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時の勇者の伝説  作者: 雨音 陽香 編集:M
弐章  『死の迷宮と記憶の欠片』
18/28

時の勇者のIF世界

スピンオフなんで本編には関係ないです



 今日は2月14日──そう、バレンタインデーだ。


今年のバレンタインデーは日曜日だからきっと俺は友チョコすら貰えないだろうと思っていた今年の初め、とある出会いがあった。


誘った友達全員に「悪い、今年は彼女が……」と断られ結局1人で行くことになった初詣で俺は彼女と出会った。

彼女は、綺麗な人だった。彼女の消え入りそうな白い肌は雪のように綺麗で、それを覆う輝く金髪を見ていると何故か雪に日が差す光景が浮かんできた。その光景に何故か懐かしさを覚え、涙が流れる

「──」見とれていた俺は彼女と目が合ってしまった。こちらを見る瞳は晴天を思わせる空色だ。ただ目が合っただけなのに思わずドキリとしてしまう。


「あの──」


その声はまるで鈴の音のように心を跳ねさせる。


「な、なんですか?」


思わず言葉が詰まる。


「私の顔になにか着いていますか?あまりにもこっちを見ていたので、なにかおかしいところがあるのかと思いまして」


彼女はその綺麗な顔をぺたぺたと触りなにかついてないかを確かめていた。


「君の顔にはお人形さんみたいな目と耳と鼻と口が着いていますよ」


その言葉を聞いて彼女は「ふふっ」と笑い出す。


「ああ、いや、その、初対面なのに変なこと言ってしまってすみません。これは……その……」


俺は無意識に口に出ていた言葉を謝り訂正しようとした。


「いえ、いいんですよ。私の名前はウェスタです。あなたは?」


彼女はウェスタと名乗った。暖かい雰囲気の名前だ。


「え、あ、俺はクロノです。……ウェスタ──さん?もし今、1人なら一緒に屋台とか……回りませんか?」


俺は勇気をだして彼女を──ウェスタさんを初詣に誘う。


「えっいいんですか?」


彼女はその誘いが予想外だったらしく可愛らしい驚き顔を披露してくれた。


「ウェスタさんが良ければ、ぜひ……俺もその、1人なんで」


俺は未だにぎこちなく受け答えする。ウェスタさんのその美貌の前では上っ面だけの余裕は意味が無いようだ。


「奇遇ですね、私も1人なんですよ。あ、あと……さんはいりませんよ?それでは行きましょうか、あなたのことを色々教えて欲しいです!」


ウェスタさん──いや、ウェスタと色々なことを話した。趣味はなんだ?とか、どこの学校なのか?とか、何が好きなのか?とか……ともかく色々だ。


参列の行列に並び、順番がやってくるといつもと同じように『家内安全』と『無病息災』を願う。今年はついでに『ウェスタと仲良くなりたい』とお願いしておいた。こんな下心丸見えのお願い事を神様が聞いてくれるかは分からないが、俺の願い事はそれだけで十分だ。


