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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と男友達


 バイトの帰り道のことだった。


 時刻は深夜、日付が変わろうかという時分に、眠気を噛み殺しながら歩いていると。


「あ」


 と声を上げてしまう。


 深夜ということもあり環境音が皆無に等しい静寂の住宅街に、突如響き渡る俺の声は、普段よりも大きく響いた気がした。


「……ん?」


 その声に反応して、一人の男が振り返る。


 整えられた黒髪、整った顔立ち。俺には絶対真似できないであろうファッションスタイル。


「…………あー……いつかの鼻血くん」


「あんたの後頭部の所為だっての」


 先日会った、女性に殴られていた男だった。


 後頭部だけだというのに当人だと分かってしまうあたり、あの出会いのインパクトは忘れられないのだろう、うん。


「あ、そうだ。あの時に借りたハンカチ」


 カバンから包装してもらったハンカチを取り出し、男に手渡す。


「いらねえ……っていうか、この紙袋なに? すっげえファンシーじゃん。そういう趣味なの?」


「ちげえよ。裸のまま返そうとしたら彼女が入れてくれたんだよ」


「へー、彼女いるんだ。その顔で? もしかして脅迫して付き合わせたとか?」


 グサッ。


 過去の古傷を無理やりこじ開けるマネはよしなさい。


「普通に頼んで付き合ってもらったんだよ」


「ふーん、怖いもの見たさとかってあるって言うよな」


「初対面……いや、二回目の癖に失礼すぎないか?」


 きょとんとした表情。え、そんな変なこと言ったか。


 優しげな表情とは対照的に、ずけずけと物を言う。


 俺はもっと酷いことを周りに言われ続けているので耐性が出来てるようだが、その性格だと敵も多そうだ。


「ごめん、気をつけてるつもりなんだけど、思ったことが口に出ちゃうみたいで」


「それフォローになってないからな。本心で毒づいてるってことになるからな」


「うん、まあフォローしたつもりもないし」


「こいつ……! とりあえず、ハンカチは返した! じゃあな!!」


 苛立ちはしないが、この飄々とした態度は接していて疲れる。かなり疲れる。


 これは早々に立ち去るのが吉と見た。


 だというのに、男は俺を呼び止める。


「ねえねえ………………これ誰のハンカチ?」


「俺が知るわけないだろ! お前が付き合ってた女のだよ!」


「いつの? どんな顔だっけ?」


「…………もうちょっと覚えてやれよ……」


 いくら別れたとはいえ、失礼が過ぎないだろうか。


 俺の精神的疲労をよそに、軽く微笑みながら男は言う。


「付き合ってる時は覚えてられるんだけどね、別れると…………分かるだろ?」


「だろ、と言われても」


 俺自身経験がそんなにあるわけじゃない……というか、最初のアレをカウントしないなら遥が初めての彼女だ。


 まあ、それは人によるのだろうが。


「ん? だとしてもその日に会った俺の顔は覚えてるのに、彼女のことは忘れたのか?」


 俺を見たのはひと目だけだし、付き合ってた彼女と一瞥した男、どちらを覚えてるかは自明の理だと思うんだが。


「うん、まあキミは出会い頭に鼻血出してて鮮烈な出会いだったからね。それに顔が怖いから覚えやすい」


「ほっとけ」


「後はまあ……男友達は貴重なんだよ、うん」


「まだ友達じゃないけどな」


 ハンカチ返したいだけだし。


 返し終わったら帰って寝たいし。


「とりあえず、こんなところで立ち話もなんだし、ファミレスでも行かないか?」


「帰って寝たいんだけど」


「まあまあ、すぐ済むし」


「まあ……すぐ済むなら」


――この時の俺は知らない。


 この『すぐ済む』という会話が、夜明けまで続くことを。



――――――――――



「……というわけでね、男友達は非常にレアな存在なんだよ」


「というわけでも何も……自業自得じゃねえか!」


 ダァン、とテーブルを叩く。


 テーブルの上に置いてあったドリンクが揺れて、中身がこぼれる。


 撥ねてしまったのを紙ナプキンで拭き取り、テーブルの隅へと置いた。


「そうか? 俺はただ来る者拒まずってだけなんだけど」


 昔は男友達はとても多かったらしい。口が悪いだけで気さくなヤツなのは見て分かる。


 しかし、如何せん女癖の悪さが災いしてるようだ。


 友達が好きな女子がこの男に告白して、そしてこの男も友達が好きなのを知った上で告白をオッケーするものだから、男友達には距離を取られるわ恨まれるわの結末だったそうな。


「いや、友達が好きな相手だって知ってたんだから拒めよ。受け入れる相手を選べば良かったじゃないか」


「うーん、一度だけ断ったことがあるんだけど。あいつが好きだから無理だわ、って」


「んでどうなったんだ?」


「バラすんじゃねえよ! って殴られた」


 ああ、まあ……そりゃそうなるか。


「だから断るのも面倒になって受け入れることにした」


 足を組んでストローから炭酸水を飲んでいる。


 その姿すらも絵になるのか、女性客や女性の従業員はチラチラと見ているようだった。


 そして俺の方もチラリと見て顔をひきつらせていた。この現実よ。


「よくいじめられなかったな」


「女の子が守ってくれたから。男って、女の敵になるのは嫌がるからね」


 そういうものなのだろうか。


 小学、中学、高校と男友達も女友達もいなかった俺からすれば、ピンと来ない話だ。


「だから、好きな子が被らない男友達は損得抜きで付き合えるから貴重なんだよ」


「その言い方、女とは損得で付き合ってるって風に聞こえるな」


「まあ、そう言ってるからな」


 え、マジで?


