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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と友達事情。昼河次郎編


 Q.貴方に友達と呼べ――


 A.――いないっ!!!!



――――――――――



「……ってことがあってな、どうしてやろうか一晩考えたよ」


「それで、どうしたんですか?」


「どうもしなかった。ただのアンケートに腹を立てるのも不毛だしね」


 いそいそと掃除をしてくれる遥の背中を見ながら、ぶつぶつと愚痴る。


 まったく、なんなんだあの変なアンケートは。そんな事を聞いてどうする気なんだってんだ。


 友達がいなかったら何か不都合でもあるのか? 友達がいないヤツはそんなに不幸なのか?


「と言う割には、割と引きずってるみたいですね」


「…………そ、そんなことないし」


 俺の顔をチラリと見て、クスリと笑う遥。


 その表情を見て、なんだか恥ずかしくなった。


 決してバカにしてる感じではなく、どちらかというと……弟とか子どもを見るような視線?


 それもそれでどうなんだろうな。


「にしても……やっぱ悪いよ。俺の部屋なんだし俺が掃除するべきじゃ――」


「良いんです、好きでやってるんですから。それにジローさんじゃちゃんと綺麗にはなりませんし」


 失礼な。反論できないけど。


 確かに俺が掃除した後と遥が掃除した後じゃ天地のほどの差がある。


 まるで新品と中古くらい違う。


 だからといって、俺がやらない理由にはならない気がするが。


「私の楽しみを奪わないでくださいね?」


 これなのだ。


 人に尽くすのが好きなのは理解したけれど、これじゃあ俺はただのダメ男だ。


 このままではいかん。せめて何か出来るようにしないと。


 掃除は圧倒的差がある、ならば洗濯くらい……。


「あ、ジローさん。畳んでおいたので仕舞っておいてくださいね」


 シワ一つ無い綺麗な洗濯物がそこにはあった。


「ありがとう」


 礼を言った後、服を仕舞ってあるプラスチックの洋服ダンスを開く。


 その一番上には俺が畳んであろうしわくちゃの洋服が置かれていた。


「………………」


 そっと上に乗せて、無言で閉じた。


 ダメだ、経験値の差がありすぎる。


 ならば、ゴミ捨てだ。それなら毎日のようにやってるから自信がある。


「ジローさん、そういえば燃えるゴミの袋の中にペットボトルが入ってましたよ?」


「え、ペットボトルって燃えないの?」


「燃えますけど……資源ごみの日に出さなきゃダメなんですよ」


 なにそれ、燃えるゴミと燃えないゴミ以外にもあるのか?


 ……うわ、ほんとだ。週に一回ある。


「……まさか………………いえ、深く聞くのはやめておきます」


 そうしてくれると助かる。


 新しく透明のゴミ袋を用意すると、中にペットボトルを放り投げる。


「あ、ダメですよ。ラベルとキャップも分けないと」


「……そうなの?」


「はい、それも別の日に回収が来ますから」


 同い年のはずなのに、生活力のレベルがまるで違う。


 今までの俺の頑張りは、彼女にとっては毛ほどの労力でもないのだろう。


 ……よし、ごみ捨ても辞めだ辞め! 次はなんだ!


「………………」


 キッチンに目がいった。


 二口コンロの片方にはフライパンが乗っている。


 …………これは……。


「……ジローさん、料理はしちゃダメですよ?」


「はい」


「前少し奮発したフライパンを一日でダメにしたのを忘れたんですか?」


「覚えてます、はい、すみません」


「触って良いのは冷蔵庫だけです!」


「はい」


 というわけで料理は却下だ。最悪火事になるだろう。


 うーむ、掃除、炊事、洗濯もダメと来た。


「……ジローさんは」


 気が付けば遥は近くまで来ていた。


 後ろから腰に手を回し、抱きついてくる。


 柔らかな体に、暖かい体温。


 心地よい感触に、脳がクラクラする。


「何もしなくていいんですよ。私がいるんですから」


 それは甘言。


 しかし、そういうわけにもいかない。


 遥の彼氏として、何でも一通り出来る人間にならなければ。


 腰に回された手の上に、手を重ねる。


「まだまだ遥には及ばないだろうが、頑張るさ」


「でも、私の楽しみなんですけど……?」


「だけど、遥の彼氏はダメ人間なんて、周りに思われたくないからな」


「それはわかりますけど……………………あっ!!」


「うわびっくりした」


 耳元でいきなり叫ばれた。


「そういえば、私の友達がジローさんに会いたいって言ってきてるんですけど」


「友達……?」


 友達とは?


