第三九話 たどり着いた場所
フィンは階段を上っていた。扉から離れるにつれて光が届かなくなり視界は悪くなる。
「これじゃあ、何も見えないな……。暗闇に慣れるまで少し待とう」
やがて完全に見えなくなると、フィンは暗闇に目を慣らすため階段に座りこんだ。
この場所がどこであるか分かっていない以上、人と出会すのは極力避けたい。しかし、冷静さを欠けば望ましくない結果を招くことを熟知していた彼は、早くなる鼓動を感じながらも待つことを選んだ。
「さてと……そろそろ行くか……」
徐々に薄らとだが階段の輪郭が見えだしたため、フィンは再び階段を上りはじめた。
「ハァ……ハァ、ハァ……どこまで続くんだ?」
しばらく階段を上りつづけけていると突然、頭部に衝撃が走った。
「痛っ……」
彼は下ばかりを見て歩いていたため、天井が狭くなっていることに気づかなかったのだ。手探りで周囲を確認すると、どうやらこの場所で急激に狭くなっているようであった。
「痛かったけど、今の感触……岩や土じゃない……」
不思議に思った彼は天井をくまなく調べることにした。すると、どうやら天井は木の板のようであった。また、ある箇所だけ土と木の板の境目に滑らかな窪みがあった。
「これは、きっと木製の扉だ」
彼は窪みに手を入れ、全身の力を込めて扉を奥に滑らせた。
スーッ ザザァーッ
「ゴホッ、ゴホッ……」
砂が舞ったため、フィンは咳きこんだ。彼は服の袖で口と鼻を覆いながら天井の扉から外へと這いでた。
外へと出ると、そこは四方を岩壁に囲われた空間であった。
「上の方から光が漏れている……。おーーい! ! 誰かーー! !」
フィンは天井付近に横穴を見つけ、大きな声で叫んでみたが、声が反響しこの空間内だけで増幅しているようであった。
「これじゃあ出られない……。困ったな……でも、あの地下の部屋が隠し部屋だとすると、出入り口はここしかないはずだ……。きっと何か方法があるはず」
彼は目を凝らしながら周囲を見わたした。すると横穴のすぐ下から縄が垂れていることに気づいた。彼は縄へ近づくと、負荷をかけて強度を確かめた。
「うん。これなら登っても大丈夫そうだ」
彼は結び目のない縄に対し、手足を器用に使いながら登っていった。そして、縄を岩壁に固定している錨を片手で掴み、足の力を使って横穴へ這いあがる。
「ふぅ……。これは降りるのも大変だ……あっ、でも」
彼は登ってきた縄を手繰りあげ、向かい側へと下ろした。
ゴンッ
やがて、縄の先端に付いていた石が地面と当たる音が聞こえた。
「さて……もうひと踏ん張りだ。それにしても……」
彼は縄を伝って降りながら、懐かしい感覚を味わっていた。
「ここは見るからに坑道の中だ。しかも、作りがアンカラの坑道とそっくりだ」
下へと降りたフィンは、縄を元あった天井付近の横穴へと投げこんだあと、周囲を見わしながら呟いた。
「かなり入り組んでいるな。こんな時は……」
彼は服についていた毛玉を取ると、解したのち、空気中へと放った。
「なるほど……ということは、風上である入り口はこっちだ」
分かれ道があるたびに先ほどと同様の方法を用いて入り口を探す。それを何度も繰りかえしているとやがて入り口に辿りついた。
入り口から外へ出ると見覚えのある風景が広がっていた。
「まさかとは思っていたが……ここは、アンカラだ」
彼はなんとも言えない感情に陥っていた。空虚、諦念、安心、孤独、不安といった様々な感情が一遍に押しよせてくる。
「とにかく……帰って……眠りたい」
すでに体力の限界を迎えていた彼は、家を目指し歩きだした。途中、誰とも会うことがなかったが、疲れていた彼はとくに気にとめはしなかった。
(起きて! !)
(……ん?)
(起きて! !)
フィンは寝床から飛びおきた。
「なんだ! ? 今の声は……誰かいるのか? ……いや、どちらかというと頭の中で声が鳴った。夢か……」
眠りについてからまだ数時間程度しか経っていなかったため、彼は再び布団を被り横になった。しかし、屋外に数人の気配を感じ、すかさず枕元に立てかけていた短剣を手にとった。
「なんだ……この異様な雰囲気は……」
彼は寝床から出ると、ゆっくりと玄関へ近づき、少しだけ扉を開いて外を覗いた。すると、大柄な数人の兵士が会話をしながらこちらへ向かってくるのが見えた。
「初めて見る兵装だ……」
その兵士たちの兵装は、ジン王国の兵士や衛兵のそれとは異なっていた。また、全身を板金に覆われているわけでもないため、リエール王国の兵士の可能性も極めて低い。よって、考えられる選択肢は一つしかなかった。
「もしかして……ルーダン兵か……?」
フィンはその瞬間、ルーダン兵がステラを探しに来たのだと悟った。
「次はあの家だ。さっさと終わらせて帰ろうぜ」
「あぁ、住民がいたら無力化しろ。通報されたらマズい」
「もう一人も残ってねぇよ。それより、どうしてこんな臭い町まで来たんだぁ? 将軍の頭ん中が分かんねぇ」
「王様もよく分かってねぇって噂だ。とにかくこの辺の民家を調べることにご執心ってこった」
兵士たちが家の中へ入ってくることを察した彼は、一瞬、隠れられる場所がないか頭の中で考えた。だが皆無であったため、迎えうつことを決めた。人数差からして、不意をつく以外に逃げのびる方法はない。先手必勝。奇襲を掛けるのである。
「無力化だと……まさか殺したのか……! ? 落ち着け、とにかくここを突破するしかない。一か八かだ!」
彼は短剣に手をかけて、扉の前で待機した。兵士たちの話し声が扉の向かい側から聞こえてくる。
「ん、開いてるぞこの扉」
扉が開かれ、外の光が差し込んだ瞬間、フィンは襲いかかった。
彼の突きは兵士の甲冑を突き刺した。刺された兵士はうしろにいた兵士も巻きこみ、後方へ倒れこんだ。
フィンは勢いよく短剣を抜きとりながら、こう思った。
(急所は避けたし、傷は浅いはず。……とにかく、障害物の多い町中から、あの入り組んだ坑道へ向かおう!)
彼は短剣を握りしめ、倒れこむ兵士たちの間をスルリと抜け、一気に駆けぬけた。




