失恋と100話記念にバナナと誤解
100話!
見ていただきありがとうございます!!
まずはこちらを御覧いただきたい。
なに、見れない? 心眼を持って見ればよいのだ。
薄手の生地のショルダーバッグ、以前買ったものだが。
それにジローさんが夜なべをして、今までちょうだいしたストーカー様からの手紙を全て縫い付けたのだ。
いわば呪いの手紙の痛バッグである。
昨夜のことながら思い出せば指先に痛みが蘇る。
慣れない針仕事、何度俺の指を刺したことか。
何度も何度も遥に変わろうかと言われたが、これだけは俺の手で作らなければならないと思った。
理由はない。ただそう思った。
これで町中を闊歩する。何処かで俺を見ているはず、これは挑発なのだ。
「……本当に、こんなの持って歩くんですか……?」
隣を歩く遥がとても嫌そうだ。
「イヤか?」
「かなり」
わーおストレート。しかしながら遥を怖い目に合わせた報いは受けてもらわなければならない。
「ま、早ければ今日中に片がつくはず」
「今日中にジローさんに変な噂が流れるのも、ですけどね……」
カバンをチラリ。とっても嫌そうな顔をした。
気持ちはわからんでもない。しかし俺は怒りの方が勝っているのだ。
遥を喫茶店まで送り届けて、カウンターにいるお父さんに会釈をする。
俺の肩に引っ提げたバッグを何度見もして確認した後、何事もなかったかのようにコーヒーを淹れだした。
うーんダンディ。
さて、何処を歩こうか。商店街……いや、あまり人が多すぎてもヤツは出てこないだろう。
となれば…………。
――――――――――
こちら簡素な住宅街。
人通りも少なく、喫茶店からも近い。
ここならば、ストーカーも出てくる可能性が高い……のかもしれない。
「………………」
無言で歩く。まあ一人で喋っててもな。
しかし……。
「…………見て、ほら……」
「……なにかしら、あれ……」
………………早く来てくれ……!!
ストーカーへの怒りが勝っているとはいえ、羞恥心が無くなったかと言われればそういうわけでもない。
というか、一人で黙々と歩いている時間があればあるほど、羞恥心は増幅していく。
………………
…………
……
「………………」
どれくらい歩いただろうか。どれくらい往復しただろうか。
俺の足はもう棒のようである。
依然として現れる気配はなく、呪いの痛バッグを肩に引っ提げた男を一目見ようと観客が増えつつある。
どうしてこんなことに……。
俺の予想ではこんな風じゃなかったというのに。
ちなみに俺の予想はこちら。
俺が一人で歩く、ストーカー現れる。こてんぱんに叩きのめして勝利!!
という図式だったのだが、どうして……。
「ジローくん?」
「え?」
前から歩いてきた人に声を掛けられた。
カーゴパンツに多機能ジャケットを羽織ったその人物は……。
「ヤマさん!」
「やあ、こんなところでどうしたの?」
常連組の一人、釣り好きのヤマさんだった。
今も釣りの帰りなのだろうか、背負った細長いバッグには釣り竿が入っているのかな。
「ちょっと散歩です」
「へえ…………でも…………」
目線を下にするヤマさん。視線はもちろん俺のバッグ。
「そのバッグはどうかと思うな」
……これはチャンスか!?
「そうスかね、イケてないスかね」
「うーん、バッグ自体は軽くて使いやすそうだけど、周りに貼ってる紙が全てを台無しにしてるよね。
なになに『別れろ』『離れろ』……? 言葉のチョイスもチープだし、ちょっとセンスがないんじゃないかなあ」
そうだ、その調子だ!
ヤマさんは俺に向かって言ってる気がするけど、誤解なんだ!!
「それに字が汚いし、何より紙の無駄遣いだよね。せっかく書くなら綺麗に書いたほうがいいかな」
「へい、気をつけやす」
「まあ事情があってそんなオプションをつけてるんだろうけど……個人的には剥がした方がカッコいいと思うな」
俺もそう思う。
しかしながらやんごとない事情があるんでやんす。
「じゃあね、また喫茶店で」
「へい、お気をつけて」
ペコペコと頭を下げながらヤマさんを見送る。
…………あいつのお陰でヤマさんの好感度がガクッと下がった気がするぞ。
……はっ!? まさかそれが目的か!?
