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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と灯台下暗しっていうけど明るい方が良いに決まってる


「はあ、はあ……」


 息を切らせながら、周囲を走り回る。


 地面を間断無く見る。視線だけで穴が開くのであれば地面はクレーターだらけになっているだろう。


 這いつくばる。自販機の下や小さな隙間をくまなく探す。


 恐らくは周囲の注目を浴びていることだろう、だけど今の俺にそれを気にする余裕はない。


 もう一度鞄の中身を改める。


 ……やっぱり、無い。


「はあ~……」


 肩を落として大きな溜め息を吐く。


 そんな事をしても状況が良くならないことはわかっているが、やらずにはいられない。


――旅券を、落としました。


 県外で行われるコーヒーフェス。


 各地の有名なコーヒー店が出店し、様々なコーヒーを味わうことが出来る。


 遥の誕生日プレゼントにぴったりだと思った……んだけども。


 鞄の中に入れたはずの旅券。


 もう一度改めて買うことはお財布事情的に厳しいのだ。


 なので、駅から落としたことに気付いた道程を歩いて探してはいるのだが。


 もう誰かに拾われたか、風に乗って別の所に行ったのか。


「は~あ…………」


 二度目の溜め息。


 もう一度最初から探すか……。


 下を見ながら歩いていると、頭が誰かにぶつかった。


「あ、すみません」


 謝りながら頭を上げる。


 いつもであれば、悲鳴をあげて逃げるのが定番なのだが。


「ジローさん?」


 遥だった。隣には霜崎さんも。


「何してるのジロー。俯いたまま歩いたら危ないよ」


「あ、ああ……ごめん」


 謝りながらも、俺の視線は下方向へ右往左往する。


 さすがにそんな視線の動き方をしていればおかしいとはわかるもので。


 遥も霜崎さんも自分の背後に振り返り、俺の視線に釣られて下を見た。


 しかしその辺りは既に俺が何度も探した場所、何も無いのはわかりきっている……のだけども。


「何かあったんですか?」


 と遥は聞くが、正直に言うわけにもいかない。


 なんて言うんだ? キミとの旅行を計画して旅券買ったけど落としちゃった、てへ。


 言えるかあ!!


「いや、どっかの俺の良心と怖くなかった頃の顔立ちが落ちてないかと思って」


「産まれた瞬間から欠けてるものがあるわけないでしょ」


 と霜崎さんに辛辣なお言葉をいただいた。


「良心くらいあるわい!!」


「じゃあ落ちてないでしょ」


 そういうことじゃない。そうだけど。


 二人は未だ不思議な顔で俺を見る。余程俺が奇行に走っているように見えるようだ。


 ……どうする。何事もなく解放してはくれないだろう。


 かといって正直に話せばダメ男まっしぐらだ、それは御免被る。


 なら探すのを諦めて二人と共にこの場を去る? 改めて後で戻ってくれば良いか?


 …………それが一番マシに思えるな。


「い、いやあ。アンモナイトに似たアスファルトがあるってSNSでトレンドに入ってたから探しに来たんだよ」


 後頭部を掻きながら照れ笑い。


 しかし当の二人は真顔。くっ……ダメか。


「それって結局ただのアスファルトよね。たまたま見えるってだけじゃないの?」


 しかし思ったより信じていたようだ。突っ込みはまあまあ正論だったが。


「ジローさん……本当にどうかしたんですか?」


 対する遥は本気で俺の心配をしてくれているようだ。


 大丈夫。まともなんだ、ただ旅券がまともな場所にいないだけで。


「……なんでもないよ。ただ休日の昼間をそういった余暇で潰すのも良いかと思っただけで」


 嘘をつくのは心苦しい。


 しかしここで正直に言ってしまえばサプライズを目論んでいた俺の愚かな企みは水泡に帰すわけで。


 ……愚か?


「……なら、いいんですけど」


 全然良さそうな顔はしていないが、渋々飲み込もうとしてくれているらしい。


「………………」


 そして何故か霜崎さんはニヤニヤ笑っていた。なんでだ。


「あー、遥。私もジローとその……アンモナイト? 探してみるね」


「え? みーちゃんも?」


「うん、今日は楽しかったよ。ホントありがとね」


 なんだなんだ。どういうつもりなんだろう。


 話の中心にいるはずの俺が訳もわからず二人と交互に見比べる。


「あ……えっと…………?」


「気を付けて帰ってね!」


「うん…………?」


 終始疑問符を浮かべながらその場を去る遥。


 それを見て俺は思った。


「かわいそう」


「あんたの所為でしょ」


 そうか?


「で、何失くしたの?」


「え…………気付いてたのか?」


「彼女に会ったっていうのに気もそぞろに足元ばっかり見てたらそりゃね。最初は浮気でもした瞬間かと思ってたけど、ジローに限ってそれはなさそうだし」


 バレバレというわけか。でも遥は気付いて無さそうだったけど。


「はーちゃんも、なんだかんだで対人経験値低いからね。他の人の機微は気付きにくいのよ」


 俺も。その辺りにはとてもシンパシーを感じる。


 しかし共感している場合ではない。


「で、何落としたの? エロ本? それともDVD?」


「なんでそんな下世話な方向にしかいかないのかなキミは」


「遥に言えないようなことってなったら、それくらいじゃないの?」


「ちがわい。実は……」


 簡単に説明する。


 すると、輝いていた目がどんどんと曇っていくのがわかった。


 そしてこう言った。


「帰って良い?」


「ええ!? 手伝ってくれる流れじゃないのか!?」


「面白く無さそうだったから」


 面白そうかどうかで選ばないで欲しいんだが。


 俺にとっては死活問題なのだ。


「はあ……まあ、はーちゃんの為ならやるしかないか…………」


 そんな心底嫌そうに言われても……。


「んで? 駅からこの辺まで?」


「ああ、もう五往復してるんだけど……」


「もう諦めたら?」


「それは出来ない。せっかく遥が喜んでくれそうな事を思いついたんだ」


 時間を無闇に消費することで取り戻せるのなら、俺の時間なんてどんだけでも使ってやる。


 こうして話している間にも、自転車をどけたりしながら探している。


「ふうん……でも、暗くなる前に帰るからね」


「ありがとう、助かるよ」


「……はーちゃんのためだから」


 それでも助かるのは本当だ、一気に人手が倍になるのだから。


 単純計算で見つかる可能性も倍になる!


