或る天使の告解
あの人は、僕にとって、唯一無二の存在でした。
黒く艶やかな髪。普段は琥珀色の目なのに、力を行使するときは焔色に染まる瞳。清廉潔白な天使としての凛々しさ。厳かさ。僕は七大天使にも数えられない末端の天使なのに、能力を買われて、その御方の副官に任命されました。そうして、あの方のお側にいることを赦されたのです。
これ以上の幸せが、あってなるものでしょうか。僕は神様に謁見する権利のない天使。だからこそ、僕の上官となった四大天使様──ウリエル様こそが、僕にとっての神様なのです。
この考えは神涜として、罰せられることでしょう。だから、身の内に秘めるに留めておきました。罰せられたら、あの方のお側にいられなくなるから。
それでも、想う心は止められなかった。故に、僕は告解します。どうか、お赦しください。
……けれど、神に赦されなくても、僕はいいとさえ思いました。
ただ、あの方の側にいたい。
そんな人間のような欲望が、僕を支配して止みませんでした。
そんな折、あの方が、人間に穢されて、僕はいてもたってもいられなくて、人界に直談判に行きました。けれど、僕は末端の天使。その主張を人間が聞き入れることはありませんでした。
それどころか、僕は、人間の慰みものにされて。
堕天使とされることとなりました。けれど、これは天界の法。ウリエル様の苦しみとは非なるもの。
当然、僕はウリエル様から引き離されました。けれど、ウリエル様が煉獄の番人になったと聞いて、僕は罪深くも、ある計画を思いつくのです。
どうせいずれは処刑される身。ならば、最期はウリエル様の手で……
そんな僕の欲望を満たすためだけに、僕はアスタロトさんを利用して、天界で騒動を起こし、ウリエル様が煉獄から天界へ来るのを待ちました。
そうして、ウリエル様こそが、僕にとって神だと告げました。真面目で、堕天の烙印を押されても、無実を証明し、神に従うことを決めたウリエル様なら、僕の言葉を神涜罪とし、処刑してくださると、僕は信じたのです。
アスタロトさんには、申し訳ないことを致しました。あの人は清廉で、清すぎて、僕の言うことを鵜呑みにし、その奥にある醜い欲望など、勘づきもしなかったでしょう。
けれど、僕は赦されなくていい。僕の目的はあの方に、ウリエル様の御心に、少しでも爪痕を残すこと。あの方の手で、葬り去られること。
あの方が生きているうち、どうか、僕があの方の心を傷つけ続けますように。
そんな欲望。
こんなことを考える時点で、僕は堕ちきっているのでしょう。
人間に体を穢された僕が、穢れなきままでいられるのは、この心だけなのです。だから、僕のこの心が、ウリエル様を傷つけられますように。
ウリエル様、お慕いしております。
どうかこの心だけは■■■■■■■。
(最後の手記は滲んで読めない)