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振られた同士で付き合ったら意外と幸せだった話  作者: 佐藤ヒロフミ


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失恋と意外な来訪者


「…………というわけで、一応の解決は出来たかと思います」


「そうか……本当に良かった」


 遥のご両親が営む喫茶店。


 カウンター席に座りながら、事のあらましを説明している真っ最中である。


 調書を取られた後にまっすぐこっちに向かってきたわけではあるが……。


「……それで、その犯人は何かを言っていたかね」


「………………」


 思い返す。


 上に視線をやり、濃い木目の天井を見た。


 ………………


 …………


 ……


 雫さんに踏みつけられながらも、俺を睨みつけるストーカー。


「な……なんで、こんなに女子に囲まれて……! 遥ちゃんだけじゃ満足出来ないっていうのか!!」


「うっせえ」


 顔を踏みつける雫さん。やりすぎでは?


 全員が俺のハーレムだとでも思っているのだろうか? 勘違いも甚だしい。


「全員俺の友達だっつの。ねえ?」


 頷く霜崎さんと二夕見さん。


「う、嘘だっ! 男女の友情は成立しないって何かの本で見たぞ!」


 見たぞ、と言われましても。


 本に書いてあること全てが適用されるわけもなく。


「自分の目で見たものが一番確実だろうがよ、あたしはジローの友達だ。まだな」


「ええ、私は先輩の後輩であり先輩であり友達です、まだ!」


「私も、今はまだ友人でただのストーカーだけどね。でも、キミはストーカーの風上にもおけない。距離の測り方も知らないなんて」


 …………まだ?


「……御三方、それはいずれ俺とは友達では無くなるという意味でせうか……?」


 俺の発言を聞いた三人は盛大にため息を吐いた。一体なんなんだ。


 後ろでは霜崎さんと志保ちゃんさんは笑ってるし。


「なんでこんな奴がモテるんだ…………ただ顔が怖いだけのクソ野郎じゃないか……っ!」


「それはあたしも同意する」


「雫さん!?」


 何故か不当に俺を貶められていた時にようやくやってきたパトカー。


 それからは知っての通りである。


 ……


 …………


 ………………


「いえ、特に何も言ってませんでしたね」


「言っていないにしては溜めがすごく長かったが」


 そこは気にしないで欲しい。


「いやあ、しかし死にかけた後はお父さんのコーヒーが凄く美味しいですね、五臓六腑に染み渡るってもんです! まあナイフで穴が空いてたら漏れてたかもしれませんが!!」


「情緒が不安定だって良く言われないかな」


「いえ、全く!!」


 俺を軽く見た後、メガネを外して目頭を揉むお父さん。


 なんか疲れてるんだろうか。


「ジローさん!!」


 カウンターの裏側からバタバタと物音を立てて現れたのは遥。


「無事だったんですね!」


 回り込んでくるや否や俺に抱きついてくる。お父さんの前だぞ!?


 俺を睨む視線が怖い。お客さんの視線が集まっているのがわかる。


 しかしながら、遥が心配してくれていたのも十分に伝わっているので、引き剥がすことなんて出来ないのだが。


 しばらくされるがままにしていると、お父さんの強い咳払いで我に返った遥は、ようやく俺から離れた。


「もう、大丈夫だから」


 少なくとも、俺に対しては良くて暴行罪、悪くて殺人未遂が適用されるし、遥へのストーキングへの証拠も揃っているので、そちらに関しても迷惑防止条例違反が適用されるはず。


 併せると刑罰がどうなるのかは詳しくはよく聞かされていないけれども、当分は遥の前に現れないだろう、たぶん。


 それに、二夕見さんが言っていた。


『また遥ちゃんの前に現れるようなら、ストーカーが何たるかをあの人の身に染み込ませてあげるから』


 なんてことを笑顔で言っていた。ちょっと寒気がしたのは秘密である。


「……ありがとうございます」


 涙目で上目遣い。


 そんな目をされたら、今度は俺から抱きしめたくなるじゃないか……!


 しかし、そんな甘酸っぱい空間に冷水をぶっかけたのはお父さんだった。


「じゃあ、もう一緒に住む理由はないね」


「…………あー、そうですね」


 短い期間ではあったものの、一緒に暮らせてとても楽しかった。


 誘惑も多い期間ではあったが、結婚したらこんな感じなんだろうなあ、とか。


 そんな予行演習が出来た気分だ。……結婚ですって、気が早いわね!!


「お父さん、あの――」


「ダメだ」


 遥がおずおずと口を開くや否や被せるように却下した。


「まだ何も言ってないのに!!」


「一緒に暮らしていたいとか言うつもりなんだろう? ダメだ」


「どうして!!」


「大学に喫茶店、二足のわらじで勉強していくって言ったのは遥、お前だろう。同居とかいう誘惑が多い環境でちゃんと出来るのか?」


「出来るもん! それに誘惑はどっちかっていうと私の方が――むぐっ!?」


 それは言わなくていい!!


 慌てて口を塞ぐと遥の肩越しからはお父さんの鋭い視線。


「ぷはっ……私住みたい!」


「ダメだ。サボテンはどうするんだ?」


「世話しに来るもん! どうせここで働くんだし!」


 この二人は今営業中だっていうことを知ってるんだろうか。


 もう俺には止められない親子喧嘩に発展しつつあるのを感じた俺は、少し離れたところから眺めることに。


 喧々囂々、槍を突き合わせるように言葉をぶつけ合う二人を見ていると、隣に誰かが立っていた。


「揉めるといつもこうなんですよ」


 俺に話しかけているのかわからずに黙っていると、隣の人は俺をじっと見た。やっぱ俺に言ってたのか。


「貴女は……?」


 黒い髪をお団子にまとめ、目を細めて笑うその姿は何処か見覚えのある笑顔。


 少しふくよかな体に、喫茶マタンのエプロンを身につけるその女性は一体――!?


