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時の勇者の伝説  作者: 雨音 陽香 編集:M
弐章  『死の迷宮と記憶の欠片』
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弐章 2  『VSヒュードラ』

 



 炎を纏った勇者の剣を携え再びヒュードラの待つ部屋の扉を開く。ギィィと石と金属の擦れる音が迷宮内に響き渡りゆっくりと扉が開く。真っ暗な部屋内に明かりが灯され、その中にいる4つの頭を持つ毒蛇の姿が見える。


「よし、行くぞ」


 クロノは勝負を一瞬で決める為にヒュードラへと走り出し、部屋へ足を踏み入れる。その時その部屋が以前来た時と違う雰囲気に包まれていることに気付いた。


 ──毒だ。

 部屋中に充満したヒュードラの吐く息、床が浸るほど流されたヒュードラの血。そのどれもが常人を死に至らしめる程の猛毒だ。息を吸うだけで死ぬ。


「クロノ!息を止めてください!吸ったら死にます!今どうにかしますので!」


 後ろからウェスタの声が響く。その指示に従い苦しさを我慢し咄嗟に呼吸を止める。すると、顔を覆うように空気の層が出来上がった。その中は毒の空気ではなく、魔力で作られた新鮮な空気で満たされていた。


「これでもう大丈夫だと思います。ですが……防げるのは霧だけです。あの血を浴びてしまったらどうなってしまうか……。既に床に溢れていたヒュードラの血は氷で覆ったので大丈夫だとは思いますが、また切ったら血が出てしまうのでは……?」


「ありがとうウェスタ。それなら大丈夫だ。奴の首はそれぞれ2回ずつ斬る。1度目は首を焼き斬るため、2度目は不十分な斬り口をしっかり焼くため、血が出る前にそれを完了させれば奴の血の毒は出てこれないから意味を成さない。だからそっちは俺に任せてウェスタは後ろで援護をしてくれ、俺が危くなったら最初の時みたいに吹き飛ばすなりなんなりして助けてくれ。背中は任せた」


 クロノは元々握っていた剣に加えウェスタの持っていた短剣を左手で握るとウェスタはその両方に炎を纏わせる。それを確認したクロノはヒュードラの元へと進む。ヒュードラは敵が来ることを察知し1本の首がクロノへと飛びかかる。


 それをクロノはギリギリで避け、右手の剣でその首を焼きながら斬った。残った3本の首が悲鳴をあげ、切られた首は斬られた反動で動く。その寸前、左手の短剣をその切り口に振るう。


 肉が、血が焦げる嫌な匂いを発しながらその首は完全に焼き焦がされた。予想通りその首は再生することは無かった。それを見て怒り狂ったヒュードラは残りの3本のうち2本の首がクロノへと飛びかかる。


 走り出したクロノは流れるような手さばきで1度、2度……、と2本の剣を動かしそれぞれの首を無力化する。


 クロノが残った最後の首へ迫りかけた時、ヒュードラは自らの死を回避するために自分の首を自分で噛みちぎった。


 その傷口から血飛沫が飛び散り、クロノへと襲いかかる。


「────っ!?」


 完全に首を切るモーションに入っていたクロノは咄嗟に動きを変えられず目の前に迫る死の雫を見つめることしか出来ない。クロノは援護を頼んだウェスタに対し祈る。


吹き飛ばせ(ウィンドクラッシュ)!!」


(──死ぬ!)と確信したクロノの体が恐ろしいほどの精度の空気の塊が押し出す。クロノはそのままウェスタの元へと弾き戻された。先程までクロノがいた場所見ればそこには無数の血飛沫が降り注ぎ血の海が出来ていた。


「…………た、助かった」


「準備しておいて良かったです。ですが……どうしましょう」


 そう語るウェスタの見る先には先程のように自傷を繰り返し増殖し60本に迫ろうかというほどの首を生やしたヒュードラがいた。


「このままだと首は増えるばかりです。はやく決着をつけないと負けてしまいます……」


「やることは変わらない、だがあの増殖スピードでは俺が5本切る間に20本は増える。それこそ……そう、全ての首を同時に切るくらいじゃないと難しいかもしれない」


「……1つだけ、方法があります。その方法とはまず、私の魔力をクロノに流し込みクロノの身体能力を数倍……いえ、数百倍以上にも上げます。そしてクロノは私が空中に作り出す足場を使って全ての首を焼き斬り無力化してください。ただ……これには1つ問題があります」


