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風桜繚乱の記

西暦二千百年に突如発生した地球規模の気象災害により、世界中の現代文明が崩壊し全世界を恐慌に陥れた大災害、【グランドクロス】により地球は白銀の世界に一変した。これは過酷な世界で人間種、長命で様々な能力を持つ多神族が全てを無に帰そうとする創生神の一派に立ち向かう物語である。


長編小説白銀の轍中盤に登場した組織【サイベルベリアン】の1人。大アルカナ級の実力ある剣士リードと、彼に憑依した神霊春日桜華が共に行動するきっかけとなった過去の出来事になります。


閉鎖した旧HPにて連載、まぐまぐにて先行配信していた長編小説、白銀の轍の外伝シリーズになります。配信していた内容まで公開し、執筆次第投稿させて頂きます。

オリジナル用語が多数あるため、本文に説明ぽく加筆しましたが、後書きらへんで枠を設けようかと考えております。


とある一室。窓から差し込む陽射は洋風の室内を黄昏に染めていく。


黄金の光が朱の床に、壁一面の本棚に乱反射し、天井には豪奢なシャンデリアが煌めくその真下には、社長室を思わせるような書類で埋め尽くされた重厚な机が重々しく置かれていた。

壁に掛けられた古時計の針が規則正しく刻を告げる以外、静寂に包まれた世界。


その空間に一人。黄昏を背に椅子に座り、目の前の展開された書類に目を通していた男がいた。

逆光で表情は見辛いが、眼鏡の奥に隠されたその素顔はまだ若々しく見える。

「遅い……!!」 

不意に室内に響いた声に青年は顔を上げる。青年の視線の先……、室内の扉近くにいた人物が呟いたのだ。


光が生み出した影により全貌を確認することはできないが、その声の主が一喝した後、部屋を行ったり来たりする度に容姿がちらりと見え隠れする。白の軍服を纏った女性であった。

広々とした書斎を甲高いヒールの音が次第に強く速まっていき、彼女は苛立ちを隠せないでいた。


その忙しない麗人に椅子に腰かけていた青年は見かねて尋ねる。

「もう少し待って頂けますか? 春日殿」

「しかし聖殿! もう、かれこれ一刻も経つではありませんか!?」 

声を荒げた主が机へ勢いよく手を叩きつけ、書類に敷き詰められた机上に震動が走る。二人の距離は机を隔て縮まり、日陰から現れた麗人の細い腕に陽の光が当たり、姿がはっきりと目視できた。


上から下まで完璧に着こなされた白銀の軍服を纏うすらりと背の高い容姿は、さながら某大企業の社長秘書と見えなくもない。軍功の証である勲章が飾られた蒼の腕章が左腕にない限りは。

洋装とは打って変わり、東洋系の端整な面立ちに纏まりこそないが、妖艶さを醸し出す栗色の乱れ髪に隠れた桜色の双眸。そして、ざんばらに結わえ上げられた先に、添えられた銀の簪が彼女の美しさをより一層際立たせていた。

「貴方が仰るから私はお待ちしていましたが……これでは今後の作戦に支障が生じまする!!」 


書類から目を放した青年―――、聖と呼ばれた青年は両の手を組む。


「担当者の着任が遅れているのは謝罪を申し上げます。かと言って、今回の視察は貴女方【ブランシェ】の管轄外ですよ? その国がいくら貴女の祖国だとしても、その任務を受けているこちらの許可がない限り介入の承諾はできません。今、貴方を待たせているのは私の誤算でもありますが……」

青年の言葉に春日は言葉が詰まる。

確かに春日が所属する部隊は主に国軍活動―――。つまり、公式な軍隊であるが故に、表だって行動できる範囲が制限されている。

「其方さんの使命は私も詳細は存じてませんし、当方の任務に支障が出ても困る。現地における貴女の権限はないにも等しい。勿論、それはこちらにも言えることなのですが、長期潜入している担当者を介してなら……と、【御三老】から直々の許可があってのことです」 

春日はそれ以外の目的があって、敢えて非公式の部隊で行動を制限されてない【シュバルツ】に申し入れた可能性も高いのでは―――と、聖は考えていた。

「其方の任務には一切干渉しないと信書にあったはず。何も今、担当者は会わずとも貴方であればよろしいはず!」

「私はただの専務ですからね。信書には『それなりの実力を持つ小隊長以上の権威を持つ【小アルカナ】を護衛につけてほしい』とありますし。それはそれとして……彼は優秀ですよ。それは保障致します」

