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時の勇者の伝説  作者: 雨音 陽香 編集:M
序章  『日の沈む国と時の勇者の立志』
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序章 4  『勇者の力』



 穴の奥へと進むと階段が見えた。


「ウェスタ、灯りを」


暗すぎてこのままでは進めないと判断し灯りを要求する。

ウェスタは荷物からランタンを取り出し魔法で灯りをともす。


「ありがとう」


ウェスタからランタンを受け取り階段をゆっくりと降りてゆく。

階段をおりた先には祭壇のような場所があり、その手前には祈りを捧げるためのものなのかクロノの勇者の紋章と同じ模様が刻まれた円状の広場があり、その周辺には4本の支柱が立っていた。

クロノがその祭壇へ近づくとぼっと音を立てて支柱の上に緑色の炎が灯された。


「なんでしょう?」


すると2人の脳内に声が響いてきた。


『選ばれし時の勇者よ、祭壇へ宝石を捧げ祈るのだ』


「クロノ、さっきの…」


クロノは荷物からマルクに貰ったライムグリーン色に輝く宝石を取りだし祭壇にある穴にはめ込み、円状の広場の中心で祈りを捧げた。


『もういいだろう。目を開けよ』


クロノが目を開けるとそこは祭壇ではなかった。


「ここは…」


そこは白い地面と黒い空でできた途方もなく広い世界だった。

至る所に時計塔が建っていて、どこか不思議な世界に迷い込んでしまったように思えた。


「ここはあなたの精神世界。私たちが時の回廊と呼ぶ場所です」


どこからともなく美しい銀髪をなびかせた美少女が現れた。


「よくぞここまで来ました。と言っても今回は私がローゼ家に託した意志がようやく石となってたどり着いたにすぎませんが…要は出来レースです」


その少女はやけに寒いギャグを挟みながら言葉を続ける。


「この場にたどり着いたあなたにはある力を託しましょう。それは、第八の勇者ローラン フリックの力。クーフーリンの加護、破槍ゲイボルグです。どんなものでも貫く百発百中の必殺の槍、それが破槍ゲイボルグです。あなたが戦いの中で使いたいと思った時、あなたの勇者の剣が変形する様を思い浮かべなさい。そうすればあなたの勇者の剣は破槍ゲイボルグへと変形し、どんなものでも貫く百発百中の必殺の槍へと変わるのです」


クロノは突如として第八の勇者の加護を手にすることとなった。


「何故俺にそんな力を渡すんですか?俺はただ祈りを捧げただけなのに」


「それはあなたの力です。全ての始祖、原初神ケイオスの加護。全ての原初であるそれは全ての力を得ることを可能にするのです」


「俺にそんな力が…?知らなかった…」


本来この世界では全ての人は5歳の頃に加護の有無を知覚し、加護が有ると知覚した人間は王都レグステリア内の神殿にてその加護の詳細を知らされます。つまり12歳以前の記憶が無いクロノが知らないのは当然なのです。


「あなたの能力は歴代勇者全ての加護を自らの物にするというものです。ただしそれにはある条件があります。それが、この宝石です」


そう言い少女はクロノが捧げたライムグリーンに輝く宝石を空間に映し出した。


「これと同様にかつての勇者達の力を宿した宝石があと10個あります。それを見つけ、再びこの場に戻ってくるのです。さすればあなたは新たな力を手にすることが出来るでしょう」


「どこを探せばいいのでしょうか?」


「私はそれらをそれぞれの勇者に縁のある一族に託しました。世界各地にいるはずの彼らを探しなさい」


「わかりました」


「それではあなたの意識を現実に戻します。頑張ってくださいね」


少女が手を振ると辺りが光に包まれ──。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••


「クロノ、何かありましたか?」


クロノが起き上がるのを見てウェスタが後ろから声をかける。どうやら手持ち無沙汰で階段に座り込んでいたらしい。


「順を追って話そう」


クロノは時の回廊での出来事をウェスタに事細かに説明した。


「なるほど…。ちょっと今そのゲイボルグとやらを出してみてくださいよ」


「ん」


クロノは勇者の剣を背中の鞘から抜き取ると変形する様を思い浮かべた。すると剣の形がみるみる変わっていき赤い槍身に金の装飾を施した3mはあろうかという立派な槍へ変貌を遂げた。


