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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と今カノと元カノそして出来上がったストーカー


 夏も終わりに近付き、幾分か過ごしやすい秋の情景が垣間見える今日この頃。


 うららかな陽気に鼻歌を歌いつつ、周囲からの警戒度を上げながら大学の門をくぐる。その瞬間だった。


「昼河くん」


「ヒエッ……」


 門の陰からぬっ……と現れたのは女性のシルエット。


 誰何するまでもなく、俺を名字で呼ぶのは一人しかいない。


「ふ……二夕見さん、おはよう」


「おはよう、昼河くん」


 あの日以降、ちょくちょくと姿を現すようになった彼女だが。現れ方がなんか変だった。


 モンスターとのランダムエンカウント感というか、物陰からキノコが生えてくるかのような唐突さ。


 俺を一番驚かせた人が優勝などという競技でも知らない所で開かれているのだろうか?


 俺の疑心暗鬼を知ってか知らずか、目の前のおっとりさんは小首を傾げてこちらを見てくる。


「あ、ひょっとして、昼河さん……の方が良かった?」


 そして見当違いな推論だった。


「もしかして……名前の方がいい、とか……?」


 更に勘違いは加速していく。


 すべての視線をポジティブに受け取る彼女は、顔を赤らめ上目遣い。


 流石に何か言わないと気が付けば友人から親友にまでレベルアップしているかもしれない。


 …………それはないか。


「二夕見さん……どうしてここに?」


「同じ大学だもん」


 そりゃそうだ。でもそうじゃない。


 学部が違うのであれば講義の開始時間も変わる。それに、何故門で待ち構える必要が……?


「今日、昼河くんは午後から講義受ける予定だったもんね? だからこの時間に待ってれば会えるかなって」


「…………言ったっけ?」


「言わなくてもわかるよ」


「………………」


 誰だ彼女をこんな風にしたやつは。


 怒らないから正直に名乗り出なさい。


 親衛隊が出来るほどの大人気美少女キャラクターが、今やストーカーに片足突っ込んだ状態に変貌していた。


 見ろ、この周囲の視線を。


 かつて、二夕見女史は俺に強制的に彼女にされた、という噂が広まっていた。半分事実だけど。


 その噂が流れ始めた時、俺にもたらされる視線はこの世の全ての悪意を煮詰めたような視線ばかりだった。


 人の噂も七十五日。まだ経ってない気がするけど視線も少し和らいで来た頃にこれである。


 しかも無理やり付き合わされたと評判の彼女の方から話しかけているではないか。


 それに笑顔で。これはもう周りの人間がフリーズすること請け合いなのであった。


「私ね、今まで人をちゃんと見たことが無かったのかも」


「……え? あ、うん」


 いきなり何の話だろうか。


「見た目ばっかり見てきて、その人の中身を知ろうとしてなかった」


 これはこんな往来で話して良い内容なのだろうか。


 行き交う人々が目を丸くしながら通り抜けていく中、二夕見さんはまるで周囲など目に入っていないかのように語り続ける。


「昼河くんが告白してくれた時、外見の怖さしか頭の中に無かった。中身はとっても良い人なのにね」


「それは……俺よりも前に告白した人にも当てはまるんじゃないかな?」


「うん、そうかも」


 その表情はとても晴れ晴れとしていた。


 告白をしたときや、別れ話をされたときのような怯えた表情の面影はまるでない。


 こうしてみると……可愛らしい顔をしてるんだよなあ。


 ……はっ!?


「ひ、昼河くんっ!?」


 冷静になるべく頭を壁に打ち付けると、当たり前だが驚きの声が上がる。


「ご心配なく。午睡に明け暮れないためのただの脳トレですから」


「心配するよ……色んな意味で」


 仰るとおりで。


「ところで、聞いてみたいことがあったんだけど」


「なになに?」


 俺からの興味がそんなに嬉しいのか、目を輝かせて見上げてくる。


「なんで俺と友達になりたいって言ったんだ?」


 あれだけの出来事があった後だ。その上で友人関係を求めてくるのは酔狂の域を越えている。


 少し考えてみたけれど、俺には思い当たるフシが無かったのだ。


「素敵だと思ったからだよ?」


 至極あっさりと。


 あっけらかんと真顔で答える二夕見さん。


「それは顔面凶器の俺のことを言ってるのでしょうか」


 西に泣きじゃくる赤子がいれば、俺を見て涙のアーチを形作り。


 東に職務に熱心な警官がいれば、俺を見るなり手錠を手に掛ける。


 そんな悪鬼羅刹と謳われて久しい俺が、素敵だって?


