表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/113

失恋と映画鑑賞会


 正午を過ぎたあたりのうららかな午後、人で賑わう構内をのんびりと歩いていた。


 本日の講義は午前で終わりなので、午後からは時間が空いたことになる。


 帰ってどうしようかな……レポートでもするかなあ。


 いや、それとも映画か? あ、そうだ。こないだの新作上映、今日じゃなかったっけか。


 帰ってからレポートすればいいや。まずは映画を見に行こう。


 よし、そうしよう。じゃあとりあえず駅前の映画館に――


「昼河くん」


「……二夕見さん?」


 誰かに呼ばれた気がした。が、姿は見えない。


 俺を名字で呼び、くんを付けて呼ぶ人は彼女以外知らない。


 幻聴か? いやそんなバカな。


「こっち」


 背中をつつかれる感触。


 振り向くと、笑顔の二夕見さんがそこにいた。


 相変わらず神出鬼没な人だ。


「こんにちは」


「こんにちは、今から昼ご飯?」


「うん、そうなの。昼河くんは?」


「俺は午後から休講になってね。暇だから映画でも見に行こうかと」


 嘘である。本当は楽しみにしていた映画である。


 だがしかし、俺の妙なプライドが妙な見栄を張らせたのだ。


「そうなんだ………………」


 何やら考える仕草。いかん、そろそろ行かないとパンフレットを読む時間が無くなる。


「じゃあ俺はそろそろ――」


 ウキウキの足取りで離れようとしたその時、二夕見さんは俺の足を止めた。


「私も行ってもいいかな?」


「え?」


「映画って一度も見たことないの」


 なんだって?