その後俺よりも長いお参りを済ませたウェスタと合流し、近隣に出ていた出店を見て回った。


「クロノは何をお願いしましたか?」


「そうだな、無難に『家内安全』と『無病息災』だ。あとは…まぁ…ウェスタと…」


「?すみません、最後のやつだけ聞き取れませんでした。もう一度いいですか?」


この人は悪魔だろうか?こんなに恥ずかしいことを人前、しかも本人の前で2度も語らせるなんて……。


「だ、だからウェスタと仲良くなりたいなって……」


俺は何とか勇気を振り絞りその内容を告げた。


「わあ、じゃあもっと仲良くなりましょう!」


そう言ってウェスタは俺の手を握ってきた。


「ちょ、こ、これはさすがに…」


「ダメ、ですか…?」


ウェスタは少し潤んだ瞳でこちらを見上げる。

誰だ。この美少女にこんな顔をさせたのは、俺だ……。


その犯罪的なまでに美しい顔でそんなことを言われてしまったら大抵の男は「ダメじゃない」と答えるだろう。もちろん俺もそうだ。


「いや、ダメって訳じゃないが……。こういうのってこ、恋人同士でやるものなんじゃないか……?いた事ないから分からないけど……」


「恋っ!?」


それを聞いたウェスタは顔を真っ赤にして「ご、ごめんなさい!私そんなつもりじゃ……」と謝ってきた。謝ってくれるな、悲しくなってくる。


「だって、俺達はまだ会ったばかりだろ?だからまだ早いって。でも、そのうち……」


「そうですね……。あ、すみません最後の方が聞こえなくて……」


やはり彼女は悪魔なのだろう。一日に2度もこんな辱めを受けるとは……。

そんなこんなで俺とウェスタは初詣を楽しみ帰路に付いた。


「じゃあなウェスタ、楽しかったよ。またいつか会おうな」


「はい、またいつか」


と言って俺達は手を振って別れた。

…はずなのだが、、、


「なんで付いてくるんだ?」


「あなたこそついてこないでください」


「いや、俺はこっちが家なんだ」


「じゃあ私もこっちが家です」


「じゃあってなんだ!?」


そう、驚くべきことに俺達は、お隣さん同士だったのだ。


それから俺達はことある事に遭遇した。

ごみ捨ての時や学校に行く時は毎度のように会っていた。

なぜ今まで合っていなかったのか不思議に思い、一度聞いたが彼女によれば12月の終わりごろに引っ越してきたらしい。その頃はちょうど引きこもっていたので気付かなかったのはそのせいだろう。ああ、まさか年越しそばはウェスタから貰ったものだったりしてな。冗談のつもりでそんなことを思ったが事実だったらしい。なんと数奇な偶然か、学校まで隣の学校だ。これはむしろ運命に嫌われていると言ってもいいだろう。ことごとく隣同士、一緒になることはないと……。だがそれもいいだろう。朝や夜に数度顔を合わせるだけで十分だ。彼女の美貌は俺には刺激が強すぎる。


だが、2月に入った頃、事件が発生した。


俺の母が交通事故に遭ったのだ。幸い命に別状はないが1ヶ月ほど入院をしないと行けないらしい。さて、困ったことに俺は全くと言っていいほど料理が出来ない。そこで俺はウェスタを頼ることにした。


「頼む!この通りだ!」


俺は手を合わせつつウェスタへ頭を下げる。


「まったく……仕方ないですね。それで、お母さんは大丈夫なんですか?」


この頃ウェスタは俺に慣れてきたのか初めて会った時のようなオドオドした様子は無く、本心をさらけ出してくれるようになった。今もまったく……と多少呆れながら引き受けてくれたし、母の心配もしてくれている。出来た娘さんだ……親の顔が見て見たい。いや、もう遠慮しておこう。彼女の父はとても強面の人だった。ウェスタ曰く本当は優しいとのことだがどうなのだろうか……。


「ありがとう、この恩はいつか必ず……!」


「その言葉、忘れないでくださいね」


俺はウェスタに貸しを1つ……いや、1日ひとつだとすれば1ヶ月分、30個程の貸しを作ることが確定したのだ。


その日の夜からウェスタは俺の家に来て一緒にご飯を作って食べてくれるようになった。

なぜこちらの家なのかと言えばウェスタが入られたくないと拒否したからだ。人生で1度は入ってみたい女の子の部屋は恐らくこれでもう一生入れないのだろう。


ウェスタの作るご飯はとても美味しい。両親がヨーロッパ系ということもありその方面のご飯がほとんどだが、そのどれもがお店を出せるほどに美味しかった。特に美味しかったのは朝食に…と置いていってくれたスコーンだ。彼女の家では朝はスコーンが定番らしく、それはそれはとても絶品なのである。それだけでも美味しいのだが、彼女の手作りのベリージャムを付けると一生それだけ食べるだけでも生きていける。と誇張なく言えてしまうほどに美味しい。ごめん……母さん、母さんの味がもう分からないよ……。

今は無き、母の味に別れを告げ俺の舌はウェスタ色に染まっていった。


そんなこんなで2週間が経った。

それが今日、バレンタインデーだ。

期待しないわけでは無い。だが、ひとつ気がかりなことがある。海外では女性から男性ではなく男性から女性にプレゼントを送るのが主流らしい。一応手作りのマフラーを用意したがこの出来では喜んでもらえるか分からない。所々糸が飛び出ているマフラーを見ながらそう思った。

