表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/113

失恋といつの間にかハーレムのど真ん中


「いーやーだー!!」


「自分がするって言ったんでしょうが!!」


 ここはアパート。


 雨宮さんの部屋の前で、問答を繰り返している最中である。


 何の問答かって? それは……。


「良いんだよ! あたしはこのままぶくぶくと太り続けていくんだ!」


 これである。


 遥が美味しい料理を沢山差し入れした影響で、太ったことを自覚してしまった雨宮さんは、俺にダイエットの手伝いをするよう申し出た。


 断る理由もない俺は快諾、こうして誘いに来たわけだが。


「太った状態でテレビに出るつもりですか!」


「もう依頼来ても断るからいいんだよ!」


「そんな訳にもいかないでしょ!」


 まるで天岩戸に隠れた女神のようである。


 古い文献では、かの天照大神が閉じこもった後、様々な厄災が巻き起こされたという。


 つまり、雨宮さんが引きこもって太り続けたら、何か災いが起こるということ。


 何があるだろう?


 雨宮さんが太る、外に出ないしテレビにも出ない。


 創作活動は今のように捗らないだろう、それはつまり沢山のファンを悲しませることになる。


 俺の周りの女性陣は皆雨宮さんのファンだった。


 雨宮さんの執筆が滞れば、俺に尋ねてくることが増えてくるだろう、主にひなたとか。後は霜崎さんとか。


 あれ、俺にまで災いが来るということになるな?


 それはちょっと、いやかなり困る。


 ならば、是が非でも出さねばなるまい。


「………………」


 扉の向こう側では息を殺した気配を感じる。


 あの女神が出てきたのは……。スマホでググる。


 なになに、ほぼ裸で踊り狂う……?


「出来るかあ!!」


「っ!?」


 扉の向こう側から驚いた声が漏れてきた。


 いかん、落ち着け俺。


 しかしここは公共の場、全裸に等しい格好で踊るなど論外だ。いや家でもどうかと思うけど。


 ならばどうするか?


「いやー、しかし勿体ないなあ。雨宮さん綺麗なのに」


「………………」


 反応はない。更に口撃を続けよう。


「スタイルも良いし、とっても可愛いのに太っちゃうのかあ。残念だなあ」


「………………嘘だろ」


「嘘な訳ないじゃないですか。まさに俺のタイプナンデスヨー」


「…………なんか嘘くせえ」


 もっと気持ちを込めろ!


 いたこの修行を思い出せ! 神を卸すんだ! 役者の神を!!


 いたこの修行なんてしたことないけどな!!


「ホントですって。俺がフリーなら間違いなく口説いてましたもん」


「………………まあ、昼河なら……色々気を使ってくれるし…………って、なんであたし……」


 なんかブツブツ言ってるけどあまり聞こえない。


 もう一押しなのだろうか。


「もうあの綺麗な雨宮さんを見れないのかー。もっと目に焼き付けておくんだったなー」


「………………」


 ガチャリ。


「捕らえたぞおおおおおお!!」


「きゃあ!?」


 扉が開いた瞬間雨宮さんの腕を取り、外に引きずり出した。


 しかし格好にも、女性らしい叫び声にも驚いた。


 特にその格好。


 上は動きやすくTシャツ。まあそれはいい。


 ぴっちりとしたスパッツを履いており、丈の長いシャツで誤魔化しているようだが、逆にそれが。


「エッロ……ぶああああああ!!」


「余計なこと言わなくていいんだよ」


「はい……」


 腰まである長い髪はまとめ上げ、一つのお団子になっていた。


 帽子を被り日除けも完璧。なんだ、元々運動する気はあったんじゃないか。


「なんであんなに渋ってたんですか?」


「………………この格好が恥ずかしいからだよ」


 ボソリと呟いた。うーん、確かに。


 あまり見てるとまた殴られそうだ。


「いつものジャージは?」


「走ってると……脱げてくるんだよ」


「…………なるほど」


「だから運動用に買ったんだけど……予想以上に肌に張り付いて、やらしく見えるんだ」


 ふむ、確かに。


「いやらしいですね。ぐっは!」


 腹部にパンチ。


「言わなくて良いんだよ、そういうことは……!」


「はい」


 ということは、また別の服を買いに行くまで待つということだろうか?


 そうなると、運動するのはいつになることやら。


「……恥ずいけど、頑張るよ。太るのはイヤだしな……お前もそうなんだろ?」


「え? ええ、まあ、はい」


 運動してもらうために出任せ言ってたとはいえない空気になってしまった。


 しかしまあ、大丈夫だろう。


「ちょっと行ったところの自然公園の散歩コースを軽く流す程度にしておきましょうか。そこなら運動してる人いっぱいいると思うんで、あまり目立たないかと」


「…………本当だろうな?」


 たぶん。



――――――――――



「…………おい、昼河」


「すみませんでした」


 ……目立たないと思ったんだけどなあ。


 よくよく考えるとそんな訳が無いのであった。


 振り返るほどの美人、抜群のスタイル。そしてぴっちりスパッツ。


 …………うん、目立つわ。


「それに歩くだけならジャージでも良かったじゃねえか」


「それもそうでしたね」


 恐らくは運動不足であろう雨宮さんが走っても筋肉痛になるばかりでダイエットとしての効果は望み薄。


 それならばとウォーキングに切り替えたのだが、うん。確かにジャージでも良かったかもしれないな。


「……お前、私を辱めて楽しいのか?」


「………………」


 割と。


「ぐあ!!」


 言ってないのにバレた!


