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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と売れっ子小説家姫宮ヒメ


 拡声器いらずの持ち前の大声で叫ぶひなたを、俺とお隣さんは強制的に引き込んだ。


 俺はひなたを羽交い締め、お隣さんは口を塞いでお隣さんの部屋へと連行。


 誰かに見られて無くてよかった。本当に良かった。


「ぷはっ…………浮気先輩」


「名字みたいな感じで呼ぶな」


 ジト目で睨みつけてくるひなた。しかし頭から足の先まで誤解なのである。


 お隣さんはひなたをしげしげと眺める。


 顔、胸、足。


 後頭部、背中、尻。


 エロ親父かな?


「んで、本命はどっちなんだ?」


「え?」


 俺とひなたの声が重なる。なんだその誤解。


 ひなたを彼女だと思われたのは初めてだった。


「ちょ、ちょっと待ってください。こいつは俺のバイトの先輩で後輩なんです」


「何言ってんだお前」


 深呼吸を一度する。


「………………」


 お隣さんは俺のことを睨みつける…………いや、普通に見てるだけだな、目つき悪いだけだ。


 ひなたは部屋をキョロキョロと見回している。お前も当事者なんだぞ。


 深呼吸を二度する。


「………………」


 あー、さっきの甘いパンがまだ胸に残ってる感じがする。ちょっと胸焼けしたかな。


 お隣さんのこめかみがひくついた気がした。まあ気のせいだろう。


 ひなたは勝手に奥の部屋へと行った。少し遠慮しろお前は。


 深呼吸を三度する。


「………………」


「はよ喋れや!!」


 怒鳴られた。とても理不尽である。


 しかし怒鳴られすぎた所為か、少し慣れてきた気がする。決して適性があるわけではない、念の為。


「えー、この女は。俺のバイトの先輩なんです。そして人生の後輩なんです」


「…………殴っていいか?」


「なんで!?」


 ちゃんと説明したのに!!


 奥から戻ってきたひなたがちゃんと説明する。


 あれ、俺もそう言った気がするんだけどな?