「一度も?」


 頷く。


「子どもの頃とか、名作アニメ映画とか見なかった?」


 首を横に振る。


「マジで一度も? たったの一度も?」


 頷く。


 マジか。そんな人物この世に存在したのか。


 俺の尺度で人を測るのは間違ってるのはわかってる。だけど、だけどだ。


「映画を見ないなんてとんでもない」


「え?」


 思わず俺は二夕見さんの肩を掴んだ。


 ぐっと顔を近づけ、もう一度言う。


「映画を見ないなんてとんでもない!」


 整った顔立ちが赤く染まるのがわかった。


 普段の俺であればここで慌てて離れる所。しかし今の俺は布教マン。


 映画を愛し、映画を押し付ける、人によってははた迷惑な男だ。


「う……うん、なんか、ごめん」


 俺の迫力に圧倒され、体をのけぞらせる。


「映画を見に行くのは構わないけど、今回のは二年前の続編なんだ。だから見るなら最初からにしよう」


「え、私は別にそれでも――」


「最初からにしよう!!!」


「は、はい……」


 勢いに押されて頷いた。よし、言質は取ったぞ。


 その時、後ろから声が。


「………………こらーーーーっ!!」


 振り返る。二夕見さんを掴んだまま。


 遠くから走ってくる、その女性は。


「あ、志保ちゃん」


 二夕見さんが言う。


 彼女の友人のようだ。


「な…………何してんの!!」


 息を切らせながら駆け寄ってきた志保ちゃんさんは、俺の顔に指を突きつけてそう言う。


「映画を布教する映画布教マンだけど」


「…………何言ってんの?」


 かくかくしかじか。


「そういう人もいるでしょ。押し付けは良くないんじゃないかな」


 なるほど。至極真っ当な意見だ。だけど映画布教マンには聞こえない単語である。


「映画は楽しい」


「だから、それは人による……」


「映画は人生、映画は楽しい。映画は至高」


「いや、だから……」


 俺は止まらない。いや、止まるべきではない。


「映画を見よう。映画を見れば人生は変わる。映画を見たお陰で彼女、彼氏が出来ましたと都内在住の某氏も仰っている」


「さすがにそれはこじつけ……」


 かもしれない。いや間違いなくこじつけだ。


 だけどこじつけが何だというのか。こじつけたとしても説得力があればそれは真実なのだ。いや真実なのかもしれない。


 頑張ろう、真実にするために。


「志保ちゃんさんも見よう。今から見るのは往年の名作、かの恋愛映画だ」


 名前を教える。


「確かに、あれは良い映画よね」


「だろう!?」


 二夕見さんから手を放し、今度は志保ちゃんさんの両肩を掴む。


 驚きに目を見開く。しかし俺はその両肩を前後に揺さぶった。


「それを! 二夕見さんは見たことがないっていうんだ! だから今から上映会をするんだあ!!」


「わわわわわかった、わかったから放して! 吐く、吐いちゃう!!」


 ふう、ほんの少しヒートアップしてしまったようだ。落ち着こう布教マン。


 道のど真ん中で熱弁する俺の姿は行き交う全ての人々の視線を集めている。


「でも、何処で見るの?」


「ふっ……抜かりはないさ」


 かっこつけたは良いけど、誰も見ていないのが少し物悲しかった。



――――――――――



 やってきたのは大学内のフリースペース。


 他にいるのは雑談してる人たちばかりで、片隅で映画を見る程度なら邪魔にもならないだろう。


「久しぶりですね、その映画」


「遥、いつの間に?」


 いつの間にか遥がいた。


 映画が楽しみのようで、目を爛々と輝かせて待ちかねていた。


 誰かが連絡したのだろう。映画仲間が増えることはとても喜ばしいことである、うむ。


 だが。


「二人は部外者では?」


「いいじゃない、面白そうなんだし」


「早く見ましょうよ先輩!!」


 何故かいる部外者である霜崎さんとひなた。


 まあ良いんだけどな。映画仲間が増えることは喜ばしいことだし、うむうむ。


 カバンからタブレットを取り出し、全員が見えるようにテーブルにおいて傾ける。


 さあ、上映開始だ――!!


 ………………


 …………


 ……


 二時間弱の映画だった。


 人の心がわからない少女が心優しい青年と出会い、様々なことを教えられる。


 しかし少女は貴族の令嬢であり、対する青年は平民。


 身分の差から無理やり引き離されてしまう。


 しかし青年は諦めず、何度も何度も足繁く貴族の屋敷に通い、忍び込む。


 何度も逢瀬を重ねるうちに二人の心は惹かれ合うが、その事が貴族の当主に知られてしまう。


 少女が知らないうちに青年は囚えられ、処刑される。


 だが少女は何年経っても待ち続ける……という悲恋の映画だ。


「ひっく……うう……」


 誰かのすすり泣きが聞こえる。


 こんな事もあろうかと箱ティッシュを用意しておいてよかった。


 ティッシュを置いた途端ありとあらゆる手が伸びて一枚、また一枚と減っていく。


 泣き声を抑えるうめき声や、鼻を噛む音。


 そしてエンドロールが終わる。


 タブレットの電源を落とし、振り返ると。


「うう……」


 すげえいた。


 知らない人がすげえいた。


 いつの間にかフリースペースにいた人全員が集まっており、こぞって映画を鑑賞。


 そして全員がもれなく号泣という映画を作った人もさぞ喜ぶであろう感動のシーン。


 みんなティッシュを持って、涙を拭いながら解散していった。


 元々いた五人も漏れなく号泣の嵐。もちろん俺も。


 ………………って、いやあ……?


 一人泣いてないのがいる!!


 二夕見さんだけきょとんとした表情で泣いている人を眺めていた。


「あれえ!?」


 俺の叫び声に体をビクリと跳ねさせるのは二夕見さん。


「ダメでしたあ!?」


「う、ううん……なんでみんな泣いてるのかが、わからなくて」


「えええ!?」


 俺のオーバーすぎるリアクションに少し引いている様子。少しじゃないかも。


「人の気持ちがわからない少女が、青年に感情を教わって! 言ってしまえば青年は少女にとって恩人! その恩人が知らない間に処刑されていて、だっていうのに待ち続ける少女の横顔が……もう…………うおおおん!!」


 解説し、思い出すだけで男泣きである。


「つまり、昼河くんと私みたいな感じ?」


「――――――――」


 え、俺殺されるの? ん、そっちじゃない?


「私は昼河くんのおかげで、好きっていう気持ちがなんとなくわかるようになったんだけど……そういうこと?」


「…………」

 

 なんもいえねえ。


 っていうか友達なんじゃ無かったのか。あれは方便だったのだろうか。


「だ……ダメですからね!!」


 未だ涙目の遥は、俺の腕へと抱きついてくる。


 遥は恨みがましそうな視線を二夕見さんに投げた後、俺を見上げる。


「……ダメですよ?」


 もちろんです!!


 涙に濡れた瞳で懇願されれば、否定できる人間なんていやしなかった。

読んでいただきありがとうございます。


もしよろしければ評価・いいね・感想を、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