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猫と桜  作者: 詩音
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喜べ、男子。今回もラッキースケベ回だ。 第五章

  第五章 事件

「おふろ、おふろ♪」

 一糸まとわぬミヤの意気揚々な声が、浴場に響き渡る。

 高に異能のことを教えてもらってから、ちょうど30分ほど経った。

 ミヤはさっき高に、風呂が沸いたから先入ってこいと言われたため、お言葉に甘えてと風呂に向かって、今はもう入るところだ。

 さっと体を洗って、今日一日で流した汗を流すと、いざいかんと浴槽の方へ歩く………

「ん?なにこれ?」

 そこでミヤは無知の物体を目にし足を止める。

 浴槽の上で木の板がぷかぷか浮いていたのだ。なんの用途に使われているのか皆目見当もつかない。

 …………………

「まあ、いいか」

 しばらくその用途について考えたが、体の疲労が限界に近かったため、ミヤは考えるのをやめて板をどかして浴槽に入る。

「ふぅ、極楽ごくら、っ!ぎにゃあ!!」


 高は走った。

 先程浴場から、ミヤの叫び声が聞こえてきたのだ。

 高の人間離れした肉体がうなり、風呂には数瞬の間にたどり着いた。

「ミヤ!大丈夫か!?…………!!」

 高は目の前の光景に目を見張った。

 その光景とは……

「いたたたた………」

 生まれたままの姿のミヤがお尻に手を当ててうめいていたのだ。目には少し涙が浮かび、お尻は少し赤かった。

「ミヤ?何がどうしたんだ?」

 高はできる限りミヤの方を見ないように目を逸らしながら、問うた。なぜ今になって目を逸らしたかというと、ちょっと気が動転して忘れていたのだ。そして、冷静に考えてこの状態は覗きとほぼ変わらないだろう。流石にこうもそれはダメなことだと知っていた。

 というか、高とて10代の男子。女性の裸を見たら人並みに恥ずかしがるのだ。

 そして、申し訳なくもなるのだ。

(………やらかした)

 というか完全に申し訳ないという気持ちしかなかった。完全にお巡りさん、こいつですだった。

「じ、じんのうち。お尻が………じんのうち?…じんのうち!?」

 そして、ミヤはやっとここに高がいることを知ったらしい。顔を真っ赤にして、胸を手で隠しながら驚きのあまり飛び上がる。

 しかし、それが悪手であることに気づいたのだろう。自分の下を見て再度驚き、うずくまる。

 その時にはもうその可愛らしい顔には羞恥と怒り、そして、殺意がありありと浮かんでいた。

「あ、あの……えっと、ミヤの叫び声が聞こえて………いや、すいませんでした」

 高は普段向けられることのない感情に恐怖を覚え、言い訳をするが、自分の良心がそれを止めて、潔く頭を下げた。なんとも勇ましい生き様だろうか。

「じんのうちの………バカあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 数瞬後飛んできた豪速球の平手を高は甘んじて受け入れた。


「あのー?ミヤさーん?」

「バカじんのうちなんて知らない」

 プイッ

 なんかどこかで見たことのある展開だ。

 またもやミヤを怒らせてしまった。まあ、怒られて当然なわけだが流石に2回連続となるときつい。高はため息の一つでもつきたい気分だった。

 しかし、それはあまりにも不誠実だと思う。高はため息を飲み込むと、ミヤの方をむき、座ると、

「えっと………本当にすいませんでした……」

 深々と頭を下げた。ジャパニーズ土下座である。

 プイッ

 しかし、効果は表れない。

 ミヤは一度こちらをしっかりと見たが、まだ怒りを捨てきれない様子でそっぽを向く。

 それもそのはず、ミヤは今日、二回も女性的に恥ずかしいとこを見られたのだ。そう簡単に割り切れる話ではない。

 というか、こうもこんなことで許してもらえるなんて思っていない。もっと、しっかりと、この謝意が伝わるようにしなければならないのだ。つまり、そこから得られる答えとは………