 ………………。


「なるほど。こいつの可愛い可愛い後輩ちゃんか」


「そうです。ちゃんと可愛がってくださいよ先輩」


「黙れ」


「女の子への口の利き方知らねえのかてめえ」


「お黙りあそばせ」


 頭を殴られた。でもあんまり痛くない。


「にしても、こんなボロアパートに住んでるくせによく女の出会いがあるよな」


「同じアパートに住んでる人のセリフとは思えませんね」


「眠れたら何処だって良いんだよ。まあ今日は邪魔されたけど」


「その節はご迷惑をおかけしました」


 まあいいけどよ、と言って倒れるように床に寝そべる。


 とても女性的な双房が艶めかしく揺れた。


「スケベ」


「………………」


 ひなたの咎める視線に何も言えない。


「でもお姉さん、思ってたんですけど……」


「あん?」


 首だけ起こし、ひなたの方を見る。


 ひなたはローテーブルに頬杖をつきながら、お隣さんを見て言った。


「もしかして、姫宮ヒメ先生ですか?」


「………………え、そんな可愛らしい名前なの? こんな――」


「こんな、なんだ?」


「い、いえ……」


 厳ついのに。殴られそうだから言わない。


「よくわかったな。ギャップがエグくて基本的に誰も気付かないもんなんだけど」


「え、有名な人なの?」


 ひなたは答えず、スマホを操作し始める。


 そしてこちらに向ける。それはインタビュー動画のようなサムネイルだった。


『この度映画化する『私はゾンビになるなら繭になりたい』今日は原作者の姫宮ヒメ先生に来ていただきました』


 なんつータイトルだ。


 そうして画面の端から現れるのは、ドレスを着飾った美女。


 黒い髪が綺麗にまっすぐと腰まで伸びており、少し切れ長な目尻は化粧により少しタレ目に。


 口紅を淡く塗った唇が艶めかしく動き、インタビュアーの質問に流暢に答える姿。


「え?」


 第一声はそれだった。


 お隣さんを見る。


 まっすぐに伸びているがまだボサボサな黒く長い髪。


 赤いフレームの向こう側には切れ長な瞳、レンズ越しにより一層鋭利に映る。


 買ってきたビールを流し込む唇。結局飲むのかよ。


 スマホを見る。


 柔らかな笑顔だった。


 お隣さんを見る。


 睨まれた。


 スマホを見る。


 是非ご覧になってください、と柔らかく手を振っていた。


 お隣さんを見る。


 手は固く握られ、俺へと真っすぐ飛んできた。


「痛い!」


「何度見してんだ!!」


 殴られた肩を擦りながら、ひなたへと向き直る。


「よくわかったなお前……」


「大大大大大ファンですから!」


「っていうか、お隣さん小説家だったんですか?」


「あー、まーなー」


 やる気無さそうに寝そべっていた。


「っていうか姫宮ヒメはペンネームだ。本名は雨宮 雫ってんだ」


「はあ……」


 そういうわけじゃないのだが、興味無さそうな溜め息が出てしまった。


 それが気に食わなかったのか、寝そべったまま脚を繰り出してくる。


「お隣のよしみだ、名乗ってやったんだからお前も名乗れよ」


 大して力を入れてないのはわかる。というか初対面だっていうのに妙に距離を詰めるのが早い。


「ああ、はい。俺は昼河 次郎って言います」


「そうだ昼河、今度から定期的に差し入れしろよ」


「本気で言ってます?」


「大丈夫だって、ちゃんと金は渡すから。レシート貰ってこい」


 そういう問題か?


 まあ隣だし、ついでだからいいけど。


 ナチュラルにパシられているというのに、何故か嫌な気がしないんだから不思議なもんだ。


 ……いや、俺がパシられたがってるんじゃなくて、雨宮さんがパシり慣れてるってだけだよ?


「これ、今書いてるやつですか!?」


 ひなたは勝手気ままに部屋をうろつき、さっき俺が読み上げてた紙の束を見つける。遠慮知らないのかこいつ。


「ああ、そうだけど……ファンだって言うなら読むのは無しな」


「ええー!!」


「完成するまで楽しみに待ってろ」


「あれ? 俺には読み上げさせたのに?」


 そう言うと、雨宮さんは少し恥ずかしそうに顔を背ける。


 そしてひなたは羨ましそうに俺を見ていた。


「あたしが書いてるのは女性向けのラブロマンスだからな……。お前なら知らないと思ったんだよ」


「どうするんですか、もしも俺が姫宮ヒメの大ファンで少女漫画からレディコミまで嗜むような好青年だったら」


「キモいって言って部屋から追い出す」


 ひどい。


「結果的に何もなかったんだから良いだろ。終わり良ければ全て良しだ」


「自衛意識が薄すぎる……」


「っていうか先輩が読み上げたってなんですか? ズルくないですか? 私も聞きたいです!!」


「だってよ?」


 ニヤニヤして俺を見る雨宮さん。


 頬を膨らませながら俺を睨むひなた。


 そして近くにはあの原稿用紙。


 また読まないとダメなのか……?


「はあ…………『俺は君のすべてが欲しい。その声、体……心。何もかもが欲しい。こんなに人を愛したことはいまだかつて無かった。俺は君のすべてを愛している』」


 やけに情熱的な男の人だな……。


 でも創作だもんな、これくらい激しい方がいいのかもしれない。


「これでいいんですよね?」


「………………」


「………………」


 二人は何やら恍惚とした表情で俺を見る。


 なんか間違ってた?


「雨宮さん? ひなた?」


「はっ!?」


 トリップしていたのだろうか。我に返ったようだ。


「ひ……姫宮先生、先輩の破壊力が凄いですよ」


「ああ……声が低い所為かこういう静かに情熱を燃やすタイプがやけにしっくり来るな。あたしの妄そ…………構想してる人物像にピッタリ当てはまるんだよな……」


「…………あのー」


「……………………今なら書ける気がする。この後落石が起きるんだ、そんで川が氾濫して男が流され……主人公が人工呼吸って言いながらキスをする……!!」


 何やらブツブツ言いながらパソコンに向かい始めた。


 っていうか自然災害ひどいなその地域。


「そして主人公の初めての唇を奪ったという罪で男の人は投獄されてしまうんです! それをこっそりと脱獄させる主人公!!」


 そしてひなたも参加した。


 いいのかそれで。


「良いな!!」


 いいらしい。


 二人でキャッキャと盛り上がり始め、俺は何故か蚊帳の外。


 盛り上がる二人を残し、俺はそーっと家を出た。


 音が鳴らないように扉を閉め、天を仰ぐ。


「…………今日もいい天気だなあ」

読んでいただきありがとうございます。


もしよろしければ評価・良いね・感想など、よろしくお願いします!

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