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時の勇者の伝説  作者: 雨音 陽香 編集:M
序章  『日の沈む国と時の勇者の立志』
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序章 8  『勇者は裏切り者』

 


 どこからともなく現れた風の刃によって体をバラバラにされ、上半身を吹き飛ばされた兵士の体が崩れ落ちた。


「どこの誰だか分かりませんが、御協力感謝致します」


 先程まで拘束されていたはずのウェスタはいつの間にか周りの兵士を眠らせて拘束から解放されていた。


「なんだ…?貴様、その手錠は魔抗石で作られた特殊製だぞ…何故魔法が使える?」


「ああ、それならこの通りに」


 ウェスタは砕け散った魔抗石の手錠を見せつけた。


(何だ…?何が起こっているんだ…?)


「クロノ!お母様を連れてきてください!逃げますよ!」


 ウェスタの言葉にハッとしてクロノはルシアの元へ行き、肩を貸してウェスタの後をついて行った。

 クロノの手錠もルシアの手錠もいつの間にか壊れていた。


「こっちです!」


 一足先に進んだウェスタが行く手を阻む兵士を蹴散らしながら進み続ける。

 先程までいた王座の間は城の最上階。

 城を正面から見て右側の螺旋階段を降りる。

 ウェスタのおかげでスムーズに進む。ウェスタは兵士を殺さないように吹き飛ばすに留めているようだ。

 だが、スムーズに進めたのはそこまでだった。


「こんな事もあろうかと待機していて良かった」


「サボって寝てただけでしょう」


「あーそれ言うなよ。見せ場だろ?俺達の」


 螺旋階段の終わり、1階部分で3人を待ち受けていたのは短い黒髪の大柄な男と黒い髪を後ろで束ねた小柄な女だった。


「俺はレグステリア近衛騎士団 団長 リグレット ルーブルだ」


「そして私は近騎士団 第一部隊 隊長 ネシア ルーブルだ」


「さあ裏切り者さんよ、殺り合おうぜ」



 ✼••┈┈••✼••┈┈••✼◆


 クロノとルシアは男、ウェスタは女の二手に別れ1人づつ相手にすることになった。



 クロノはルシアを抱えたまま城の右手から中央へと移動しリグレットと対峙する。


「俺はあの勇者さんと戦えて光栄だぜ。任命式の時は任務で出払っていたからな。ん?てこたァはじめましてってことか。まあよろしく頼むよ存分に殺り合おうじゃねぇか」


「なあ、どうしても戦わないとダメか?俺は人間を敵には回したくないんだ」


「あァ?てきにまわしたくねぇったってもう回してるようなもんじゃねえか。魔王と手を組んで人界を滅ぼそうとしてるってもっぱらの噂だぜ」


「そうか、勘違いさせて悪いが俺は魔王とは一切繋がっていない。魔王が瀕死の俺を助けたと言う話を聞いたが俺にはその理由がわからない。だが、この戦いはケリをつけなくちゃいけないようだな」


「おう、分かってくれて嬉しいぜ。俺はてめぇを殺そうとして戦う。だからお前も俺を殺すつもりでかかってこいや」


「分かった、不本意だがお前を殺そう」


 クロノはルシアを背中に背負いながら剣を握る。

 対してリグレットはその身に合わぬ細身の剣を出した。

 その細剣は刀身が長く、薄く、鋭く尖っており、切ると言うよりは突くことを重視した武器だ。

 クロノは先手必勝。と、リグレットへと走り出した。

 まずは下段構えからの振り上げ。

 しかしリグレットは横にスッと移動すると細剣を一突き。

 クロノの右手を突き刺した。


「っ!」


「勇者さんよぉ、その荷物下ろしたらどうだ?それじゃあ全力で戦えないだろ?」


「母さんを…荷物だと?」


「ああ悪ぃ悪ぃ、あまりにも動かないもんだから人だと思わなかったよ。俺も一国を背負う騎士だ、騎士道精神に反する戦いはしたくねぇ。勇者さんならそんなのハンデにもならねぇと思ったがあまりにも過大評価し過ぎていたようだ。てめぇはガキだ。弱いガキだ。俺には勝てねぇよ」


