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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と訪問販売(推測)


 とある日の昼間の事だった。


 アパートへ帰宅、階段をカンカンと音を立てて上がり自室へと向かうと、隣の部屋がガチャリと開いた。


「おう昼河」


 雨宮さんだった。


 顔だけをドアから出し、こちらを覗き込む。


 ちょっと怖い。


「これ」


 何やら紙袋を手渡される。


 とりあえず受け取り、中身を見てみると。


 中身が空のタッパーが沢山入っていた。


「…………なんか入れて持って来いってことですか?」


「ちげえ。返しといてくれ」


「え、一体誰に――」


「じゃ、頼んだぞ」


 返事を待たずに扉を閉められる。


 なんだなんだ、慌ただしいな。


 裸だったのか?


「………………」


 まさかな。


 とりあえず……持って帰るか。


 俺の部屋の鍵を開け、帰宅。


 荒れ果てた部屋のテーブルの上に、紙袋を置いた。


「一体何なんだろう、これは」


 部屋に一人。俺の独り言に答える人物は誰もいなかった。



――――――――――



 その数日後のこと。


「昼河、これ」


 ドアから顔を覗かせ、紙袋を手渡された。


 とりあえず受け取るために近付くと、何故か顔が引っ込み扉はどんどん閉まっていく。


 手だけがドアから出ていた。


「雨宮さん、最近裸族なんですか?」


「はあ?」


 扉が少し開き、顔が出てくる。


 その表情といったら、俺が射程圏内にいたら間違いなく拳が飛んでくるであろう表情だった。


「なんかこの間といい全然姿を見せないので、見せられない服装なのかと」


「い、いや……それはだな…………」


 続きがありそうなので黙って見守る。


 しどろもどろな雨宮さんだったが、俺の視線に気付いて目を吊り上げた。


「いいから持って帰れ! ちゃんと返しといてくれよ! じゃあな!!」


「え、一体誰に……!?」


 前のタッパーの紙袋が、まだ家にあるんですけど……。


 押し付けられた紙袋を見る。またタッパーだった。


 …………いったい、なんなんだ?


 タッパーの訪問販売に騙されて大量に買ってしまったのか?


 つまり、クーリングオフをしとけ……ということ!?


 帰って早速スマホで調べてみた。


 そんな訪問販売は存在しなかった。



――――――――――


 数日後。


 ここのところ忙しかったらしく中々会えなかった遥と久々にデート。


 その帰りに俺の家に寄ってきたのだが。


 階段を上がると、例の如く雨宮さんの首が出てる。


 ちょっとビクッとした。


「おかえり」


「た……ただいま」


 かなり怖い。


「これ」


 そして紙袋が出てくる。


 一体何なんだ。


 しかし今度の視線は俺に向けられてはいない。


 雨宮さんの目線は、俺の隣の……遥?


「お口にあいましたか?」


「う……うん、だけど、もう……」


「また今度持ってきますね!」


「い、いや……もう……」


 押せ押せの遥。


 たじたじの雨宮さん。


 珍しい構図だった。


 遥が受け取った紙袋の中身を覗き込んでみると、そこには空のタッパーが沢山。


 …………あれ遥のだったのか!!


 あれ、つまり。


「遥、最近忙しかったのは訪問販売のバイトでも始めたから?」


「え? そんなのしてませんよ?」


 あれ?


「俺の家にも大量のタッパーがあるんだけど」


「ああ、それは姫宮先生への差し入れですよ」


 ちなみに姫宮先生というのは雨宮さんの小説家としてのペンネームだ。念の為。


 差し入れ?