「凄い…!!その槍から神聖なオーラが伝わってきますね!これが第八の勇者の力…!」


その槍が発するオーラにウェスタが驚きの声を上げる。


「ああ、凄いなこれは…。しかし、長すぎないか?」


クロノがそう言った直後槍が2m程に縮んだ。


「うおっ!?縮んだ…。これはちょうどいいな」


クロノの身長は165cmであり3mは長すぎるが1mは短すぎる。2mという長さはクロノにとっては扱いやすいちょうどいいサイズなのだ。


「それは良かったです!遅くなりすぎるとマルク君を待たせすぎてしまうので戻りましょうか」


「うん」


クロノは槍を剣に戻し、階段を上がるウェスタについて行く。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••


「おお、遅かったな。本を2冊も読み終わってしまったよ」


階段を上がり穴を抜けると入った時と変わらぬ姿でマルクが待っていた。


「やあ、お待たせ」


「まあ、そんなに待っていないよ。今から家に戻るから着いてきな。そこで俺の一族のことについて教えてやろう」


そう言うとマルクは出してある椅子や本をカバンに詰め込み立ち上がると歩き出した。それにクロノ達はついて行く。橋を渡り、路地を抜け、しばらく歩かされたどり着いたのは他の建物と比べ比較的大きい屋敷だった。


「ここが俺の家だ。今父に来客があることを伝えに行くから少し待ってな」


マルクは先に1人で屋敷の中に入り、5分ほどして戻ってきた。


「よし、大丈夫そうだ。入りな」


マルクについて屋敷へ入る2人。2人は屋敷の2回の奥の部屋へ通された。そこは書斎のような部屋で色々な本が書架に収められていた。本が貴重なこの世界では驚くべき光景であった。そしてその部屋には一人の男性が待っていた。


「やあ、初めまして。私はマルクの父のハンク ローゼです。君があの第十二の勇者だね?」


マルクの父と名乗った人物─ハンク ローゼは灰と黒が混じったロン毛のスーツが良く似合う男性だった。


「はい、俺の名前はクロノです。そしてこっちは仲間のウェスタです」


クロノは自己紹介をし、ついでにウェスタの紹介もする。それに応じてウェスタがよろしくお願いしますと一言言う。


「そんなにかしこまらなくていいよ。それで、聞きたいのは我が家と勇者との関わりについてだね」


「はい、よろしくお願いします」


「それでは話そうか…私の一族、ローゼ家の御先祖様はね、第八の勇者ローラン フリックを育てた人物なんだ。彼はある日ローゼ家の家の前に捨てられていたそうなんだ。それを発見した御先祖様が彼を見つけた時に空にドラゴンが飛んでいたことから彼は龍王の子供だと言われていたそうだよ。ちょうどこの間の時の感じだよ。今日飛んでいたのは魔法だったようだけどね。そうそう、東の龍の伝説という話を知ってるかい?」


「はい、俺の家にそれについての本が1冊ありました」


「ほう、珍しいね。あれは全六巻の割と長編の物語でね、その上世界にそれぞれ3冊しかないと言われているんだ。事実かは知らないがね。私が所持しているのは1、2、4巻だけでね。あれは相当に貴重な物だよ。ああ、話が逸れてしまったね。話を戻そうか。彼を見つけた時に空を飛んでいたドラゴンはその龍王と言われているんだ。そうそう、東の龍の伝説によれば君がその身に宿す神々の力 加護は龍王によるものだそうだよ。龍王が人間達に与える力というのがいわゆる加護なのだよ。ああ、申し訳ない…また話が逸れてしまったね。まあ、つまり我々一族は勇者を育てた人が作り上げたものなのだ。それに、代々ドラゴン博士を受け継いでいるのはそういうことがあったとされているからなんだ。これが我々一族と勇者との関係性の正体だよ」


「なるほど、ありがとうございます」


「君はもうあの穴には行ったようだね。マルクから話は聞いているよ。マルクが渡した宝石はローラン フリックの死後神々から与えられたと言われているんだ。何に使うものかは分からないがとにかく第十二の勇者に渡すように、ということだけ言われていたんだ。して、あの中には何があった?言い伝えによればあの中には祠があると言うのだが…」