インターホンが鳴った。


ウェスタだろう。カメラでその様子を見る。

何故だろうか?ウェスタはやけにソワソワしていた。

理由など分かっている。だが、分からないふりをしておいた方が感動が強まるというものだ。

俺は何も知らない振りをして玄関を出る。


「いらっしゃい。いつもありがとうね」


いつもと同じ文言、いつもと同じ動作、完璧だ。


「あの、クロノ…日本では女性から男性にチョコを送るのが普通と聞きまして……ハッピーバレンタインです……」


と言ってウェスタらしい白い紙袋を渡してきた。


俺は女の子から初めて貰ったチョコに対し内心『うおおおお!!!』となっていたが何とか抑え、余裕な表情でお礼を言う。


「あ、あ、あああありがとう!い、い、一生大切にするよ!!」


心が体に追いつかなかった。


「どうしたんですか?そんな気持ち悪い喋り方して」


ウェスタにまでこう言われる始末だ。


「い、いや……なんでもないよ……うん……。ああ、俺からもウェスタにプレゼントがあるんだ。目を瞑って」


そう言って俺は目を瞑ったウェスタにマフラーをかける。


「よし、もう開けていいよ。不格好だけど……いつか必ずちゃんとしたやつ贈るから……」


キョトンとした様子のウェスタにあらかじめ説明をする。


「これ…手作りですか……?」


マフラーの手触りを確認しながらウェスタが言う。


「ああ、そんなのしか送れなくてごめんな……」


「いえ…嬉しい、です……。とても嬉しいです……ありがとうございます……」

ウェスタは今にも泣き出しそうな顔でお礼を言ってくれた。

この反応は想定外だった。

俺もつられて泣き出しそうになるのをグッと堪える。


「喜んでもらえるとは思ってなかったから、そんなに喜んでくれて嬉しいよ……」


「すみません…今日のご飯、作っちゃいますね…」


ウェスタは顔をマフラーで隠しながらうちへ上がる。

俺もその後に続いて家の中に戻った。

ウェスタの料理はその工程も完璧だ。

料理を始める前より終わったあとの方が台所が綺麗だったり、見分けのつかなかった調味料にラベルが貼られていたりとウェスタは割と几帳面らしい。

今日のご飯は俺の好物のハンバーグらしい。

牛ひき肉にあらかじめ炒めておいた玉ねぎ、塩、胡椒、パン粉、牛乳を入れ、しっかりと混ぜ合わせる。

しっかり混ざったら手のひら程の大きさの肉を取り出し、左右の手でキャッチボールのように投げ合い空気を抜き、真ん中を少し凹ませる。それをあらかじめ油を敷き熱しておいたフライパンに乗せる。今日は2人分だから2個だ。

強火で1分焼き、その後弱火で3分焼く、そしたら裏返して、再び強火で1分焼いたら蓋をして中火で3分焼けば完成だ。ハンバーグをお皿に盛り付け、残った肉汁にケチャップ、オイスターソース、赤ワインを少々入れて混ぜながら軽く煮詰める。最後にそれを盛り付けておいたハンバーグにかければ盛り付けも含め完璧に完成だ。