「やっぱり、そうだよな…簡単に許せる話じゃないよな。……だから、責任取るよ。ほら、これ」

 高はそう言うと、一枚の紙切れを取り出した。

「?………!!!」

 それを見たミヤは驚愕に声が出せなかった。その紙切れとは……

「これに名前を書いてくれないか?」

 まさかの婚姻届だった。

「いや、ほんとごめんな。まず何もなしに許してもらうなんてことが甘えだったんだ」

「いや、ちょっ!」

 高は目を瞑り腕組みをしながら淡々とミヤに語りかける。もう完全に自分の世界に入っていた。

「やっぱりここはしっかりと責任を取る必要が」

「いや、だから待ってって!」

 ミヤは高をどうにかして止めようとする。だが悲しいかな、ミヤの小さな声は高にかき消され部屋の隅にへと溶けていった。

「だからさ、まぁ………幸せにするよ」

「だから、待てってぇぇぇ!!!!」

「うげふっ」

 やはり高を止めるにはこうするしかなかったのだ。ミヤ流猫パンチが高の鳩尾にゴーイントゥーする。うん、暴力こそ正義。

「な、何すんだ、ミヤ。はっ!まさかこれでも許してもらえないのか!?」

「当たり前だよ!」

 がーん!?

 そんな効果音が高の後ろに見えた気がする。しかし、ミヤは話を止めない。

「まずなんで反省の結果が結婚になるの!?ていうか大体それって女の子が責任を取らせて結婚っていうのが普通だから!男から責任取って結婚って何?下心しか感じないよ!?」

 いつになく饒舌に話すミヤ。 

「いや、そんなことはないんだが……うす。すあーせん……」

 どーん……

 そしてそれによりジリジリとメンタルを削られていく高。なんか最後は顧問にやんちゃがバレた運動部みたいになっていた。

「大丈夫、その気持ちは伝わってるから。私のためにやってくれたんだよね。それについては嬉しいから。だから元気出して?」

 ぱぁー

 高の顔に光がともった。

 まさかの飴と鞭である。ベストティーチャーミヤである。

「…あと、殴っちゃったのは私も悪かった。…ごめんね、じんのうち」

「お、おう。気にすんな、こっちも見ちゃったんだし」

 こうして、ミヤのファインプレーにより時間はことなきを得た。

「あ、それについては許さない」

「なんで!?」

 ………訂正、まだ解決まで時間がかかりそうだ。


 その夜、高は1人廊下に敷いた布団の上にいた。

 流石にミヤと一緒に寝るのはいけないと思うので高が「俺は廊下で寝るから」とこっちまで来たのだ。

「……ふう」

 高は今日のうちに溜め込んだ何かを吐き出すように息を吐く。息は静かに宵闇に沈む。

 ミヤとの同居生活の1日目が終わった。正直不安しかないが、そこは時間をかければどうにかなるだろう(希望的観測)。

 まぁ、とりあえずそれは置いといて

「ミヤ、お前は一体何者なんだ」

 そう、この疑問は今日彼女と会ってからずっと心中に渦巻いてい

た。彼女は一体何者で、どこから来て、何のためにここに来たのか、その全てが謎に包まれていて彼女自身も憶えていない。今後、ミヤのために何をすればいいのか皆目見当がつかない。

「………まぁ、考えてもしょうがないか」

 高はそれを最後の言葉に布団をかぶると意識を手放した。


 ちなみに、次の日の朝。

「………んぁ?」

 高は体になたかが触れているという圧迫感と蒸し暑さに目を覚ます。そして、その感触を不思議に思い、手探りに違和感の正体を探す。

 むにゅ。

 最初に当たったのはそれだった。

(なんだこれ?……なんか柔らかい?いや硬い?……あとあったかい………)

 高は微睡の中、手に触れたものを押したり撫でたりする。

「…やほんとなんだこれ………っい!?」

 手だけでこれがなんなのかを確認するのを諦め、高は潔く目を開けてその物体を視認する。

 それは、少女だった。朝日に照らされて輝く黒曜の髪、未だ幼さの残る素直さのある顔、そして何より頭と腰から突き出る耳と尻尾………まあ、ミヤである。

 つまり、高は今、みやと同じ布団で寝ているのだ。ついでに言うとさっきの物色で胸を触っている。

 高の頭に同衾、事案、性犯罪などといういかつい言葉が踊り狂う。それと共にもう夏なのかというほど額から汗も出てくる。

「………ん………」

 高から発せられるただならぬ雰囲気を感じたのだろう。ミヤは小さな声をあげると、その夜色の目を開け出した。

「っ!……あ」

「…に……あ」

 目が合った。

 さらに2人の視線は下の方へ………

「……にやゃぁぁぁぉぁ!!」

 胸のほうまで視線がいくと同時にミヤの鉄拳が高の顔面に吸い込まれた。

 高は少し涙が出た。

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