「はい、あの中には祠がありました。その中で俺は第八の勇者の力を貰いました」


そう言いクロノは剣を取り出し槍へ変形させハンクに見せる。


「おお…!!これは正しくローラン フリックの使っていた破槍ゲイボルグではないか。この目で見ることが叶うとは私は今人生の中で一番感動している!」


ハンクは興奮が隠せないようでゲイボルグについて何やら語り続けていた。どうやら自分の好きな分野では脱線しがちであったり熱く語りすぎてしまうような性格の持ち主らしい。


「はぁ、はぁ…すまない、少し熱く語りすぎてしまった…。ともかく、それは素晴らしいことだ。それで、君の力はケイオスの加護か…。その力のおかげで全ての勇者の力を得ることが出来るんだな。それに必要な宝石は我々のように勇者にゆかりのある一族に託されているわけか…。あっ!!そうだ、1つ心当たりがある。勇者にゆかりのある一族についてだ。しかし今日はもう遅い、また明日来なさい」


心当たりがある。という言葉に顔を見合わせるクロノとウェスタ。2人は驚きと嬉しさが混じったような顔をしていた。


「はい、ありがとうございました。また明日来ます」


ウェスタがそう言って席を立つのに続いてクロノも席を立ち例を述べて部屋を出る。屋敷の外まではマルクが案内してくれた。


「明日は朝から来てくれて構わない。じゃあな」


マルクの素っ気ない挨拶に苦笑しつつも2人も別れを告げ馬車を止めて置いた宿に向かって歩き出した。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••


「おお、結構広めの部屋なんだな」


2人が取った部屋はその宿の中で最上級の部屋だそうだ。受付の方に何やら意味深な笑みを向けられたがあれはなんだったのであろうか?よく分からなかったが特に意味は無いだろう。とクロノは思考を放棄し綺麗にセッティングされたベッドに飛び乗る。


「おや、この部屋お風呂が付いているみたいですね。私が先に入ってもいいですか?」


「うん、俺は一休みしたいから先に入っていいよ」


「では、お言葉に甘えて…」


ウェスタは部屋に備え付けのタオルを持ちお風呂へ向かった。



「これが…湯船……!!」


ウェスタがお風呂の戸を開けて最初に見に飛び込んできたのは木をくりぬいたような形の湯船であった。


「人界では湯船というお湯を張った入れ物に浸かるという文化があるとは聞いていましたがここまで立派だとは…!!これは入るのが楽しみですね…!でもでもその前にしっかり体の汚れを落とさなければなりませんね、実に煩わしいです。急いで済ませましょう」


と言いつつもウェスタは丁寧に体を洗い、その次に美しい長い髪も丁寧に手入れする。

やがて洗い終わったウェスタはそっと湯船に足を入れ温度を確認するとそっと足を入れた勢いのまま体を湯船の中に沈める。


「あぁぁぁああぁぁぁ……これが湯船ですかぁ……これを始めに考えた人は天才すぎますね……あぁ、身も心も解されます……」


ウェスタは実に気持ちの良さそうな声を上げ湯船に溶けだしてしまいそうだ。ウェスタはその後も2時間もの間そうしていた。

するとさすがに心配したのかクロノが大丈夫か!?と言ってドアの向こうから声をかけてきた。

さすがに長すぎたか…とウェスタは反省し急いで湯船から出るとシャワーを浴びてお風呂を後にした。


「ウェスタ、お前大丈夫か?さすがに長すぎるぞ」


「えぇ…ご心配おかけして申し訳ありません。少しのぼせてしまいましたね…。ところで、あの、覗きましたか?お風呂のドア、上の方隙間が空いてるんですよね…」


身体中から湯気を立たせいい匂いのするウェスタはじとーと火照った顔でクロノを見つめる。


「の、覗っ!?そ、そんなことするわけないだろ」


クロノはバレバレな反応をして頬を赤らめる。


「うーん、その反応は実に怪しいですね」


「で、でも!俺がちらっと見た時はウェスタはまだ出てきてなかったんだよ」


「それでも覗きは覗きですよ。…変態」


「変態……」


ウェスタの一言に大いに傷つき膝を折るクロノであった。


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