表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/113

失恋と歯痛って余裕ない時はマジで余裕ないよねって話


 穏やかなBGM。


 コーヒーの芳しい香り。


 目の前には最愛の彼女。ああ、落ち着く。


「……でさあ、ラストがそんなオチだったんだよね」


 幸せの絶頂にいる俺は、笑顔で昨日見た映画の話をする。


 大丈夫、最新の映画の話じゃないから。ネタバレじゃないから!


 そんな中、目の前にいる俺の彼女。つまり遥は。


「………………はあ」


 物憂げな表情をしていた。


 遠い目をして、右の掌を頬にあてがい、アンニュイな溜め息を吐く。


 俺との会話も心ここにあらずといった感じ。


「…………で、でも俺思うんだよね、もしラストが天変地異で地球が割れるんだとしたら、もう少し面白くなるんじゃないかって」


「……そうですね」


 ダメだ、聞いていなさそう。


 もしくは俺嫌われた!? え、なんで!?


 なんか……原因……なんか…………。


「兄ちゃん、兄ちゃん」


 涙目になりそうになった時、後ろのテーブル席から声がかかる。


 振り返ると、フジさん筆頭の常連四人組。


 俺はコーヒー片手にテーブルまで移動する。その間も遥は俺の方をチラリとも見なかった。


「遥ちゃん、朝からああなんだけど……なんか知ってんのかい?」


 遥を一瞥する。ポーズは同じまま、何度も溜め息を吐いていた。


「いや……この間電話した時は普通だったんですけどね」


「この間って?」


 五日……いや、四日前か。


 なんのことはない雑談だった。終始笑い合っていて、とても楽しかった。


 それが何故こうなってしまうのか。


 この四日の間に何があったのか。もしくは俺が何をしてしまったのか。


 思い出せ、俺。この四日間の出来事を!


 えー、講義、講義、バイト、講義、バイト……。つまんねえ日常送ってんなこいつ。


 んで……雨宮さんのダイエット。で、たまの余暇が出来たから映画を見た……と。


「………………はっ!?」


「な、なんだってんだ!?」


 突然テーブルを立ち上がる俺に驚く四人。まさか!?


 雨宮さんのダイエット、そのウォーキング!?


 俺が雨宮さんを下世話な視線で舐め回すように見てたのがバレていた!? …………いや、舐め回すほどじゃなかったな。


 だがしかし、こんなことバレるものだろうか。


 いやあ、バレないだろー。


 もしくは……。


「な、なあ……遥~?」


 恐る恐ると歩み寄り、出来るだけ機嫌を損ねないように声を掛ける。


 だが不自然極まりなかった。


「……なんです?」


 姿勢を変えずに目線だけ動かして俺を視界に収める。すっげー不機嫌そう。


「もしかして……雨宮さんが遥の差し入れ食べすぎて太ったのを……気にしてるとか?」


「……いえ、別に? そうだったんですか?」


 シット! これじゃなかった!


 ただ雨宮さんの恥部を晒しただけになった! 後が怖いぞ俺。


 目線を前に戻し、俺を見ずに何度も溜め息を吐く。


 俺はゆっくりとテーブルに戻った。


「ワンアウトって感じかな」


「うるさいですよ」


 しかしこれじゃなかったとは。


「フジさんたちに何か思い当たる節は無いんですか?」


 四人は腕を組んで上を見上げた。


 なんで全員おんなじポーズした?



「お釣りをもらう時に手を握ったこと……?」

「この前コーヒーを零してソファーを汚したこと……?」

「仕事用のエプロンを着けたまま来て店内を魚臭くしたこと……?」

「テレビから育毛剤のCMが流れてきてキレてコンセントを抜いたこと……?」



「何してんだアンタら!!」


 四人揃って『だって~』とか言ってる。気色悪いな。


「それって、いつ頃の話なんですか?」



「毎日」

「一ヶ月前」

「半年前」

「毎日」



「そんな毎日育毛剤のCMは流れないだろ」


「流れるっつんだよバカが!! お前全局のCM見てんのか、ああ!?」


 なんかいきなりキレた。情緒不安定か。


「ダメだよ兄ちゃん、ジョーさんは気にしてるんだから!」


 いや知らんし、名前も気にしてることも初めて聞いたし。


 っていうかしれっと毎日セクハラしてる人いたな。


「でも、それだと俺にまで機嫌悪い理由にならないんですよねえ」


 うーん、と五人で腕を組む。


「あ」


 思い出した。それは二日前のことだった。


 組んだ腕を解き、抜き足差し足と遥に近付いていく。


 遥のポーズはずっと一緒だった。疲れないのか?


