失恋と異世界転生
新連載です、二人の関係を少しでも甘酸っぱく出来れば良いと思いつつ。
なおかつ少しコメディテイストにして、夜中にボーっと見れたらいいなー、くらいの感覚で書いてます。
出会いと別れは裏表。
出会いの数だけ別れがあると言われている。
しかし何であろうと別れは物悲しいものだ。けれど……。
別れの後には新たな出会いがあり、それがとても美しい出会いなら……その別れは必然だったのかもしれない。
――――――――
「…………んなわけ無えだろうが、ったくよ~!!」
夜道の他に誰も歩いていない道を一人くだを巻きながら歩く。
誰もいないのが唯一の救いだ、いたらきっと通報されているだろう。それほどまでに俺はやさぐれていた。
地面に落ちている小石を蹴飛ばす。小石は大して高く上がらず、目の前の電柱にぶつかった後何処かに転がっていった。
「う……キモチワル」
急に動いたことで酔いが回ってきた、頭がグワングワン。
電柱に寄りかかり、吐き気が収まるまで待つ。
あ~あ……、ここに彼女がいればな……背中を擦りながら水を持ってきてくれて、大丈夫? なんて……。
「なんて…………」
あ、ダメだ。思い出して泣きそうになる。
そう、それは数時間ほど前のことだった、突然の彼女からの連絡。それはもう舞い上がって準備した。
呼ばれたのは近所のファミレス、なんせ初めてのデートだ。短い髪なので塗る必要すらないワックスを使ってみたり。
予定の時間よりも三十分早く着き、五分毎にスマホで時間をチェックしながら待っていると、時間通りに待ち人は来た。
『……………………え?』
何故か男の人を連れて。五人くらい。
誰もが屈強な体つきで、一様に俺を睨む。何故?
神妙な顔つきの彼女は、俺のことをチラリと見て目を伏せた。
現状が理解出来ない俺は立ち尽くして呆然とする。恐らくは相当な間抜けヅラだったに違いない。
『ごめんね、急に呼び出して』
彼女が言った。綺麗な声だったけど、今はそれどころじゃない。
『い、いいんだ。それにしても――』
この人たち誰? とは聞けなかった。聞くよりも早く、彼女がバッと頭を下げる。
聞きたいことは聞けないし、いきなり頭を下げられるし、何が起こっているのかさっぱり分かっていない時に……彼女は言った。
『ごめんなさい、別れてください』
『……え?』
別れて? え、何故? 俺何かしたか?
後ろの男たちは無駄に指を鳴らしたりして威嚇してくる。え、マジで俺何かした?
『………………えーと……理由を聞いても?』
彼女は上目遣いをしつつ、ビクビクと怯えていた。後ろの男たちの剣呑な空気が更に増す、俺聞いただけなんだけど。
『……こ、怖いから……かな』
『……………………怖い』
それって俺の話か? それとも今の俺の状況の話か?
彼女に呼ばれて浮かれていたら知らない男に睨まれているこの環境、うん確かに怖い。
『大学で呼び出して告白してきた……じゃない? キミって体も大きいし……顔も怖いから、断ったら何されるかわからなくて、それで…………』
『……………………』
自覚はある。そしてコンプレックスでもある。
体が大きいのは健康な証拠だろ? 体が丈夫な証拠だろ?
顔が怖い? 生まれつきですけど。その所為で友達は少ないわ、職質は多いわ、メリットは無くデメリットばかりの顔立ち。
『…………じゃあ、その後ろの人たちは……』
『………………』
彼女は答えないが、恐らくはボディーガード。
別れ話をしたら何をするかわからない。何をされるかわからない。
だから護衛を連れてきた……ってことなのか、な?
『…………ごめんね』
上目遣いで申し訳無さそうに。
可愛いなあもう!! とはならなかった。
ショックや喪失感、虚無感に満たされた俺は。
『え……いや、こっちこそ……なんか、ごめんね……顔が怖くて…………』
それしか言えなかった。
背後の男たちに威嚇されながら、その場を去って行く。いや去るしかなかった。
呆然としながらフラフラと向かった先は、チェーン店の居酒屋。
何も考えずに適当に食べ物と酒を頼み、ひたすら飲んでひたすら食べた。
どれくらい時間が経っただろうか、別れた事実が後から押し寄せ、両目から涙が零れ始める。
続いてとめどない嗚咽が漏れ始め、周りに知られたくなかった俺は机に突っ伏してそれを隠す。
ひとしきり泣いた後はまた飲んで食って。他のことをすることで忘れようとしていたが、そんなことで忘れることが出来るほど俺の愛情は薄くなかった。
笑顔のポテトフライが彼女に見えてくるほど重症だった俺はまた泣いた。
何時間いたのか。夕方に来たはずなのに気付けば日付は変わっていた。目玉が飛び出るような料金を支払い、千鳥足で帰路につく。
……そして今に至るというわけだ。
「…………ふう~……」
考え事をしていたお陰で吐き気は去った。その代わりと言っちゃあなんだが、またも涙が零れだした。
「ああもう……鬱陶しいなあっ!」
泣いても事実は変わらないし、泣いた所で彼女が戻ってくるわけでもない。
だというのに勝手に涙が出てくるのが腹立たしい。
「ぐす…………ひっく、う~い………………ん?」
比較的大きな交差点に着いた、ここまで来れば癒やしの我がマイホームはすぐそこだ。
賃貸で築20年。壁が薄くプライバシーがほとんどないボロアパートが俺を待っている。
深夜ということもあり、車通りはほとんどない、昼光色の電灯が路地をオレンジに照らす。
そこに、一人ぼんやりと立ち尽くす女性がいた。
茶色のワンピース。黒い長い髪。顔は見えない。白のワンピースじゃなくて良かった。ちびってるところだ。
しかし妙なのが、立ち尽くしているのが車道のど真ん中。
何故? 危なくないのだろうか? 度胸試しでもしているのだろうか? 一人で?
それとも幽霊? 茶色のワンピースに見えているだけで実は白装束?
早く立ち去ればいいものを、何故か気になった俺は歩道から女性を眺める。
ピクリともしない、やはり幽霊か? しかし髪が風で揺れた。
生きているのなら、あんなところで何を……?
逡巡しているうちに、光り輝くヘッドライトが見え始めた。
ヘッドライトの主はトラック、進路方向でワンピースの女性を通過するだろう。
ここで問題。ワンピースの女性が生きていた場合、このまま通過するとどうなるでしょうか?
ひとつ、見るも無惨なスプラッタ。
ふたつ、実はやっぱり幽霊でトラックをすり抜ける。
女性はトラックが近づいてきても避ける気配すらないし、トラックも気付いていないのか減速する様子がなかった。
見殺しにするのも気が引ける、助けに行くべきだろう。千鳥足で足元は覚束ないが頑張って歩みを進める。
しかし俺は酔っ払い。よせばいいのに変な考えを頭を過った。
――異世界転生か?
深夜、トラック、事故。符号がすべて揃う。
俺が目の前の女性を助けることで、俺が異世界転生するのだろうか。それとも彼女の異世界転生を邪魔することになるのだろうか?
チートが貰えるのか? ハーレムになるのか? ざまぁするのか!?
余計な考えが頭をグルグル。
「……吐きそ」
酔った頭で考えるのは辛いものがある。
変な考えをしていた所為でトラックは最早目と鼻の先。
もう悩んでいる時間はない、見殺しにするのだけは御免だった。
ようやく気付いたトラックが急ブレーキを踏む音を聞きながら、俺は道路に飛び出していた――――
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