「遥の母です」


「お義母さん!?」


「あら、随分気が早いんですね」


「ごめんなさい」


 お父さんと同じく咎められると思い即座に謝罪した俺だったが、お母さんはコロコロと笑うだけだった。


「この度は、本当にありがとうございました」


「え、あ、いえ、こちらこそ」


 何がこちらこそなのか。


 深々と頭を下げられて礼を言われた俺は、咄嗟にそう言った。


「警察の方も何も出来ないことを嘆いておられて、お父さんも自分の体力ではもう満足に助けられないことに落ち込んでました。そんな時に、ジローさん、貴方が現れた」


「……俺の、彼女のことですから」


 助けるのは当然のこと。


 それこそ礼を言われることじゃあない。


「最初の頃こそ、産地直送とか地消地産とか、不思議なことばかり言っていて不安に思っていましたが」


「この口がいけないんです。この口が言わなくていいことばかり喋る。このバカ、このバカな口が!!」


 俺は頬をビンタする。そんな俺を見てお母さんはクスクスと笑っていた。


 ぶっちゃけ止めてほしかった。


 そんな時である。


「す……すいませーん」


 お客の一人が手を挙げていた。


 もちろんお父さんと遥は気付いていない。ここは俺が行くべきか!?


 お母さんがいるのにも関わらず妙な使命感に燃えた俺はテーブルへと向かう。


「へいお待ち! 何にしやしょう!」


 俺の勢いに仰け反った客は、おそるおそるとメニューを指差しながら。


「ホットコーヒー……ブレンドで……」


「はい喜んでー!! マスター、ブレンド一丁!!」


「ここは居酒屋でも牛丼屋でもないんだがね」


 俺の勝手な行動に冷静さを取り戻したのか、肩で息をしながらズレたメガネを掛け直し、仕事に取り掛かる。


 さすがロマンスグレー! 切り替えのスイッチが早い!


 しかし未だ切り替えの遅いヤングドーターは、肩で息をしながらお父さんを睨む。


「話は終わりだ、荷物をまとめてきなさい」


「…………お父さんなんて知らない!」


 エプロンを乱暴に取り外し、投げつける…………のかと思いきや、綺麗に畳んでカウンターに置いた。


 そのまま俺を置いて出ていく。行き先俺の家なのにな。


 しばらく呆気に取られていたが。


「…………って遥っ!? す、すいません、俺行きます!!」


「よろしくおねがいしますね」


 お父さんは何も言わずに、お母さんの声だけを背中に受けて俺は走り出した。


 すぐに彼女の背中には追いついたが、横顔だけでまだ怒り心頭なのは見て取れる。


「お父さんの言うことは聞いておいたほうがいいよ」


「わかってます、きっとお父さんの方が正しいんだって、でも……なんというか、私の意見も聞かずに従わせようとするのが、なんか……なんか、こう……っ!」


「言いたいことはわかるけどな」


 それからは何も言わず、隣を歩く。


 俯きがちだった遥の手を握り、導くように先を歩いていた。


 そうしてマンションの下に帰ってきた時、意外な人物がそこにはいた。


「あ……ジロー、くん」


「……のどか?」


「え?」


 俯いていた遥が顔を上げる。


 確かにそこには、俺の地元で住んでいたはずの幼馴染。


 監視役だと思い込んでいた、唯一の地元の友人だった。


「なんで、ここに……?」


「え……?」


 きょとん、と小首をかしげる。


「おばさん、から……連絡いってない?」


「へ?」


 何も来ていない。


 とりあえず俺は母さんに電話をかけてみることにした。


『はい母です。ただいま不細工な息子とは電話に出る気はありません。ピーッという音が鳴ったら何も言わずに電話を切ってください』


「不細工はお前だ!!」


『その発言死んでも許さない』


 ヒェ。


 電話越しだというのに確かな恐怖を感じた。


「っていうか、のどかがいるんだけど?」


『あれ言ってなかったっけ。なんか都会を観光したいらしくてね、ジローの家に泊めてあげて』


「はあ!?」


 良い年した男女を一つ屋根の下に!?


『どうせあんたヘタレなんだから何も出来やしないでしょ。頼んだよ』


「ちょ、待っ…………!!」


 切れた。


 再度かけるが、電話に出ない。


 何度も掛け続けていると、電源を切ったのか繋がらなくなった。


「……ジローさん?」


 横で遥が不安そうな顔をしていた。


「母さんが……のどかを、泊めてやれって……」


「――――え」


「よろしく……ジローくん」


 そんな穏やかに微笑まれても。


 俺の心中はちっとも穏やかじゃない。


「…………ちょっと、行ってきます」


 遥が背を向け、大股でさっき来た道を戻っていく。


「え、遥? 行くって何処に?」


「同棲を続けさせてもらえるよう死んでも説得してきます!!」


 そして走り出した。


 …………。


 数十分後。


「許可貰ってきました!」


「嘘ぉ!?」


 かくして。


 田舎の幼馴染と彼女と三人で暮らすという摩訶不思議な展開に俺は頭を悩ませるのであった。

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