か?


 遠距離から声だけで殺害できるか実験中か?


 行き場のない情熱を雄叫びにして発散していると。


 ドンッ!! と隣から洗礼を受けた。


「……す、すみません」


 控えめに謝った後スマホを手に持ち、検索を始める。


 何処に行くか決めないとな、何せ初めてのデートだ。


 ただでさえ、スタート地点の順序が違ったのだ、ここでせめて軌道修正をしないと。


 日曜は予定があるような事を言っていた。ならば遠出はなしだ。


 日帰りで行けるような場所を探さなくてはいけない。なおかつ旅の疲れが出にくい距離でないといけない。


「…………むっず」


 元カノとはデートを一度もしたことがないため、これが人生初のデートとなる。


 だって、顔を怖がって付き合っただけだし。そもそもそれって付き合ってるっていうんだろうか。


「ん? これは……」


 スクロールする指がふと止まる。


 女の子が好きそうな…………わあお、値段がヤバーイ。


 いや、でも初めてのデートなんだ、それくらいポンと支払える経済力を見せておかないと……。


 財布を見る。………………気を取り直して口座の残高を調べた。


 …………うーん、食費を切り詰めればなんとか。


「よし、ここに決めた!」


 予約日時を入力して……完了。


 後は着ていく服を決めておかないと。


 ウキウキ気分で品定めをしていると、土曜日がやってくるのはあっという間だった。



――――――――――



 そして土曜日。


「ほんとにあっという間だったな」


 時刻は朝8時、10時に駅前で待ち合わせ。


 少し早く着いてしまったが……まあいいだろう。


 こんな時に言うのもなんだが、俺は体が大きい。そして目つきが悪い。その所為で友達がいない。


 だから、ガタイの良さを隠すため黒のジャケットを羽織ってきたんだが。


 さっきガラスに映った俺を見てみると、ヤバい奴を護衛している男みたいな出で立ちになっていた。


 これはヤバいかもしれない。たまたま持ってきていたサングラスをかける。


「……………………」


 ヤバさが増した。


 通りがかる人々にチラチラと見られている気がする。


 俺が向き直ると皆一斉に目を逸らす、傷つくわー。


 朝も早いと言うのに、人通りは多い。そして誰もが俺と目を合わせない。……いや、一人だけこちらを見ていた。


 その人物は人の合間を縫って、そして現れたのは…………。


「少し良いですか?」


 警察だった。


「な、なんでしょう……」


「貴方……何をやってる人ですか?」


 ここで何をしているか、ではなく。


 貴方は何をやってる人ですか、と来たか。質問がかなり抽象的だな。


「人を待っているんですが……」


「…………売人?」


 なんか小さく聞こえた。とんでもなく失礼なセリフが。


「ちょっと署までご同行願えますか?」


「えっ」


 困る。これからデートだというのに。


 決して俺に触れること無く、先に勧めと促してくる。


「え、いや、ちょっと」


 否定的な態度と取ったのだろう、無線を使ってなんか言ってる。


 しばらくあたふたしていると、更に四人警官が現れた。


 増援呼ばれた!!


 警官に囲まれる厳ついサングラスの大男、俺。


 周りの人々は好奇の視線を注ぎ、スマホを向ける。


「や、やめてくれー!」


「コラ! 暴れるな!」


 暴れてねえよ! 言っただけじゃん!!


 警官たちは慌てて距離を取って腰にある警棒に手を添える。


 ……どうする。


 このまま連れて行かれればデートをすっぽかしてしまうこと必至。


 しかしここに居続けるのも晒し者となり続けることを意味する。それはよろしくない。


 恥を偲んで誰かに助けを求めるか……。


 ………………誰に?


 自慢じゃないが、俺に友達はいない。


 なんでか? 今の状況から察してくれ。人が寄ってこないんだ。


「おい、早くついてこい!」


 段々と警官が威圧的になってきた。


 俺なんかしたか?


「いや、ですから……」


「つべこべ言うな!!」


 ダメだ、聞く耳を持っていない。


「せめて連絡をさせてください」


 警官全員が揃って首を左右に振った。


「…………次郎さん?」


 その時、背後から俺を呼ぶ声。その声は聞き覚えがあり、俺が待ち望んだ声!


 振り返ると遥ちゃん。


 始めて見たときよりめかしこんでいるように見える。可愛い。


 いや言ってる場合じゃない。


「離れて、危ないから!!」


 警官の一人が遥ちゃんを遠ざけようとする。


 俺はクマか何かか。


 そして、遥ちゃんから救いの声が。


「私の彼氏なんですけど……」


「…………え?」


 ぽかんとした表情と共に、気の抜けた声が漏れた警官たちだった。


 ………………。


 …………。


 ……。


「学生証を見せれば良かったんだな……」


「そうですね、身元を保証さえすれば……」


 学生証と俺の顔を何度も交互に見比べられてたのは一生忘れない思い出になった。


「それにしても、近くの大学に通ってたんですね?」


「ああ、今のところに住んでるのも大学の近くで暮らしたかったからな、あと安い」


 っと、そうじゃなくて。


「ありがとう、本当に助かった」


 きょとんとした表情。そしてくすくすと笑った。


 コロコロと表情が変わる様が可愛らしい。


「良いんですよ、私も異世界転生から救ってもらった訳ですし。おあいこです」


「………………ん? ということは、俺も警察に連れて行かれていたら異世界転生してたってことか?」


「よくあるじゃないですか、周りを巻き込んで召喚されるやつ」


「それって大体巻き込まれた人が主人公だよね」


 お互い顔を見合わせて、笑い合う。


 ひとしきり笑いあった後、手を差し伸べた。


「仕切り直しってことで。じゃあ、行こうか?」


「ふふ……はい、行きましょう」


 そっと手を繋ぎ、改めてデートの開始と相成ったのであった。


 …………ほんと、顔つきで損ばっかしてるな?

読んでいただきありがとうございます。


もしよろしければ評価・良いね・感想など、よろしくお願いします!

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