「うん、そうだよ」


「眼科の予約しておこうか?」


 もしくは脳神経外科。


「大丈夫、私両目とも1.5だから」


 そういう話じゃなくて。


「私ね、前に見たんだ。昼河くんが構内で、誰かと笑い合ってるところ」


 構内で喋る相手となると、相手は一人しか居ない。


「その時に思ったの。私は外見ばっかり見てて、中身を見てなかったんだなって」


「…………まあ、逃がした魚は大きいって昔から言うからね」


「うん、ほんとに」


 ……おおう。この湿っぽい空気を払拭すべくふざけただけなんだけど。


 肯定されるとは夢にも思わず、二の句が継げない状態に。


「だから、まずは友達になろうと思ったの。…………まずは、ね」


 そんな意味深な言い方されても困る。


「あーっと、もうすぐ講義がはじまるぞう」


 腕時計を確認する振りをして、この場から離れようと画策する。ちなみに腕時計はしてない。


「大丈夫、後15分あるよね?」


「…………なんで知ってんの?」


 怖いんですけど。俺は彼女の何の扉を開いてしまったんだろう。


 可能ならば今すぐ閉めて鎖でグルグル巻きに施錠したいところだが。


「聞きたい?」


「いえ別に」


 最早手遅れのようです。


 ……そして。


「…………ジローさん?」


「……………………」


 いま、いちばん、あってはいけないひとの、こえが、しました。


 油が切れた歯車のようにぎこちなく振り返る。


 そこには、メガネを掛けた彼女の姿。


 いつもであればメガネが似合うなあ、とか。やっぱ可愛いなあ、とか心中で惚気けるところなんですが。


 俺を間に挟み、女性同士の視線が絡み合う。


 その視線の導線はまるで導火線。すぐに火が点くことだろう。


「……こちらの方は?」


 遥はメガネを仕舞い、少しだけ口角を上げてにこやかに尋ねてくる。


 なんでメガネ仕舞った?


 戸惑う俺の横に立つように、二夕見さんが前に出る。その笑顔はまるでミスコンに出るかのような満面の笑顔。


「初めまして。私、昼河くんの『初めての』彼女の、二夕見 花蓮です」


 ことさらに初めて、を強調する。


「………………」


 遥のにこやかな笑みが引き攣るのが見て取れた。


 マジで怖い。


 しかし引き攣るのは一瞬、にこやかだった笑みは極上のスマイルへと変わる。


 俺の腕を取り、胸に抱くように引き寄せた。


「初めまして。私はジローさんの『現在の』彼女の、朝野 遥です」


 二夕見さんの目頭がピクリと揺らいだ。


「……………………」


 俺? 俺は今日の晩御飯に何を食べるか空想して現実逃避をしていた。


 しかしそんな時間も長くは続かない、矛先は当然こちらへ向くのだ。


「ジローさん、どういうことですか」


 いつものトーンではなく、とても低い声でまるで咎めるように。


 いや、まるでじゃないな。咎めてるんだこれ。


「えっと……えっとだな?」


 言葉が出てこない。こういう時こそちゃんとした説明をしなければならない。


 ならないのだが。なんと言えばいいのか。


 元カノと友人関係を構築しましたって? 二夕見さんの振る舞いは友人のそれではない。自惚れじゃない。


「………………」


 冷ややかな遥の視線に晒されながら、答えに窮している、その時だった。


「こらあああああああっ!!」


 大学の棟内から誰かが叫びながら走ってくる。


 後もう数歩、といった所で渾身の跳躍。


 その様はまるで狩猟動物の動き。その動きをもって……二夕見さんの襟首を掴んだ。


「花蓮! ちょっとあんたこっちに来なさい!」


「あ……ああっ!! 志保ちゃん、志保ちゃーーーーーん!!」


 知らない人の名前を断末魔のように叫び、二夕見さんは引きずられていった。


 残されたのは気まずい雰囲気の俺と遥のみ。


「………………」


「………………」


 どういう感じに声を掛けようか。


 人の往来が少ないのがまだ救いだ。好奇な視線に晒されずに済むというもの。


 いやまあ、普段から注目されがちな俺としては、好奇な視線でもなんでも慣れているといった感じではあるが、しかしながら晒されるのは俺だけではなく、遥も含まれてしまう。自分の彼女が意味深な視線の渦中にいるのは避けたいと申しますか――――


「ジローさん」


 余計なことを考えて気を紛らわせていたが、そうは問屋が卸さない。


 強制的に現実に引き戻した遥の表情は。


「大好きですよ」


 笑顔だった。これは大岡裁きの期待ありか?


「でも」


 笑顔は唐突に影を潜め、そして繰り出される右手。


 遥の右手の手のひらは俺の頬をしっかりと捉え、乾いた音を立てて振り抜いた。


「今は嫌いです」


 瞳に涙を溜めながら、大学の中へと走り去っていく。


 その間、一度も振り返ることはなかった。


 叩かれた頬を抑え、呆然とすることどれくらいか。


「…………あ、講義」


 とは言え今日はもう気分ではない。


「……帰ろう」


 うららかな陽気の午後は、暗く沈んだ空気ですっかり鳴りを潜めてしまった。

読んでいただきありがとうございます。


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