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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と目薬って失敗する人案外多いよね


「…………くそっ!!」


 自室で一人、悪態をつく。


 ベッドに腰掛け、天井を見上げた。


 視界は見慣れた天井に支配される、そして俺は右手を持ち上げた。


 手に持った小さなプラスチック製の容器を逆さに向け、俺の眼前に。


 右手に力を入れる。それはまるで俺の小さな勇気を振り絞るかのように。


 力を込めたことによって微かに震える右手を意志の力であるポイントを捉えた。


 そう、そこだ。


 粘液性の水滴が容器の先から今、まさにこぼれ落ちる。


 容器からふるい落とされた小さな水滴は。


 …………俺の胸に落ちた。


「くそうっ!!!!」


 目がかゆい!! 目がしぱしぱする!!


 目薬をしたい!! なのに目的の場所に落ちない!!


「くそーっ!!」


 ベッドの上でバタバタと暴れてみる。


 が、舞った埃で余計目が痒くなる始末だった。


「もう一度……もう一度だ」


 上を見上げる。


 左手で目を無理やり見開かせ、右手を持ち上げ。


 ノックの音が聞こえてきた。


「ジローさーん?」


「開いてるよー」


 見上げたまま返事する。


 ガチャ、という扉が開いた音とともに、目薬は俺の口の中に入った。


「ぶえっ!!」


「何してるんですか……ってなんでそんな胸がびしょびしょに!?」


 零した水滴は数知れず。


 俺の胸元を潤す代わりに俺の目は乾燥しっぱなしであった。


「…………目薬が、はいらない」


 思ったよりも情けない声が出た。


 そんな俺を見て、遥はにんまりと笑う。何故。


「ジローさん、ここにどうぞ」


 俺の隣に座ったかと思えば、膝をポンポンと叩く。


「……?」


 疑問を浮かべながら、俺は遥の膝の上に頭を置いた。


 すげえ落ち着く。


「向きが違います、よっと」


 俺の頭を両手で掴み、俺を上に向けさせる。


 その動きに逆らわないように、身体を捩って仰向けへと体制を整えた。


 目の前に覗き込む遥の顔。とても可愛い。


「ジローさんは意外と出来ないこと多いですよね~」


「その顔本当に意外と思ってるか?」


 ニヤニヤと微笑む顔は、まるでダメな子が可愛くてしょうがないという表情だ。


「さ、目薬貸してください……ってもう全然無いですね。この前買いませんでしたっけこれ」


「全部俺の服が飲んだ」


 あくまでも俺が失敗したわけじゃない、という意地からの言い訳を聞いて、遥は微笑む。


 ダメだ、何を言っても無駄なようだ。


 遥が指で俺の目を優しく開く。体の力を抜き、成り行きに身を任せる。


 目に冷たい感触。あっという間の出来事だった。


 もう片方もすぐに終わる。…………なんだったんだろう、一人で奮闘してた時間は。


 目を瞑り、起き上がろうとする俺の肩を抑えて膝の上に寝かしつけられる。


 柔らかな感触と心地よい体温、鼻をくすぐる良い匂いに心身共にリラックス。


 思わずあくびが出た。


「ふふ、寝ても良いんですよ?」


「……や、せっかく一緒にいるんだから寝るのは勿体ないよ」


 そういいながらも俺は起きようとしないし、遥は俺の頭を撫で続ける。


 ……………………。


 ぐう。


「はっ!?」


 いかん、本気で寝てしまいそうだ。


 体を起こす。今度は遥は止めようとしなかった。


「よ……よし! 何見ようか!?」


 今日は家で映画を見ようと話していたのだ。


 寝てしまっては映画どころでは無くなってしまう。


 少し残念そうな遥を尻目に、テレビを点けて配信サイトを表示する。


 あれを見ようこれを見ようと話している間にも、遥は料理をしてくれていて、見る映画が決まった頃にはそれはもう豪勢な食事がテーブルの上に並んでいた。


 とても美味しい料理を堪能しながら、隣同士に並んで映画を見る。


 手を繋いだり、肩を寄せ合いながら見る映画は、いつも一人で観る映画とはまた違った楽しみがあった。


 うん、またやろう。絶対やろう。



――――――――――



 後日。


 一人で街を歩いていると、見知った顔に出会った。


「ジローじゃん」


「みーちゃ………………霜崎さん」


 遥からはみーちゃんという名称で話されることが多いので、頭の中でみーちゃんと呼ぶことが増えたことによる弊害である。


「……もうみーちゃんでいいよ」


 そういうわけにもいかない。会うのはこれで三度目だというのに、そこまで馴れ馴れしいのはちょっと。


「そういえば今更だけどさ」


 スマホで何か確認してから、改めて俺の顔を見る霜崎さん。


「はーちゃんの誕生日って何かした?」


「……………………」


 誕生日?