 ✼••┈┈••✼••┈┈••✼◇


「男共は行ったね。じゃあ、始めようか」


(なんでしょうこの方、悍ましい魔力を感じます。まさか…)


「返事くらいしてくれてもいいじゃない?」


 ネシアはウェスタに火球を飛ばす。

 それをウェスタは気にもせずネシアへと歩き出す。


「へぇ…!あんた、魔法が効かないんだ」


「効かないと言うより打ち消しています」


 魔法を打ち消すなど普通の魔法使いに出来ることでは無い。威力、速度、角度、属性、それら全てを完璧に対応させなければ打ち消す事など不可能なのだ。


「あんた凄い腕の魔法使いなのね。まあいいわ、ならこれはどうかしら?」


 ネシアは腰から柄だけの剣を抜き取るとその柄から魔力で出来た剣が現れた。


「これは魔剣、持ち主の魔力によって強さが変わる不思議な剣。そして私は王国内で最も魔力が強い。その意味がわかるかしら?つまり何者にも負けないってことよ」


「ああ、なら残念なお知らせです。私は人界の者ではありません。私はあなたより強い」


「あら、では戦ってみましょうか。私が勝てば真の頂点ということで…ね?」


 ネシアはフフと微笑むとウェスタを切りつけた。


「ですから、魔力での攻撃は無意味だと言いましたよね?」


 ウェスタはその魔力の刀身を掴み受け止める。


「心外だわ、この魔剣の恐ろしさはここからよ」


「?…っ!?」


(なんでしょう…魔力が吸い取られる…!?)


「気付いたかしら?この魔剣は触れた魔力を吸収してさらに強くなるの…。ああ、最高だわ!あなたのような上質な魔力に溢れた人間なんて私以外はもう狩り尽くしてしまったの!まさかこんな日が来るなんて!生きてて良かった…。さあ、もっと楽しみましょう!この殺し合い(パラダイス)を!」


 ✼••┈┈••✼••┈┈••✼◆


「はぁ、そこまで言われてやらないのは男じゃねえ。俺が勝ったらお前は最弱だ。いいな?」


「ああ、構わない」


「母さん、ここで待っていてくれ」


「えぇ、気をつけてね…」


 クロノはルシアを丈夫そうな柱の近くに座らせると剣を槍へと変化させた。


「さあ、続けよう」


「武器が変わるのか、良いねぇ面白い!さあ、殺ろう」


 クロノとリグレットは互いに走り出す。

 クロノはリグレットが間合いに入った瞬間一突き。

 しかしリグレットはそれを見越していたかのように横へ飛び再び一突き。

 クロノは咄嗟に槍を地面へ突き立てて体を浮かしその突きを避ける。

 ─こいつ、毎度毎度横へ飛びやがって…。なら…

 クロノは突きを繰り出した状態で隙だらけのリグレットへ槍の横薙ぎで攻撃する。

 槍の切っ先がリグレットの右腕へと迫る。

 当たった!と確信するも槍が捉えたのはもう一本の剣だった。

 ─二刀流!?


「いつ、一刀流だと言ったか?」


「面白い」


 リグレットは細剣と長剣、2種類の剣を左右に構えた。

 クロノは二刀流相手に槍は不利だと判断し剣へと戻す。

 リグレットはクロノのその行動が終わるのを待ってから一気にクロノに近づき2本の剣で猛攻を仕掛ける。

 突きと斬撃、その2種類の攻撃がクロノを追い詰める。

 万全のリグレットに対しクロノは利き腕ではない左手だ。

 槍でも剣でも不利だと言わざるを得ない。

 しかしクロノもただやられていただけでは無い。

 攻撃を防ぎつつどの方向から攻撃が来るのかを見ていた。


(左、突き、上、突き、右、突き、下、左…)