俺が痛バッグを作るのを見越して、わざと字を汚く書いたり大量に書いたりしたのか!?
なんて策士! だとすれば今の俺に勝ち目は……!!
「……………………っ!!」
目の前に立ちはだかったのは、遥をトイレで襲った男と同じ格好の人物。
肩で大きく息をして、目深に被ったフードと黒のマスクの間から見える瞳は俺を鋭く睨みつける。
……なんだ、策士じゃなかったのか。
「やっと出てきたか」
「お……俺の字は、綺麗なんだよ!!」
「そこ!?」
そこ拘るところなのか?
「書くために、俺はボールペン教室で半年学んだんだ……!!」
「……知るかよ」
「よく出来ました、って一文もあったんだぞ!」
それリップサービスだろ。
「それに、今年で一番優秀だったとも!」
「それもリップサービスだろ!!」
「そんなことない! 俺は信じる!」
「お前絶対キャバクラ行くなよ」
「バカにしやがって……!」
言いながら、ポケットから出したのは10cm程の大きさの木製の楕円形の物体。
横から銀色に光る何かを出した、あれは……。
中学生の時に欲しかった、折りたたみナイフ……!!
「…………未だにそんなん持ってたのか……」
「う……うるさいうるさい! いちいち小馬鹿にしやがって……!!」
俺だって変なバッグ持ってウロウロさせられたんだ、イライラの発散くらいさせてほしい。
……とはいえ、ナイフを持っていたのは計算外だった。
良くて背後から襲ってくるとか、そんな感じだったんだけど。
「……死ね…………!!」
「ま、待て待て待て! 今俺を殺したらもうキャバクラ行けないんだぞ、いいのか!?」
「いい!!」
言い切られたよ。男らしいわねこのコ。
……じゃなくて!!
「うわああああああああ!!」
「うわああああああああ!?」
前者はストーカー、後者は俺。
突き出したナイフを防ぐように痛バッグを盾にしたが、縫いやすいように生地が薄いのを選んだのがここで災いした……!
カバンで隠しながら目を閉じる。
「………………!!」
近くに男がいる気配はする。だけどナイフが刺さった感触はない。
実は刺さってるけどまだ痛みが来ないとか?
目を開くと、ナイフはカバンの途中で止まっていた。貫いてもいなかった。
「……あれ、薄いはずなんだけど……」
「く、くそ…………っ!!」
一旦ナイフを抜き、もう一度俺に向かって振りかぶるが。
「オラァ!!」
横から細い足が視界に飛び込んできた。
その足は男の頬に食い込み、地面に転がって塀にぶつかる。
「大丈夫かジロー!」
「雫さん!?」
何故か雫さんがいた。
「先輩!!」
俺に抱きつく温かな体。
ひなたまで。
その更に背後には霜崎さんや二夕見さん、志保ちゃんさんも。
「って何で皆がここに!?」
「はーちゃんに聞いたのよ。ジローが変なことしようとしてるって」
失礼な。言い訳出来ないけど。
「で、探してみれば案の定変なことになってたってわけだよ」
ストーカーを踏みつけながら雫さんが言う。
口調も相まってまさにヤンキーそのものだ。
「大丈夫ですか先輩!!」
「あ、ああ……大丈夫なんだけど……」
どうして無事だったんだろう。
カバンを開き、中を確かめてみると。
一本の黄色い物体があった。
側面には刺さったであろう穴。
バナナである。
「なんでバナナ……?」
志保ちゃんさんが言うのも尤もな話。だけどマジでなんで……?
「あ、そうだ。後で食べようと思ってたんだった」
「ば、バナナなんかで……っぐえ!」
「喋んな」
踏みつけられるストーカー。
「とりあえず、警察呼ぶわね」
霜崎さんがスマホを取り出し、耳に当てる。
それから数分後、パトカーが一台やってきた。
車から降りて、俺を見て一言。
「またキミかね」
「誤解だあ!!」
常連ではあるけれども!
説明をして、パトカーに乗せられていったのは俺じゃなくてストーカー。
こうして。
遥のストーカー事件は一応の幕を下ろしたのであった。
俺一生バナナに頭上がんねえ。
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