 疑問顔の俺を置いて、遥の表情は嬉々としており、対する雨宮さんの表情は少し暗い。


「また今度持ってきますね! それでは!」


「いや、あの……!」


 言い終わる前に遥は俺の部屋に入っていった。


 残されたのは、なんとも言えない雰囲気を纏った雨宮さんと、事態が把握できていない俺。


「……昼河」


「はい」


「彼女が帰ったら……一人で来てくれ」


「え、それは……」


 俺が言い終わる前に雨宮さんの家の扉は閉められた。


 ………………。


 帰ってきたのは夕方だというのに既に薄暗く、秋の日は釣瓶落とし。秋の訪れを感じさせる冷ややかな風と、置いてけぼりの俺だけが残される。


「みんな人の話は最後まで聞こうよ」


 俺の呟きは誰の耳にも届かなかった。


 ………………


 …………


 ……


 遥を送っていったその日の夜。


 雨宮さんの家の呼び鈴を押し、二回ノックする。


 扉の向こう側からくぐもった声が帰って来る。


「昼河か?」


「はい」


「……一人か?」


「ええ」


 鍵が開けられ、扉が少し開く。


「入ってくれ」


 雨宮さんの沈んだ声。


 珍しいな、と思いつつ中に入ると、ジャージの上下に袖を通した雨宮さんの姿があった。


「どうしたんですか、一人で来いなんて」


「………………」


 何も言わない。


 小説にでも行き詰まってるのかな?


 雨宮さんは自分の両袖をギュッと握り、俯いている。


 こんな沈んだ彼女を見るのは初めてだ。


「……どうかしたんですか?」


「……私を見て、何か気付かないか?」


「雨宮さんを見て……?」


 まずは上から見る。


 少しボサボサだけど、艷やかな髪。腰まであるっていうのに、纏めずにそのままにしてるのは邪魔にならないのかな。


 俯いた顔を覗き込む。寝てたのだろうか、少し目ヤニがついている。


「ぐあっ!!」


「見んな」


 見ろって言ったじゃないか!!


 強烈なデコピンが鼻先に直撃、痛みから俺の声は声にならなかった。


 ……じゃ、じゃあ別の所。


 いつものジャージ。前は閉じておらず、下の白いシャツが良く似合う。


 そしてひなたに負けず劣らずの胸が……………………。


「…………?」


 雨宮さんが顔を上げる。


 いかん、俺は変態か。いや、今のは変態だった。反省。


 上半身もいつも通り、下半身も大して何も変わっていないように思えるけど……。


「……………………」


「……………………」


 お互いに無言。


 暗に分からないということを伝えてみたが……伝わっただろうか?


「…………ったんだよ」


「え?」


 何か言ったが、最後しか聞き取れなかった。


「……太ったんだよ!!」


「……え?」


 そうか?


 改めて見てみるが。


「見んな!!」


「ぐあああっ!!」


 今度は鼻先に握り拳が飛んできた。


 あ、ああっ!! ツーンとするっ!!


「お前の彼女が、連日に次ぐ連日差し入れを持ってきてくれるから! 太ったんだよ!」


「……食べなきゃいいのに」


「せっかく作ってくれたのに……勿体ないだろ!」


 その心意気や良し。この世のフードロスは雨宮さんの双肩にかかっていることだろう。


 しかし、女性のそういった機微は男に比べて敏感と聞く。


 素人目の俺より、本人の判断のほうが間違いないのだろう。


「それに…………くっそ美味えんだよ!」


 わかる。


 遥の料理美味いんだよな。俺も少し太った。


「だから、解決方法はこれしかないんだ」


「遥に差し入れを抑えるように言いましょうか?」


「…………いや、最初はそれも考えた。だけどあの美味い料理がもう食えないってのは拷問に近い」


「そんなに?」


「だから、昼河……あたしと付き合え」


 ………………。


「すみません雨宮さん。俺には遥がいるので……」


「……? っ!! 違えよバカ!!」


「ぬああああっ!」


 顔を真っ赤にしながら俺の脛を蹴りつける。


 照れ隠しに暴力振るうの辞めて欲しいんですけど!?


「あたしのダイエットに付き合えってことだよ!」


「わかるかあ!!」


 ダイエットって文言無かっただろうが!


 しかしダイエットか、俺も少し太ったし……たしかに。


「良いですよ」


「あれ、え? マジで?」


「はい。元々体動かすのは好きですし」


 快諾されるとは思っていなかったのだろう。


 拍子抜けといった表情だった。


「じゃあ今からジョギングでも行きますか?」


 俺も一度戻って走りやすい服装に着替えてこよう。


 しかし、俺の目の前にいる女性の目はどんどんと泳いでいく。


「そ、そうだな……じゃあ、明日から…………」


 …………これ、やらないやつだな。

読んでいただきありがとうございます。


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