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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と仕事の向き不向き


 朝ご飯を食べ終わった後、両手を合わせる。


「ごちそうさまでした!」


 食器をキッチンまで持っていた後、水で軽く流していると、背中に声がかかった。


「後はやるので、もう大丈夫ですよ?」


「そう? ありがとう」


 遥の言葉に甘え、コートを羽織った後カバンを肩に引っ掛けた。


「じゃあ行ってきます」


「行ってらっしゃい」


「……何処行くの?」


 もぐもぐとようやく咀嚼し終わったのか、のどかが声を掛けてきた。


「何処って、バイトだよ」


 食べ終わったのどかの皿を、遥が無言で下げていく。


 こうして見てるとお母さんみたいだな。


「バイト…………働いてるって、こと?」


「ああ、まあ。……そうですね?」


「……えらい」


 こんなに嬉しくない『えらい』は生まれて初めてだ。


「私も、ジローくんのところで……働く」


「……お前が?」


 コンビニで? バイトを?


「無理だろー」


 こんだけ覇気の無い店員は見たこと無い。


 いや、いる所にはいるのかもしれないが。


 改めてのどかを見る。


 髪の長さはミディアムボブ、髪の色はダークブラウン。うむ、長さや色は問題ないだろう。


 姿勢、猫背。目、死んでる。視線、伏しがち。


 うちのコンビニの太陽、ひなたと照らし合わせてみましょう。


 ………………。


「不採用で」


「えぇ……」


 と不満そうな言い方だが、何故か身支度を整えている。


「……何をするつもりかな?」


「コンビニで……買い物しようかな、って」


 絶対ついてくる気じゃん!