テーブルにハンバーグのお皿とお茶碗に盛り付けた白米を2つずつ並べる。

ウェスタが戻ってくるのを待ち、2人同時に手を合わせる。


「「いただきます」」


1口分を箸でカットし、口へ運ぶ。

口に入れた瞬間、ふっくらと焼き上げられたハンバーグからジューシーな肉汁が溢れ出す。


「美味いっ!!」


絶品だ。今まで食べたどのハンバーグよりも美味しい。


「好き…」


「今なんて?」


「ああ、いえ、ハンバーグ美味しいですよね。私も好きです!って言っただけですよ!」


なにやらあたふたしているが可愛いからもうしばらく観察していようか。


「ふ〜美味しかった〜!ごちそうさまでした!」


食べ終わると、手を合わせて牛や玉ねぎやパン粉に感謝しつつそれらをここまで美味しくしてくれたウェスタを神のように崇める。


「ごちそうさまでした。…って、なんで私の方にお祈りしてるんですか?願っても明日まで何も出ませんよ」


「そうか…明日も楽しみだな…〜、今日もすごい美味しかったよ。洗い物は俺に任せてくれ。チョコ、ありがとうな」


その言葉にウェスタは何故だかドキッとして


「は、はい。クロノもマフラーありがとうございます…一生大切にします。それでは私はこれで」


と言って自分の家に帰って行った。


ウェスタが帰り、洗い物も終わりやっと暇になった俺はウェスタから貰ったチョコを食べようと袋から箱を取り出した。すると箱と共に1枚の紙が出てきた。

それを拾い上げ開くとそれは手紙だった。


クロノへ、

私たちが出会ってから1ヶ月と少しが経ちましたね。

お隣同士だと知った時は驚いたと共に少し、嬉しくもありました。それからというもの朝や夜に会うことも多くなり、最初にあなたにナンパ(合っていますか?)された時には考えられなかった関係になったな…としみじみ感じます。あなたのお母さんが事故に遭ったと初めに聞いた時は自分の家族の事の様に心配でたまりませんでした。命に別状がないようでよかったです。その後あなたから持ちかけられた ご飯を作って欲しい という提案を受けた時は私に出来るのか不安でしたが、あなたがいつも美味しそうに食べてくれたので私も作り甲斐がありました。そして、今日はバレンタインデーですね。箱にはマカロンが入っています。初めて作ってみたのですがどうでしょうか?お口に合えば幸いです。それで…1つお願いを聞いていただけませんか?もし可能なら明日の午前10時に私の家のインターホンを押してください。待っています。

ウェスタより。


手紙にはそう書かれていた。

ウェスタからのお願いとは…?と思いながら俺はもう1つの箱を開けた。そのには8色のカラフルなマカロンが入っており、箱の蓋の部分には丁寧に何色が何味かまで書かれていた。俺はその中からベリー味を取り、口へ放り込んだ。


「うん、美味い…」


俺はそのままの勢いで一気に全て食べきってしまった。

俺はこの美味しいマカロンのお礼も兼ねて明日はウェスタに付き合おうと決めた。


次の日、家から出てきたウェスタはいつもよりお洒落な格好をしていた。白いセーターに赤いスカート、ベージュのトレンチコートを羽織り、首元には俺のあげたマフラーが掛けられていた。


「お待たせしました。ここじゃなんですから少し歩きましょうか」


俺はウェスタの後を着いていき、やがて近くの公園へと着いた。


「なあウェスタ、お願いってなんなんだ?」


俺は早速本題を切り出す。


「はい…それでは、聞いてもらえますか?」


ウェスタはこちらに向き直ると真剣な眼差しで語り始めた。


「ああ」


「では、単刀直入に言います。私と…結婚してください」


「うん。…………………え、は、えっ?結婚?付き合ってじゃなくて結婚?早くない?まだ付き合ってすらないのに結婚?」


「あ、ああ、ま、間違えました!恋人になって欲しいって意味です!」


「あぁ、なるほど。なるほどじゃないな、…俺でいいのか?」


「あなただからいいんです。初めて会った時感じました。私とあなたはいつかは分かりませんがあったことがあるって、これは運命なんだって思いました。あなたを見る度に、あなたの声を聞く度に涙が溢れてきそうで、あなたに…会えない時間が苦しい」


「ウェスタ……」


「クロノ、返事はまた今度でいいです。それでは私は帰ります」


「待って!」


歩き出したウェスタの腕を取る。


「……?」


「返事だ。今すぐさせてくれ。…もちろん、OKだ!」


「クロノ…」


「俺は君が好きだ。正直に言おう、一目惚れだ。初めて会った時から、ずっと、ずっと君が好きだった。君のその目が、君のその髪が、君のその声が、君のその優しさが、俺の君に対する思いを強くしていった。…結婚しよう、ウェスタ。いつか必ず、俺が必ず君を迎えに行くよ。でも、それまでは少しの間だけ君に甘えてもいいかな?君に頼られるくらい立派な男になって君の前に立つその時まで」


俺はウェスタに思いを打ち明けた。


「そんな…こんなことって……」


ウェスタは泣き出してしまった。何か変なことを言ってしまっただろうか?


「こんな…こんな嬉しいことって…。クロノ、私はいつまでも待ちます。あなたが迎えに来てくれるのをずっと待ちます。いつかきっと…迎えに来てくださいね」


ウェスタは涙をふきながら天使のような笑みを浮かべた。


「さあ、帰ろうウェスタ」


俺達は歩き出した。

それぞれの家に、いつか同じ家に帰れる日が来ることを願って。

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