「顔見りゃわかる」


「ま、まあとりあえず……何もしないまま帰るのもアレなんで、少しやっていきましょうよ」


「…………まあ、そうだな」


 渋々だが運動を始めることとなったわけだが。


 ただただダラダラ歩いてもしょうがない。


「腕の振りと、視線はまっすぐ。ちゃんと息を吐いて足の動きも意識しましょう」


「……なんか、ただ歩くだけなのにめんどいな」


「運動なんてそういうもんです」


 それもそうか、なんて飲み込んだ雨宮さんと隣に並びながら歩き始める。


 隣から聞こえる一定の息を吐く音。


 腕を振る度に揺れる…………いかん、また殴られる。


「おい昼河」


「は、はいっ!?」


「…………なんか、周りから余計見られてる気がするんだが」


「…………ああ」


 服の裾を持っていた手も今や振り続けることで裾はノーガード。


 そしてご立派な双房。


「お前のジャージよこせ」


「え、嘘でしょ? 下じゃないですよね?」


「下も……と言いたいところだけど、上だけでいい」


 上を脱ぎ、手渡す。


 袖の部分を腰に巻き付け、お腹の辺りでくくりつける。


 ジャージで下半身を隠す作戦に出たようだ。


「さっむ」


 しかしシャツ一枚になった俺は寒さに震えることとなってしまったのだが。


「動けば温まってくるだろ。ほら行くぞ」


 視線に戸惑う部分も減り、少しだけ上機嫌になった雨宮さんの隣に並んで歩き続ける。


 並木が続く散歩道、緑に染まっていた並木もところどころ赤く色づき始めていた。


 ふと春のことを考える。


 心機一転の上京から、こんな事になるなんて誰が想像できただろうか?


 異性ばかりとは言え、知り合いも沢山出来た。


 過去の俺から見れば、上出来な人生に思える。


「…………おい」


 だけど、このままでいいのかと思うことはある。


 俺の彼女は遥だ。だけど周りを囲むのは女性ばかり。遥が心配するかも。


 だけどせっかく出来た友達。勿体ないという気持ちは多分にある。


「おい昼河」


 どうするのが正しいのだろうか。自分の気持ちを優先するか、遥のことを考えるか。


 考えるまでもない、後者なはず。だけど遥が俺の意思を蔑ろにしたことでどう思うだろう。


 その考えは、結局俺の都合の良い考えを押し付けて考えてるだけに過ぎない。


「……おい!」


 肩を掴まれる。


「え、あれ? どうしました?」


「…………疲れた」


 場所を確認すると、半周したくらいだろうか。


 疲れるには少し早い気もするけど……長年の運動不足なら、しょうがないのかもしれないな。


「少し休憩して帰りますか?」


「ん……いや、少しだけ休憩して、残り半周やってから帰りてえ」


 近くにあるベンチに腰掛ける。


 俺はようやく体が温まってきた頃。だけど雨宮さんは額から汗が流れていた。


 やはり机に向かう仕事なだけに、運動不足は課題となってしまうのだろう。


「だけど悪いな、こんな運動に付き合わせて」


「何言ってるんですか」


「へへ……そうだよな。お前とあたしの仲だもんな」


「そうですよ。どっちみち無理やり付き合わせた癖に」


 どうせ最後には付き合わせられるのだとしたら、最初から従っておく方が心の準備もしておきやすいというものだ。


「………………」


 なのだが、何故か不満そうな雨宮さんがいた。


「どうしたんですか?」


「…………なんか余裕があるのがムカつく」


「そりゃ……雨宮さんよりは運動してますからね」


「そうじゃねえけど…………はあ、まあいいや」


 溜め息一つ吐いて立ち上がる雨宮さん。


 ふわりと俺のジャージがなびいて、下にあるスパッツが垣間見えた。


「おら、後半周して帰るぞ」


「はい」


 残り半周は無言で歩く。


 息を吐く音、風が揺らす葉擦れの音。そして周囲の喧騒。


 そういったものに耳を傾けながら歩いていると、半周はあっという間に終わった。


「あーーーー、終わった!!」


 大きく背筋を伸ばす雨宮さん。


 俺も久しぶりにウォーキングをしたことで、少しだけ体が疲れているのを感じる。


「飯でも食って帰るか。…………いや、先に着替えるか」


「汗もかきましたしね」


「疲れた…………明日筋肉痛になんねえだろうな」


 なるかもしれないな。


 とは言え、これは体を慣らしていかないとダメだけど。


 とまあ、そんなこんなでアパートに帰ってきた俺たち。


「あの、ジャージ返してください」


「え? ああ……………………」


 結んでいた袖を解こうとした手が止まる。


 まさか固結びで解けなくなったとか?


「…………洗って返す」


「え、別にそのままでも……」


「うるせえ! 洗って返す!」


 それ以上反論は許されないようだった。


「はい」


「着替えてまた出てこいよ! わかったな!」


「はい」


 荒々しく雨宮さんの家の扉が閉められる。なんなんだ。


 さて、待たせるわけにもいかないからササッと着替えてしまおう。


 そして二人で外食に出かける。運動後に食べる食事はいつもに比べて格段に美味しかった。


 いくらなんでも食べすぎたように見える雨宮さんだったが……。


 その後自宅で体重計に乗って叫ぶ声が夜になって隣から響いてくるのであった。ごちそうさまでした。

読んでいただきありがとうございます。


もしよろしければ評価・いいね・感想を、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