 生誕祭?


 何か?


「……何もしてないのね」


「…………いつ?」


「八月よ。8月11日」


 もう二ヶ月も過ぎてんじゃん!


 それに、俺と付き合う前に誕生日が来てたのか。


「ジローと付き合う前だっけか。それならまあしょうがないのかな」


 とは言え、知ってしまったら何もしないわけにはいかない。


 スマホのカレンダーに遥の誕生日をメモした後、何をプレゼントするか考える。


「私から聞いたって言わないでよ? 余計な気を使わせたって怒られるんだから」


「いや、無理だろ。霜崎さん以外から知る方法なんて本人に聞く以外ないんだし」


「………………それもそうね。しょうがない、怒られる準備だけしておきますか」


「ところで、霜崎さんって今年何をあげたんだ?」


 顎に指をおき、少し上を向いて考える。


「クリスタルの動物の形をした置物だったはず…………ほら、こういうの」


 向けられたスマホの画面を見ると、小さな動物たちがずらりと並んでいた。


「うーんー……」


 考える。何が良いだろうか。


「なんか無いかな?」


 目の前の女性に聞いてみる。長年の友達なんだ、何かヒントになれば……。


「元々はーちゃんって物欲とか欲求ってあんまり無いのよね。だから何をあげても喜ぶし、逆に大喜びするものってほとんど無い……わね、うん」


 記憶を掘り返しながら言っていた。


 しかし、確かに何でも喜びそうな感じはするなあ……だけどせっかくなら大喜びするようなものをプレゼントしたい。


「…………車とか?」


「俺も持ってないのに?」


 それに喜ばないだろう。喜ぶわけがない。


「じゃあ……クリスタルじゃない動物とか」


「木彫りとか?」


「もしくは生きてるやつとか」


 いや驚くだろうけど。


 喜ぶとなったらまた別の話だろう。それに、


「遥の家飲食店だし……」


「あ、そうか」


 飲食店で動物は飼育しづらいと聞いたことがある。


「じゃあ下着とか!」


「相談乗る気あるのか?」


 中々にイロモノばかりを提案される。


「いいじゃない。自分が気に入ったヤツを身につけてもらえるんだよ?」


「やめろぉ! まだ陽が高いんだぞぉ!」


 それに。あれ以来まだ…………ねえ?


 俺の表情で気付いたのか、霜崎さんは愕然とした表情をした。


「嘘でしょ…………まだなの?」


「何が……というだけ無駄なんだろうな、その表情は」


「あんた本当に下半身にモノついてんの? 産道に置いてきた?」


「やめろぉ! 人通りがあるんだぞぉ!」


 興味がないわけじゃない。


 ただ、一歩踏み出しにくいだけだ。


 あれは酔った勢い……というか、酔っててほとんど覚えてないんだけど。


「いや昼間っから生々しい話ばっか!!」


「だって信じらんないんだもの。中学生じゃあるまいし」


 これ遥のプレゼントの話だよな? どうしてこんな話になった?


 ほら、ただでさえ俺の人相のせいで注目浴びやすいのに、通る人がすごくこっちを見てる。


 霜崎さんは人の視線が気にならないタイプなんだろうか。


 俺は小さい頃から人の視線に晒されることが多くて、過敏に反応してしまうんだが。


「まあ、はーちゃんは大体何でも喜ぶから失敗することはないと思うわよ。けど……」


「ケーキはやめとけ、だよな」


「そうね、誕生日ペペロンチーノ辺りなら喜びそうだけど」


 喜びそうだけども。


 パスタでロウソクを形作れば良いのか?


 …………いや、立たないだろうな。


「まあ、頑張んなさい」


 俺の肩をポンと叩いて去って行った。


 そうか、誕生日か……。


 大学までの道すがら、プレゼント内容に頭を捻り続けるのだった。

読んでいただきありがとうございます。


もしよろしければ評価・良いね・感想など、よろしくお願い致します!

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