「もう終わりか?本気を出すと言ったくせにダメダメじゃねぇか!」


 ─よし、一秒でいい。戻れ

 クロノ以外の時間が一秒戻る。

 ─まずは左

 左から攻撃を剣で払う。

 ─次は突き

 腹に穴を開けんと迫る細剣を体を回転させながら避ける。

 ─次は上

 上からの攻撃を剣で逸らす。

 ─また突き…次が右なら

 クロノは右へ一歩進み突きを避け右からの攻撃を封じる。

 その隙にすかさずリグレットの右手の正中神経を切断した。

 リグレットの左手から血が吹き出し、手から剣が落ちる。


「ぐぉ、お、おお」


 リグレットは右手の細剣を離し左手を押える。


「こんな、こんなせこい手で傷を負ってしまうとは…。てめぇには騎士道精神ってもんがねぇのか?」


「すまないが俺は騎士では無い。それに、せこいとはいうがあの技をやるには命がかかっているんだ。そんな生半可なものでは無い。じゃあ、死にな」


 クロノに訴えるリグレットを一蹴し、そして

 ─首を撥ねた。


「相手が俺じゃなかったらよかったな」


 クロノは代償が来るのか…と覚悟し身構える。

 しかし、何もなかった。


「なんだ?だが、何もないのなら都合がいい。ウェスタの方へ行こう」


「ぇ、、母さんは…!?」


 ✼••┈┈••✼••┈┈••✼◇


 クロノがなにかに気付いた時より少し前


「良いわあ…最高よ、あなた…」


 ウェスタは苦戦していた。

 ─触れた魔力を吸い取る剣…それがここまで厄介だなんて…。発動した魔法も全部吸い取られてしまいます。いくら私の魔力が底無しだとしても相手が強くなってしまえば負けてしまうかもしれません。ならば、魔剣を持った手ごと吹き飛ばせば…でも、遠くからではまた吸い取られてしまいますね…。


「早く決着をつけましょ…。あなたの力はもう残っていないでしょう?」


「そうですね…。では今から決着をつけましょう。今からあなたは詰みます」


「何を…?」


 ウェスタはネシアへと走り出す。

 ネシアの腕を掴み、破壊すると言う考えだ。

 しかしネシアも楽にはやられてはくれない。

 ウェスタの手を避けつつ隙あらば攻撃をしてくる。

 魔剣に吸い取られたタイミングでウェスタの魔法が段々使えなくなってると思わせるために魔法防御壁が無くなってしまった為先程までは気にする必要もなかった攻撃も全てが致命傷になりかねない。

 だが、ウェスタはそれでも止まらない。

 そしてついにネシアの魔剣を持つ手を捕まえることに成功した。

 そして、魔力を込めその手を破壊した。

 その瞬間、ウェスタの体が崩れ落ちた。


(何…?何故体が動かないの…?)


 その隙をネシアが見逃すはずもなく歯を食いしばり痛みを我慢しながら落下した魔剣を足で蹴り飛ばし、─ウェスタへと突き刺した。

 ウェスタはそのまま崩れ落ち階段の下へと転がって行った。それを見てネシアはニィッと気色悪い笑みを浮かべた。


(早く…これを抜かないと魔力が…。でも、体が動かない…何故…?)


 それはクロノとウェスタの感覚を共有したことによるものだった。クロノが力を使った代償がクロノにでは無くウェスタへと流れてしまったのだ。


(このまま…私は、死ぬ…!?嫌だ、死にたくない…クロノ、助けて…)


 ✼••┈┈••✼••┈┈••✼◆


 ウェスタが刺された時より少し前


「母さんがいない…?」


 クロノは目を離した隙に消えてしまったルシアを探していた。


「母さん!!どこ?!」


「やあ、少年。探し者はこの人かな…?」


 声のした方を見ればそこには眠る母と1人のの少女がいた。その少女の髪は綺麗な銀髪で、瞳の色はクロノと同じ少し黒みがかった赤だった。


「誰だ…!!?母さんを返せ!」


「やだなぁ…まるで私が君の母親を殺そうにしてるみたいに…。君達を王の拘束から解いたのも君の母親を君と団長の戦いから遠ざけて、その上回復までしてあげたのに」


「なんだって…?それは、すまない。ありがとう助けてくれて」


「うんうん、それでいいよ。まあ私は勇者君に恩を売りに来ただけだからね、この未来視の力で見ちゃったから」


「?未来視…?」


「ああ、いや、なんでもないよ!うん、なんでもない!そ、それより…早く彼女の元へ駆けつけた方がいいよ。でないと君は後悔することになる。あ、そうだ一応自己紹介をしておこう。私はここから南のゲヘナ山脈を超えた先にある迷いの森に住んでいるエルフさ、名前は…。ん、あまり時間が無いね、早く彼女の元へ行きな」