「ジローさん、私もそろそろ出ますけど……」


 遥も喫茶店での仕事があるのだ。


 ……しょうがない、ここで問答して遅刻するわけにもいかない。


「でも先に言っておくぞ、暇だからな!?」


「……平気」


 握りこぶしを二つ作ってガッツポーズ。


 ……不安だ。


「でもまあ、今日はひなたさんもいるんですよね」


「そうだな……最悪ひなたに子守りさせておけばいいか」


 仕事に関してはあっちのほうが先輩なんだけどな。


 とりあえず、そろそろ行かないと。


「じゃあ行こうか」


「はい」


 俺が先に出て、次に遥が出てくる。


 最後にのどかが出て、施錠。


 昨日のテレビの話などなど、雑談しながらマンションを出る。


「じゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃい」


「……らっしゃい」


 八百屋じゃないんだから。


 手を振りながら去って行った遥を見送った後、のどかに向かって言う。


「行くか」


「うん」


 そうして隣り合って歩き始める。


 いつの日からか、後ろを歩かなくなっていた。


 俺が心を開いたからだろうか、それとものどかに心境の変化があったからか。


 それはどちらでもよくて、わざわざ聞くことでもない。大事なのは、背中に視線を感じなくなった、それだけである。


 前のアパートより職場に近いところに引っ越したため、歩いて数分でバイト先に辿り着く。


 裏へ回るために駐車場を横切りながら、周囲を見渡しながら警戒する。


 俺の不審な挙動にのどかも訝しんでいるようだ。


 ここは気をつけなければならない危険地帯だ、何処から砲弾が飛んでくるのかわからないのだから。


「……どうしたの?」


「用心しろ、いつ吹っ飛ばされるかわからないぞ」


「…………?」


 しかし見渡す限り、迫りくる土煙は上がってない。


 今日は俺のほうが早かったか。ふう、と息を吐いて気を抜いた瞬間である。


「おっはようございまーす!!」


 裏へと回る角に差し掛かった瞬間、屈んで力を溜めていた砲弾がゼロ距離から発射された。


「ぐっはぁ!?」


 俺の右腰に向けての渾身のタックル。


 そのまま左側に倒れそうになるのを、腕で受け身を取り転がっていく。


 腰に引っ付いた砲弾も一緒に転がるため、怪我をしないように頭を抱えてやる。


 ゴロゴロと転がった後、むくりと起き上がった。


 この辺では最早見慣れた光景、道行く人の視線も温かいものである。のどかの白黒した視線を除いて。


「奇襲はやめろといっとろーが!!」


 未だ腰に引っ付いているひなたの首根っこを掴み、持ち上げる。


 天真爛漫なその笑顔はまったく懲りていないようだ。


「えへへ、久々のシフトですからね! 嬉しさを体全体で表現してみました!」


「表現をぶつけなくてもいいだろうが!」


「芸術は爆発ですから!」


 意味わからん。


 コートについた砂を払う。


 続いてひなたのコートも砂だらけなので、適当に払ってやる。


 すると、背後からのどかが俺のコートをポフポフと叩いていた。


「ありがとな」


「……うん」


 少し照れくさそうな表情、そんな俺とのどかを交互に見やるのは弾丸の後輩。


「ん? ん?」


 誰なのか、何事なのか。状況が掴めないひなたの視線は目まぐるしく動く。しかし状況が掴めないのはのどかも一緒だろう。


 俺のコートを払い終わった後、まるで俺を守るようにひなたとの間に入った。


「え、え? 誰ですかこの子?」


 俺と同い年だから年上なんだけどな。まあ……自信の無さから年下のように見えるのも致し方なしか。


 のどかの背中をぽんと叩き、紹介する。


「こいつは渡辺 のどか。俺の幼馴染で、現在職探しのニートまっしぐらだ」


「どうも……ニートです」


「名前を言え名前を」


 ぱちくり。


 ひなたの目は大きく見開き、何度も何度もまばたきをする。


 あれ? 驚きすぎて壊れた?


「ゆ…………」


「ゆ?」


「ゆるゆるふわふわぽわぽわおっとり系じゃないですか!! 何処で拾ってきたんですかこんなの!!」


 ゆるゆる……なんて?


「俺の地元に落ちてた」


「いいなあ! 先輩の地元いいなあ!」


 いいのか?


 突如湧き上がったひなたのテンションに、のどかはついていけてない。


「私は、小日向 ひなたって言います! よろしくお願いしますのどかさん!」


「あ、よ、よろ…………」


「それにしても可愛いですね! なんかこう、のんびり屋さんというか、ちょっと陰りがある感じがまたミステリアスにファンシーで!」


「よろしくお願いします……」


「のどかさんは幾つですか? 私は19なんですけど!」


「……あ、ありがとう……?」


 スピード系に、のんびり系か。こいつら同じ時間軸を生きていけないのかもしれない。


 返事にかなりラグがあるようだ。


「ひなた、そろそろ」


 時計を見るとヤバめな時間だ。


「あ、はい。それじゃあまた!」


 また、とは言うが。


 制服を着て店内に出れば、のどかがいるわけで。


 買い物するって言った割に商品何も見てないしな。……まあ、口実だということはわかっていたが。


「せんぱいせんぱい、なんかこっちをジーッと見てるんですけど」


「……ああ、なんかここで働きたいらしくてな。仕事ぶりをチェックしてるんだろう」


 もしくはただ見てるだけか、だな。


「…………働けます、かね?」


「正直厳しい」


 仕事に関しては真面目なひなただ。向いてる向いてないを見極める目は持っている。瞬時に向いていないことを悟ったようだ。


「でも、早く見つけてくれないといつまで経っても居座られるしな」


 少しでも頑張る気持ちがあるのであれば、俺はその気持ちを尊重したい。


 さあて、仕事仕事……。


 と思ったら、何故か裾をひなたに掴まれていた。


「今なんて言いました?」


「尊重したいって」


「言ってませんよねそれ、心の中で思っただけですよね」


 なんで俺の心の中を知ってるんだこいつは。


 俺とのどかを交互に見比べる。


「居座られる? え、一緒に暮らしてるんですか?」


「え? あー、まあ……」


「は、遥さんはっ?」


 一緒に住んでる。そう言った時のひなたの顔と言ったら。


 驚きに染まり、瞬時に真っ赤に染まった。何故?


「ら、乱交パーティーですか!? 夢の両手に花ですか!?」


 ちょーっぷ。


 ひなたの脳天に俺の右手側面が綺麗に突き刺さった。仕事中に何を言っとるんだこいつは。


 後輩ちゃんが頭頂部を抑えて悶えていると、客がカゴを持ってやってきた。


 客はチラリとひなたを見る。


 特に何も無かったかのように目線を逸らした。さすがいつも来るだけあって、ひなたの奇行は見慣れたものらしい。


「先輩の所為じゃないですか……っ!!」


 ひなたの恨み節を右から左へと聞き流し、お客さんの対応をしていく。


 それからシフトの終わるまでの夕方まで、のどかはずっと俺たちの方を興味深く眺めていた。


 そして仕事も終わり、私服に着替えて外へ出る。そこにはのどかが待っていたが、そんな彼女が口を開いた。


「私には……無理、かもしれない……」


「でしょうね」


 わかっていたことであった。

読んでいただきありがとうございます。


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