 友達? 友人? 知り合い? 家族?


「小さい頃からの友達なんです」


「小さい頃から!!」


「そんな驚きます?」


 そりゃ驚くに決まってる。


 思いを馳せること幼少期。


 幼稚園では…………あれ、幼稚園覚えてないな。じゃあ次だ次、小学生。


 低学年の頃から顔が怖いと言われ続け、班決めもハブられ続け、後ろの席の子にプリントを回す際に泣かれる時も少なからずあった。


 流石に子どもの目付きの悪さは大人には効かない。だが物笑いの種にはされていたのを覚えている。


 顔が怖いだけで泣かれる俺は、大人には大層面白い存在に見えていたようだ。


 小学生高学年や中学生にまで行くと、ある程度今の面影は出来てくる。


 その頃になると泣かれるなどというよりは盛大に避けられていた。


 高校にもなると、割とやんちゃな人間が増えてくる。目付きの悪さから因縁をつけられることも少なくなかった。


 しかしケンカなどしたことない俺にとって、不良なんて恐怖の具現化でしかない。


 だからといってへりくだるのも嫌だった俺は、睨むことしか出来なかった。だが逆にそれが功を奏した。


 睨むだけで怯んでくれた不良たちは、何もせずに立ち去っていく。


 あの時ばかりは自分の顔立ちに感謝したものだ。


 …………いや、顔立ちが怖くなければ絡まれなかったのか?


 過ぎたことだ、深く考えるのはやめよう。


 そして大学。今現在。


 あいも変わらず人には避けられ続けているが、可愛い彼女が出来て順風満帆。


「…………そんな彼女に友達だって!?」


「あ、おかえりなさい」


 回想に入ったのを腰にしがみついたまま待っていてくれたようだ。優しい。好き。


 ってそうじゃなくて。


「女の子ですよ、みーちゃんって言うんですけど」


「チャンが名前?」


「何言ってるんですか。あだ名ですよ」


 知らない人を初見であだ名で呼ぶとか、遥のほうが何言ってるんだ。


「……でも、なんで会いたがってるんだ?」


「………………それは……」


 歯切れが悪くなる。それだけで何となく感づいた。


「顔が怖いから、俺に脅されてるんじゃないか、って?」


「…………はい。でも、会えば違うってわかってくれると思うんです」


 そりゃそうだ。会った上で誤解されていたくない。


「……どうでしょう? 私にとっては親友なんですけど」


「親友!!!!」


 人生で誰よりも発したことのない言葉!


 俺には死ぬまで縁の無さそうな単語!! 


「………………」


 落ち着け、のけぞって痙攣してる場合じゃない。


 遥の……し、親友なんだ。俺も失礼のないようにしなくてはならない。


 それに、し、親友に誤解されたままっていうのもよくない。


 ならば会って誤解を解くしかあるまいて。


「スーツで行けばいいかな?」


「両親に会うんじゃないんですから」


「両親に会うほうが緊張しなさそうだ」


 俺の言葉を聞いて、遥は背中越しにクスクス笑う。


「じゃあ、みーちゃんの都合聞いてから改めて言いますね」


「ああ、わかった」


 遥を腰につけたまま、ベッドの方まで歩いて行く。まるでケンタウロスのよう。


 そしてベッドに腰を下ろした。隣に遥も座る。


 それから小さく息を吐いた。


「……大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だよ」


 友達という言葉に落雷は受けたけれど。


 欲しいといえば嘘になる。だけど俺には生涯手に入らない物だろう。


 だから他の人が平然と友達、という言葉を言えることに衝撃と感動と恐怖を覚えるのだ。


「みーちゃんも、ジローさんを見れば友達になってくれると思いますよ?」


「その前に殺されないようにしないとな」


「なんでですか」


 笑いをこぼす遥。


 その笑顔をじっと見ていると、その視線に気付いたのか遥も俺をじっと見る。


 俺を見ている瞳が瞼に隠され、少しだけ顎が上がる。


 吸い寄せられるように、唇を重ねた。


 押し当てるだけのキス。それだけでも多幸感に胸は満たされる。


 離れると遥も目を開けて、俺と目が会うと照れくさそうにはにかんだ。


「えへへ……」


 その仕草が可愛くて思わず抱きしめる。


 俺は今、生きていて一番幸せな時期にいるのだと。遥の笑った顔を見て確信していた。


 友達なんていなくてもいい。遥さえいれば。


 彼女と共にいることで、振られたことに対する傷なんて、とうに癒えていたのだ。

読んでいただきありがとうございます。


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