その者は今回の件を任命された担当者の一人、しかも小アルカナの【スォードのキング】だという。この世界では裏表問わず、シュバルツもブランシェにも名が通っており、特に偵察から戦闘活動と幅広い活躍をしているらしい。

ならばその者が護衛と言う形でついてもらうのだから、現地の状況に詳しい要員を充ててくれるのはこちらとしてありがたい。行動がどこまで制限されるかはまだ解らないが。


―――ただ、時間厳守でないのが悩みの種だが……


コツコツ


静寂を破るが如く、突然扉の向こう側からノックの音が響く。

「入りなさ……」

扉の方へと声を掛けるが、聖が言い終わるのを待たず、扉は開かれた。


「えーと……、聖さん、すみません。道に迷ってました……。リードです」


抑揚のない、素頓狂な声が空間を壊す。


そこに現れたのは小柄なりにも【シュバルツ】の黒い軍服を纏い、腰には装飾刀を携えていた。剣をシンボルとした小アルカナ部隊「スォード」の隊員だ。手首の袖止めを見る限り、階級は少佐、しかも左腕の腕章には柘榴のように紅い十字紋様があり、シュバルツの中でも軍律に厳しい大アルカナの一部隊、【正義】隊の一員だと一目で解った。


―――しかし。

本来美しい濡烏の礼服は所々埃を被り、ネクタイも緩んでおり、頑丈で決して粗雑な素材ではない布地は、擦り切れ、ぼぼけており、乱れた服装であった。

何よりも本人の素顔は、寝癖なのかぼさぼさの翡翠色の髪に隠され、鼻から上は覆われており、顔半分は全く目視することはできない。見る限り、小汚らしい者と認識せざるを得なかった。


「リード……貴方はどうして時間を守れないのでしょうか……」

冷静且つ沈着な聖もさすがに眉間に皺を寄せ、ずれた眼鏡をかけ直す。春日は聖が呟くだろう次の台詞を精一杯否定したくてたまらなかった。


「……春日殿、御紹介します。彼がサイベルベリアン【シュバルツ】No.ⅩⅠ正義ジャスティスの11-09にして、小アルカナ、スォードのキングである【吟遊剣士】、リード・オン・グリンカ少佐です」 


壮麗な貴婦人の表情が極寒の冷気に当てられ強張る瞬間だった。


「……え……あ゛……!?」 

あまりのことに驚きを隠せない桜華の脳内回路は、目の前の現実に逃避したいほど焼き切れ寸前であった。

―――これが……こいつが【吟遊剣士】、【踊るように美しい戦場のソードダンサー】、【フォグナードの疾風】、【西洋の鎌鼬】ぃ!? 


各国を脅かし数々の通り名から生まれた伝説の人物が……ほんとに、こいつ!? 


 事前に調べていた彼の経歴にあった武功と通り名が脳内にぐるぐる犇めく彼女へ、更に止めの一撃が下される。

「聖さん……用事って、何でした?」

冗談なのか真実なのか、彼女にとってそれ以前の問題発言であった。


春日の臨界線が今、切れた。


「~~~この、阿呆っっ!! 一体いつまで人を待たせるつもりかっ! しかも普通、約束の時間前には着ていて当然であろう!! 貴様、どれ程の時間を掛けて来たのか!! またなんだその服装は! 軍人以下か! 人間以下か! さっさと身なりを整え配置につけぇ――っ!!!」

 

さすがに長い時間待たされた彼女はあらん限りの文句を並べる。室内に貴婦人の荒々しい息遣いが響き渡るが……。

「えーと……誰?」 

緑柱石色の乱れた髪が左斜めに垂れ下がり、その拍子に頭上にあった軍帽も滑り落ちる。

いつものことだと理解している聖は一息つくと、失神しそうな淑女を辛うじて現世に引きとどめた。

「リード少佐。彼女は春日桜華、ブランシェ特務調査官です。階級は特別少佐。現在貴方が着任している現地へ同行。彼女をサポート及び護衛の任についてください。

桜華殿……ここは一つ穏便に進めてください。彼は確かに『ああ』、ですが……任務遂行は全て完遂しています。彼なくして貴女の任務は成功しないと言っても過言ではないでしょう。時間が無い今、他の要員を派遣するわけにはいかないのです。どうぞご理解を」 

―――先行き不安な任務の始まりだった。

オリジナル用語が多くて申し訳ないです。

過去に解説した物も含め、後書きでご説明出来れば幸いです。

校正を時々していましたが当時の執筆ほぼそのままですので、ご指摘頂ければありがたいです。

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