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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と友達事情。小日向ひなた編


 遥さん、バトンは私が受け取りました! ひなたです!!


 Q.貴方に友達と呼べる人はいますか?


 A.え、友達ですか? いますよ勿論!



――――――――――



『そんでさ、あいつったら脇から出てきたヘビに驚いて田んぼに落ちたんだよね』


 ヘッドホンから沢山の笑い声。それを聞いているだけで私はとても楽しい気持ちになる。


 場所は家の中、パソコンのモニターには昔よく見た顔が幾つも並んでいた。


「ヘビかあ、もう長いこと見てないなーっ」


 椅子の背もたれに体を預け、天井を見る。


 見慣れた乳白色の天井と、煌々と輝くシーリングライト。


 あ、じーっと眺めていた所為で目がおかしくなった。何度か瞬きして焼き付いたライトの光を消そうとする。


『ひなた、そっちはどうなの?』


「どうなの……って、いつも通りだよ? 大学行って、バイト行って、帰って寝て……」


 椅子をクルクル回す。よく落ち着きがない、って言われるけれど、気がついたらやってしまっているのだ。


 パソコンは置いてあるけれど、ほとんど起動してないし……。


 ほとんど帰って寝るだけの家。


 起きたら眠気を肩に乗せながら大学のつまらない講義。


 ただでさえ眠いのに、抑揚のない声は更に眠気を誘う。


 その苦行に耐えたら次はバイト。


 ああ、そういえばこの前は面白かった。先輩が新人に凶悪犯に間違われて、危うくカラーボールを投げつけられそうになっていた。


 誰も悪くない誤解。だって言うのに先輩も新人もペコペコと謝り続けるその姿は、実に楽しい光景だった。


『……ひなた? ずっとニヤニヤしてるけどどうしたの?』


「えっ!? に、ニヤニヤなんてしてないけどっ!?」


『いーや、してた。皆も見てたよね?』


 色んなところから見てた、という同意の声。


 うー、そんな顔してたかなあ。頬をむにむにと揉み込んで表情を消そうと努力する。


『ってか、ずっと聞こうと思ってたんだけど。ひなた薄着過ぎない?』


「え? そう?」


 下を見る。オレンジの肩紐キャミソール。デニムのホットパンツ。


「いつも通りだけど……今日暑いし」


『外でもそんな格好してるんじゃないでしょうね?』


「ないない、家でだけだよ!」


 流石に恥ずかしい。


 あ、でも先輩に見せたらどういう反応するんだろう?


 照れる? 怒る?


 ………………やっぱやめとこう、恥ずかしいし。


『男連中がいなかったから良いものの、もっと気をつけなさいよ?』


 家の中で何を気をつけろというのか。


「はーい」


 疑問が湧いたけれど、事を荒立てることでもないだろうし。


『男連中といえば、ひなた上京してよかったよね』


『あー、そうだねー。そっち行って半年だっけ?』


「うん、三月にこっち来たから……それくらいだね」


 何が良かったのだろう?


 こう見えて、友達となかなか会えなくなって寂しいのだけれど。


『未だに高校の時の男の人にあったらさ、ひなたってどうしてる? って良く聞かれるんだよね』


『私も。ナンパかと思ったらひなたのことを聞かれてずっこけたもん』


『あー、あったあった。私は夜中だったな、すっごい怖い思いしたのにひなたの事だからムカついてぶん殴ってやった』


 むむ、そうなのか。


 でもそんなに仲の良い男友達っていないと思ったんだけどな。


『あ、ピンと来てないみたいですよ?』


『ずーっと説明してるんだけどねー』


 何の話だろう。


 きょとんとしていると、モニターの向こう側から溜め息が幾つも投げつけられた。


『ひなた、あんた誰にでも明るくて優しくするから、三年間ずーーーーーーっと人気あったのよ?』


「えー、嘘だあ」


『ほら、これだもん!』


 と言われてもなあ。


 無駄に冷たく扱う必要もないし、クラスメイトなんだから仲良くなったほうが得だろうし。


 私としては別け隔てなく付き合ってきたつもりなんだけどな。


 面白く無さそうな話題に、体が疲れてきていたのだろう。


 椅子に座ったままぐーっと体を伸ばし、筋肉を解す。


『明るい、優しい、そして胸がデカい』


『人気の三銃士が全部ひなたに集まってるよね』


『あの谷間が憎い!』


 む、流石にそうストレートに言われると恥ずかしいものがある。


 思わず胸を腕で隠した。


『そっちで良い人とか出来た?』


 まだこの話題続くんだ、と少しげんなり。


 恋とか、よくわかんないから楽しくないんだよなあ。


「んーん、毎日大学とバイトとかで出会う人もいつもと変わらないし」


『だよねえ。都会に行ったって言ってもそうそう劇的な出会いなんてないよねー』


 ふと。


 机の上に置いてあった茶碗蒸しのカプセルトイが目についた。


 この前行ったお寿司屋さんの茶碗蒸し、美味しかったなあ。


 美味しくて何度も何度も食べてたら先輩に怒られたっけ。


 最終的には『それが回転寿司だ』とかぶつぶつ言いながら一人で納得してたけど。


『あ、またニヤニヤしてる!!』


「し……してないですー!」


『何を考えてたんだー! 言ってみろー!』


「え、えーと……! ……ほら! この茶碗蒸しシクレなんだよ、それが当たったから嬉しくて!」


 カプセルトイを手に取り、カメラに映るように見せる。


『なーんだ、やっぱりひなたはひなたかー』


 露骨に残念そうな声を漏らしていた。


 先輩のことを言うのはなんだか恥ずかしい気がした、なんでだろう?