「うん、分かった。ありがとうエルフさん。母さんは任せた!」


「うん、ってええ!?私もう帰らないとまずいのに…。どうしよう」


 恩を売るのも大変だ。と思う銀髪のエルフであった。


 クロノはウェスタがいるはずの城の右手へと続く扉を開いた。


「…!!」


 押し開いた扉は床に溜まる血を波立たせる。

 そこにいたのは腹部を刺され大量の出血をし、苦しそうにしているウェスタと、それを見て高笑いしている狂人ネシアだった。


「ウェスタ!!大丈夫か!?」


 クロノは急いでウェスタへ駆け寄るとその腹部に突き刺さったままだった魔剣を抜き取りウェスタに治癒魔法をかける。

 ウェスタはなんとか意識を保っていたようで傷が癒え始めると少しずつ喋りだした。


「よかった…クロノは、無事でしたか。お母様は?」


「母さんならエルフに任せてきた!それより喋ると傷が広がるから静かに!」


「ありがとう、ございます。もう傷は大丈夫です。ですが、何故か体がやけに重く感じて立てません…」


「大丈夫だウェスタ。そこで寝ていろ。俺があいつを殺す」


「任せていいですか…?どうか、この不甲斐ないパートナーをお許しください」


「大丈夫だウェスタ。お前は不甲斐なくなんかない。待ってろ」


 クロノはネシアの方を向き話しかける。


「なあ、お前」


「どうしました?裏切り者の勇者さん」


「お前の人生にもう悔いはないか?」


「ええ、ここまで素晴らしい人に出会えたのならもう死んでもいいと思っています…ですが…」


 ネシアが言葉を続けようとした瞬間、クロノが放ったゲイボルグがネシアの体を貫き、滅ぼした。


「なら良かった。安心して殺せる」


 クロノは朽ち果てていくネシアに見向きもせずゲイボルグを回収し、剣に戻して背中の鞘へ戻すとウェスタを抱え、ルシアを任せておいたエルフの元へと戻った。


「あ、戻ってきた!早かったね?…いや遅いよ!早く帰らないといけないのに私!」


「あぁ、すまない。エルフ、言ってしまう前に最後に1つ頼みがある。ウェスタを治せないか?なにか呪いのようなものが…最悪俺に移すんでも構わない。出来るか?」


「出来るか出来ないかで言えばできるけどもっといい方法があるよ。ちょっとまってて」


 そういいと銀髪のエルフはどこかへ行ってしまった。

 数分後戻ってきた銀髪のエルフはクロノ達を殺そうとし、ウェスタがこんなことになる原因を作った国王を連れて帰ってきた。


「どうせ移すのなら憎い相手に移した方がいいでしょ?」


「ああ、面白いなお前…。じゃあ、頼む」


「な、何をするんだ!?俺は国王だぞ!?や、やめろ!やめてくれー!!」


「やーだ。やめない」


 銀髪のエルフは問答無用で国王を押さえつけウェスタの体についた代償を国王へと移した。


「ああぁぁぁあああ!!ぁ────」


 国王は呻き声をあげ、ついに何も言えなくなってしまった。


「あら?もうなんも言えなくなっちゃったみたい」


「見るに堪えないな。ありがとうエルフ。この恩はいつか必ず…」


「いいよ、それと私の名前はエルフじゃなくてララだよ。よろしくね。じゃあ私はこれで!」


 そう言うと銀髪のエルフ──ララはすごい速さで城を後にした。


 クロノは前にウェスタ、後ろにルシアを抱え村まで行こうとしたが、途中で断念しなんとか母を起こし、村まで帰ったのであった。


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