 俺がカウンターに来たことで、視線だけ動いて見てくる。


 俺は頭の上で両手を合わせ、謝罪のポーズ。


「ごめん! 二日前、遥のお気に入りのコーヒー自分でも飲んでみたくて……試しにやってみたら全部こぼしちゃったことだよな……!? 本当にごめんなさい!!」


「………………」


 目をぎゅっと閉じて謝罪。


 だが遥に反応はない。


 恐る恐ると目を開いて遥の様子を見ると。


「……そうですか」


 ……と、それだけ短く言った。


 え、マジで? これじゃないの?


 がっくりとテーブルに戻ると。


「ツーアウト」


「うるさい」


 四人が背中をぽんぽんと叩いてきた。


「だって二日前だろ? 最後に連絡を取ったのが四日前なら気付きようないじゃねーか」


「あ……」


 それもそうだ。なんでそんな事に気付かなかったんだろう。


 四人でテーブルを囲んで唸り続ける。


 すると、カウンターの方で。


「ああ、もう……っ!」


 苛立たしげな遥の声が聞こえた。


 俺たち五人はビクリと体を震わせ身構えるが、それ以上遥のアクションはなかった。


「……怖いんですけど」


「俺もだ」


 全員で小さく円陣を組んで頷きあう。


「やっぱ兄ちゃん、なんかやらかしちまったんじゃねえの?」


「いやあ、俺は何も……」


「あのおっぱいデカい嬢ちゃんと浮気したとか?」


「冗談でもそんなの口に出して言う事じゃないよお!?」


 思わず大声が出た。


 慌てて口を噤んで遥の様子を見ると。


「………………はあ」


 セーフ。いや機嫌悪いからセーフじゃないかもだけど。


 またも円陣に戻る。


「俺がそんなことするわけないでしょう!」


「……だよなあ、顔怖いくせにヘタレっぽいもんなあ」


 うるさいな。


 こうやってからかってくる人が増えてきて、最近俺の顔は怖くないんじゃないかと思い始めてきた。


 まあ怖くないと思われた方が俺としては嬉しいんだけど。


 ヘタレは余計だと思う。


「本当にみんな何もやってないんですか!?」


 もう一度腕を組んで考える。


 俺も同じように腕を組んで、天井を見上げた。



「釣りに行って、思わす衝動買いで高いリール買っちまったこと……?」

「陶芸教室の月謝を払わずにしれっと紛れ込んでること……?」

「犬の散歩に行ってる時に隠れてタバコ吸ってること……?」

「洋菓子作ったのがバレて思わず会社の女の子に貰ったって嘘ついたら離婚にまで発展しかけたこと……?」

「…………………………」



 全員関係ねえな!!


 っていうか幾つかヤバいの混ざってるし。


「兄ちゃん言ってねえぞ?」


「あ、ああ…………美人のむっちりスパッツ見ててエロい気分になってたこと……?」


 思わず口走ってしまう。


 慌てて口を塞ぐがもう遅い。


「どんなんだった?」


 と食いついてきたのはフジさん。


 続いて三人も食いついてきた。エロ親父どもめ。


「ほ~~、そんな事があったのね~」


 と、野太いおっさんの声とは違う綺麗な声が響く。


 声がした方向を見ると……。


「…………霜崎さん!?」


「よっす」


 手を挙げて挨拶…………ってそうじゃなくて!


 ドアベル鳴ったか!?


「はーちゃん、大丈夫ー?」


「あ、みーちゃん。うん、ようやく薬が効いてきたところ」


 薬?


「予約入れたの?」


「うん、今日の17時だって」


「じゃあもうすぐだね」


 予約?


「あ、ジローさん。今日はごめんなさい」


 と、喋っているのはいつもの遥。


 あれ、機嫌悪かったんじゃ……?


「昨日の夜から歯が痛くて、寝れてなくて……ちょっとだけ機嫌が悪く見えちゃいました?」


「…………歯?」


 頷く遥。


 歯痛で聞く余裕がなかった……だけ?


「そういえばはーちゃん、こいつ美人のスパッツ見てエロい気分になったんだって」


「………………へえ、そうですか」


 オウ、オレ、ネハン、イク?


 振り返って常連四人組に助けを求めるが、全員目を逸らした。


「じゃあそろそろ準備するねみーちゃん」


「うん、待ってるよー」


 歯医者に付き添うのだろうか。


 ひらひらと手を振って見送る霜崎さん。


 背中を見せて併設されている家の中へ消えていく遥………………と思いきや。


「お気に入りのコーヒーを零した……?

 他の人をえっちな目で見てた……?」


 と、小さくそれだけ呟き。


「ジローさん」


 振り返る。


「は、はい」


「今度ゆっくりお話しましょうね」


 にっこり笑って、家の中へと消えていった。


「あ、あわわわわわわわわ……」


「兄ちゃん……」


 常連たちは俺を囲み、肩を叩く。


「スリーアウト、ゲームセットだな」


「あわわわわわわわわ……」

読んでいただきありがとうございます。


もしよろしければ評価・いいね・感想を、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