「それなら勝てそうだな、なにが問題なんだ?それ以上にいい案は無さそうだから多少の問題は構わない」


「それは……私の魔力は先日語った通り常人とは比べ物にならないほど膨大です。その魔力の8割ほどを、魔力回路を私と共有しているあなたに流します。そこで問題になるのがあなたの魔力回路です。あなたの魔力回路は喪失しており、あなたの体にある魔力回路は私が共有しているほんの一部分のみ、そんなクロノに一時的とはいえその量の魔力を移すのは無理があります。もって5秒……いえ、体が壊れてしまわないように余裕を持たせるならもって2秒でしょう……。それでも出来ますか……?」


「たった2秒……でも、やるしかないんだろ?」


「はい。先程クロノが言ったように他に方法はないでしょう。あるとしてもこの状況で考えている時間がありません」


「それならやるしかない、俺はウェスタを信じる。だから足場と炎、頼むぜ……」


 クロノは話してる間にも増殖し続け、その首の数がゆうに100本を超えたヒュードラを見る。クロノの覚悟を受け止めウェスタはその方法を実行する。


「それでは……いきます!──魔力暴発(インフリクト)。」


 ウェスタの言葉と共にクロノは動き出す。


 体中の魔力回路にウェスタの膨大な魔力が移されてくる。それがクロノの体に行き渡り、循環する。その流れがクロノの体を動かす力となりその動きは数百倍いや、千倍程も素早く、力強くなる。


 クロノは自分の体が悲鳴を上げ限界を迎えかけていることを感じながら地面を蹴る。ウェスタのエクスプロージョンですら壊れなかった床が砕け、破片が飛び散る。


 こちらを向く百を超える首を斬るためにウェスタが足元からヒュードラに向けて作り上げた足場を踏み近付く。


 最後の足場を踏む瞬間、左手の短剣を逆手に持ち、右向きに回転するように飛び、ヒュードラの首を蹂躙する。

 その無数の斬撃は大きな剣を一閃するかのように、その全てが一撃と見紛う程の速さで一瞬にして半分ほどの首を無力化する。

 だが、

 ──また増えた……!?くっ……残り時間は約1秒……次で決める……!!


 再び増殖する首に対応するためクロノはくるりと回転し天に足を向け、意図を理解したウェスタは咄嗟に足場を作る。

 クロノはその足場を蹴り真下にあるヒュードラの胴体へ近付く、ぶつかる寸前、再び作り出された足場を蹴り一気に残りの首がある方向に向かって飛ぶ。


 無数の斬撃が重なり、全ての首を飛ばし、全てを焼き焦がす。

 遅れてやってきた斬撃音が衝撃波と共に到来し切り飛ばされたヒュードラの首を吹き飛ばす。

 最後にクロノは目の前に出来た足場を体を前に回転させながら蹴るとヒュードラの胴体へと飛び、その胴体を細切れにし、炭にする。


 2秒が経ち、終わったと安堵すると同時にこれ以上は危険だ!と判断したウェスタによってその能力は解除された。

 飛んだ勢いを殺しきれないクロノは床に剣を突き刺し何とか威力を殺す。

 5mほど地面をえぐり、やっと止まったクロノにウェスタは駆け寄る。


「クロノ!!大丈夫ですか……?」


 ウェスタは倒れているクロノの近くへしゃがみ、その美しい顔に心配の色を浮かべる。


「ああ、無理な動きのせいで体中の筋肉がちぎれそうなのと上下左右が分からなくなってる以外は正常だ……。生きてるよ」


「良かったです。今治癒魔法をかけますね……。ヒュードラはクロノのおかげで今はもう粉々ですよ」


 ウェスタは治癒魔法をかけながら跡形もなくなったヒュードラの残骸を見て結果をクロノに教える。


「そうか良かった……。ありがとうウェスタ、もう体は大丈夫そうだ」


 クロノは起き上がると手に持ったままの剣を見る。

 短剣は砕け散り、握りしめていた柄のみが残っていた。勇者の剣は一切傷は付いておらず、元の白い刃のままだった。


「ごめんウェスタ……この短剣壊しちゃって」


「いえ、それのおかげでこうして敵に勝ててクロノの役にたってくれたのなら別に構いませんよ。それに……」


 ウェスタは鞄を漁り何かを取りだした。


「実は2本買ったんです、予備を買っておいて良かったです。やっぱり武器の予備は持っておくべきですね!」


 2本目の短剣を持ちながらウェスタはニッコリと笑う。その様子にクロノは「流石だな……」と苦笑するのだった。


 経過時間6時間50分

 残り時間2日17時間10分

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