 なんで? 疑問顔が顔に出ていたのか、目の前のこいつは通りがかった従業員の腕をいきなり掴んだ。


「ねえキミ、俺と付き合えたらどう思う?」


「え、えっ……!? すごい嬉しくて、皆に自慢すると思います……けど……!?」


「ほらね」


 そしてパッと手を放す。何がほらね、なのか。


「この場合、俺は友達に自慢するためのツールなんだ…………って、あれ? 別に付き合うつもりはないから、もうどっかに行ってもいいよ」


 顔を赤くしていた女性は、今度は違う意味で顔を赤くして去って行った。


 気の毒すぎる。


「俺は退屈しないための暇つぶしとして、女の子たちは友達に自慢するための道具として。損得勘定のウィンウィン関係で繋がってるだけだから」


 言ってる意味はわかる。


 わかるが、それは虚しくないのだろうか。


 それはとてもじゃないが、純粋な交際とは呼べないだろう。女の子の中には自慢するつもりもなく、ただただこいつの事を好きになった子だっているはずだ。


 だが、女の子全てが自慢するためにしか付き合っていないと思い込んでいる所為で、そういった女の子たちが理解されずに振られてしまっている。


 とはいえ、長年そうやって付き合ってきたのだ、会ったばかりの俺の言葉で響くとは思えない。


「もうちょっと、女の子一人ひとりを見てやったらどうだ?」


 思えないが。言わずにはいられなかった。


「んー……どういうこと?」


「今まで付き合った子の中には、あんたの事を一途に好きだっただけの子もいるかもしれないだろ?」


「それは……うん、いるかもね」


 おや? これはもしかして、響くのだろうか?


「だが、それを見分けるのって多大な労力が必要になるだろ? 労力を使った上で自慢ツールでした、ってなるのが嫌なんだよ。それだけでもう別れようかなってなるから」


 わかっちゃいたが、やっぱりダメか。


 女性への疑心暗鬼が既に凝り固まっている。


「だからさ、俺と友達になろうよ。キミも割とずけずけと物言うから面白いし、それに顔も怖いし」


「最後の関係あるのか?」


「あるよ。……ちょっとこれ飲んでみてよ」


「あん? なんで?」


 いいから、と言われてストローから男が淹れてきたドリンクを飲む。


「…………なんじゃこりゃあ……」


「ひっ、ヒィィッ!? 苦虫を噛み潰した般若……!?」


「誰が般若だ!!」


「ヒィィィィッ!?」


 通りがかった女性客にとんでもないことを言われた。


「っていうか何だこの味!?」


「コーヒーと炭酸を混ぜてみた。不味いよな」


 飲み物を返す。


 受け取った後、涼しげな顔でストローから吸い上げている。


 ……よく平然と飲めるな…………。


「ほら面白い」


「俺で遊んでるだけじゃねえか!」


 ……とはいえ、ここまで気兼ねなく喋れる男友達は多くない。


 ごめん盛った。今まで一度もいたことがない。


「…………はあ、わかったよ。でも俺で遊ぶのも大概にしろよ」


「ああわかった、出来るだけ控えるわ、出来るだけな」


 控える気ないなこいつ。


「……で、キミ名前なんだっけ?」


「確かに名乗ってなかったな。昼河だ、昼河次郎」


「じゃあ次郎でいいよな。俺は……これを渡しておこう」


 テーブルの上に何か長方形の物を滑らせてくる。


 それを指で抑えて受け取ると、それは名刺。


 黒い名刺にラメ加工された星が散りばめられた名刺にはこう書かれていた。


 夜見 夕夜。


 右下には電話番号とメッセのIDが書かれていた。


「…………これは源氏名か?」


「いや、本名。源氏名っぽいと言われれば否定は出来ないけど」


「職業は……ホストの方?」


「いや? カプセルトイの企画をやってる」


 仕事でもこの名刺を出すのだろうか。


 名刺と目の前の男……夕夜を何度も見比べる。


 それだけで察したのだろう、笑いながら首を振る。


「それはプライベート用、こっちが仕事用」


 そういって出した名刺はごくごくシンプルなものだった。


 会社名に夕夜の名前、そして会社の連絡先。


「俺こっちがいい」


「会社の連絡先知ってどうすんだよ」


 笑ってそう言うと、仕事用の名刺はケースに仕舞われてしまった。


 手元に残ったのは真っ黒で趣味の悪いプライベート用名刺。


 スマホを取り出し、登録して…………名刺を返した。


「いらないの? まあいいか、地味に高かったし」


「わざわざ外注したのか……」


 どちらとも何も言わず席を立ち上がる。


 ざっくり割り勘したところで店を出ると、既に空は白み始めていた。


「……俺明日一限からなんだけど」


 いや、もう今日か。


「大学生なのか? 俺も帰ってシャワー浴びてそのまま仕事だ」


 大きなあくび。


 釣られるように俺もあくびを漏らした。


「じゃーな次郎」


「ああ、じゃあな夕夜」


 俺の帰り道とは正反対の方向へと歩いて行く。


 あくびを堪えながら、昇り始めた太陽を見る。


 …………睡眠と引き換えに、生まれて初めて男友達が出来た日。


 今日は自分にご褒美をあげよう。そう思った。

読んでいただきありがとうございます。


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