 職場の後輩で、だけど年上だから先輩で、とてもからかい甲斐のある怖い顔の優しい人。


 うん、ただそれだけ。


 だけど、なんか気恥ずかしいからやめとこ、うん。


『あ、もうこんな時間なんだね』


 時計を見ると日付は既に変わっていた。


 道理で少し眠いわけだ。


『じゃあ今日は終わりにしよっかー。次いつにする?』


『んー、次の休みはまだわかんないや、最近新人が立て続けに辞めていってね』


『じゃあ、また都合が良い日にしようかー』


 と。トントン拍子に話が進んでいく。多人数だとこういうときが楽だよね。


「じゃあおやすみー」


 おやすみー、という声とともに切断していった。


「………………」


 ふう、と息が漏れた。


 少し疲れたかも? でも楽しい時間だった。


 地元の近況はこういう時にしか聞けないし、皆も元気そうだった。よかったよかった。


「………………」


 スマホを見る。


 こんな時間だ、きっと迷惑なはず。


「………………」


 だけど。


 だけど、という言葉が思いついたときには手遅れだった。手の中には既にスマホがある。


 慣れた手つきで通話ボタン。


 あー、寝てたらどうしよう。謝って切ればいいかな。


 無機質なコール音が響く。やっぱりもう寝てるかな。


『……おう? どうした?』


 低い声が耳元から聞こえる。


 それだけでなんか、胸の奥から嬉しさがこみ上げてくるのがわかった。


「おはようございます先輩!!」


『うるさ、今何時だと思ってんだ、まさか今まで寝てたのか?』


「そんな訳ないじゃないですか、暇だから構ってあげようと思っただけですよ!」


 先輩の電話の向こう側からは何やら話し声っぽいものが聞こえる。


 また映画でも見てるのかな。それでまた徹夜するんだろうか。


『俺は今映画で忙しいんだよ』


 やっぱり。クイズに正解したみたいでなんか嬉しい。


「せんぱーい、暇なんですよー。今から行っていいですかー?」


『は? いい訳ないだろ。こんな時間に何言ってんだお前』


 それはそう、先輩の判断は正しい。


 だけどなんだか、今日は妙に寂しい気分なのだ。


「良いじゃないですかー、構ってくださいよー!」


『構ってあげるとか言ったり、構えとか言ったり……どうしたいんだ』


 先輩の声には呆れが多分に含まれていたけれど、嫌そうじゃないのは聞いててわかる。


 出会って半年も経っていない程度だけど、それくらいはわかる。


 要は単純なのだ。


『ん、これ普通の通話か……ちょっと待ってろ』


「ちょっ……」


 返事をする間もなく切れた。


 一体何なんだろう。まさか私の家に来る!?


 いや、そんなバカな。いやいや、はははは。


 …………だけど少し、片付けでもしておこうかなー……なんて。


 とか思ってたらスマホが鳴った。アプリからの通話。


「もしもし?」


『おう、これなら電話代かからないから良いだろ』


「あ……ありがとうございます」


 なるほど、そういうことだったのか。


 さっきまでの自分の考えが、恥ずかしくて穴に入ってしまいたい。


『あれ? どうかしたのか?』


「どうもしませんよ」


『…………おーい、もしもーし?』


「どうもしませんよっ!!!」


『なんか声くぐもってんな! 何してんだお前!?』


 布団に顔を突っ込んでました。


 ベッドの上で気恥ずかしさから暴れた後なので、少し疲れてしまった。


 というか時間を考えないと、反省。


「ぷはっ、どうもしませんよ!」


『わかったから二度も言わんでいい!』


 生産性のない会話。だけどそれがいい。


 どちらも憎まれ口ばかり叩いている。だけどそれが楽しい。


 雑な扱いにぞんざいな返答。だからこそ嬉しい。


 なんだろうな、この気持ち。


『暇なら今見てる映画の話でもしてやろうか? あらすじを説明してやるから面白そうなら見るといい。これはなある男が――』


「ふわ~あ、眠くなっちゃいました、おやすみなさーい」


 特に眠くなっていないのだけれど、このまま話していると朝になってしまう気がした。


 嬉々として話そうとしていた先輩の通話を切断。


 あとから見ると、先輩からの激怒メッセージが大量に来ていた。


 ふう、楽しかった。


 会話としては短い時間だったけれど、とても満たされた気分。


 今日はよく眠れそうだ――


 …………あれ、明日先輩一緒のシフトだっけ? どうだったっけ?


 そんな事を考えてるうちに、私の意識は底に沈んでいった。



――――――――――



 どうでしたか、私の友達の話は?


 ……え? 最後は先輩との会話ばっかだった……って?


 まあ、そんなこともありますよ! 先輩だって私の仲の良い友達ですからねっ!


 それじゃ、遥さんに貰ったバトンは次の人へと回していきましょうっ!


 どうぞっ!!

読んでいただきありがとうございます。


もしよろしければ評価・良いね・感想など、よろしくお願いします!

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