 ……流石にそれは無理があるか。


 それから二手に分かれながら駅の方まで戻ってきた。


 流石に駅前ともなると人通りが多くなり、下を見ながら歩くことは困難を極める。


「わあっ!?」


 霜崎さんの悲鳴。


 どうやら下を見ながら歩いていて、誰かにぶつかってバランスを崩したようだ。


 倒れそうになる霜崎さんを慌てて掴む。


「あ、ありがとう…………」


「大丈夫?」


「うん、でもここで転んだ所で軽い怪我で済むだろうから大丈夫だったのに」


 そうはいかないだろう。


 俺のために手伝ってくれたというのに、怪我をするところを静観したままなんて不義理もいいとこだ。


「いくら下ネタ多めの親父風女子だとしても、怪我してもいい理由にはならないから」


「…………なんか一言多いけど、ありがと。…………いい加減離してくれないかな」


 見れば、俺は霜崎さんの胴に腕を回し、後ろから抱きとめるような形になっていた。


 そしてここが天下の往来であったことを再認識。


「ご、ごめん!」


「いや、いいけど。恥っず……」


 俺から離れた霜崎さんは、顔を赤くしながら身だしなみを整える。


 その時だった。


 何故か背筋も凍るような視線を感じた。


 周囲を慌てて見回すが、俺と霜崎さんが外でイチャついていると勘違いしている、野次馬めいた好色な視線だけ。


――いや、いるぞ。


 第六感の天性の感覚が光る。


 今まで六番目のセンスを自覚したことはないが、今はハッキリと感じる。


――誰かに、見られている。


 それは怒りの感情。殺意か、あるいは……。


「じ…………ジロー…………」


 赤くなっていたはずの霜崎さん。


 今は何故か蒼白になっていた。


「あれ……」


 恐る恐ると指を差す。


 その先には…………。


「――――――――」


 おお、神よ。


 嘘だと言ってください。


 どうして私にこのような試練を課せられるのですか。


 指の先、その方向を辿ると。


 頬を膨らませた遥が、俺を睨みつけていたのだった。


 ………………


 …………


 ……


「………………」


 未だ怒り心頭の遥さん。


 転びそうだったから、という正直に伝えても憤懣やる方ないといった風。


「は……はーちゃん…………」


 俺も霜崎さんも取り付く島がなかった。


「みーちゃん……顔を赤くしてた」


「そりゃ……するでしょ、人前であんな……」


「………………むうう……!」


 神は試練なんて与えていなかったのかもしれない。


 全部、俺が見栄を張るためについた嘘が原因なのだ。


 俺の見栄の為に二人の友情が傷つくのは、耐えられない。


「遥……実は……」


 説明した。それはもう深く深く説明した。


 最初は怒りに染まっていた表情も、話しているうちに和らいでいき、最後には少し申し訳無さそうに。


「そう、だったんですね」


「そうなんだ、だから悪いのは俺なんだ」


「そうそう、ジローがサプライズにこだわらなかったらこんな事にはならなかったんだから」


 事実なんだけど、他の人に言われると引っかかるのは何故だろう。


 しかし事実なので言及はしないけども。


「……でも、みーちゃんに抱きついたのは事実ですよね」


「それは……………………はい、そうです」


 転びそうになったから、というのも遥にとっては言い訳にしか聞こえないのかもしれない。


「それでみーちゃんも、満更でもなさそうだった」


「嫌だったわよ!?」


「だから、私にもしてください。それでチャラです」


「聞いてる!?」


 俺に向かって背中を向けて立つ遥。


 視線を霜崎さんに移してみると、はよやれ、と言わんばかりに顎で指図をされた。


 後ろから俺は胴に両手を回す。


 駅前で何をやってるんだ俺達は。


「…………はい、許しました!」


 そう言った遥の顔は笑顔だった。


「じゃあ、三人で探しましょうか」


「いや、もう……ダメじゃないかな」


 陽も傾き帰宅する人が増えてきた。先程より人の流れが何倍にも膨れ上がっている。


 ここからは暗くなってより一層視界が悪くなるだろう。


「じゃあジローさん、最後にカバン見せてください」


 言われた通りカバンを渡す。


「ジローさんのカバンはですね、裏側が少し解れてるんですよねー」


「え、そうなの?」


 知らなかった。


 遥が探っているところを見ると、確かに裁縫が解れてポケットのように何か入りそうな空間があった。


「はい、これですか?」


「……………………これだあ」


「ジロー……あんたねえ!」


 最初から事情を説明していれば良かったのかなあ……。


 良かったんだろうなあ。


「っていうか、なんでジローのカバンなのに、はーちゃんのほうが詳しいのよ!!」


「違うよみーちゃん。ジローさんのだから、私も詳しいんだよ」


 そう言って胸を張る遥だったが。


 俺も霜崎さんもちょっと言ってる意味がわからなかった。

読んでいただきありがとうございます。


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