弐章 1 『タナトスの魔宮』
2章入りました〜
南の王国とその他の国とを隔てる天まで届くというゲヘナ山脈のその麓、南の王国ウェリトンへと続く唯一の道『タナトスの魔宮』その入口に立つのは朝焼けに照らされた黄金の髪を紅く染め炎のように靡かせた碧眼を持ち白いロングコートと黒いミニスカートがその透き通った色白の肌に良く似合う少女と、少女とは対照的に黒いコートを羽織り胸にビスマス鉱石の様な不思議な輝きを放つ胸当てを着け、乱雑に整えられた黒い髪と太陽を写す紅眼を持つ少年だ。
少女と少年──ウェスタとクロノは前日の夜中にマゴニア王国を出発し明け方の今、ついにウェリトン王国への門『タナトスの魔宮』へと辿り着いたのだった。
「ウェスタ、準備はいいか?」
「あと1つだけやることがあります。これをどうぞ」
ウェスタはそう言って鞄を漁り2つの指輪を出し片方をクロノに渡す。
「これは、この前の…?」
「ええ、入った瞬間殺されてしまう様な罠がかけられている可能性が0ではありませんから」
「そうだな、なんたって俺達にこの魔宮に関する情報が無いから用心しておくのはいい事だな。よし、これで準備はいいか?」
クロノは指輪を右手の中指にウェスタは左手の人差し指に、2人がそれぞれ指輪を嵌め終えるとクロノは再び問いかける。
「はい、今度こそ。いつでも行けます」
クロノの問いかけに毅然とした眼差しでウェスタは答える。
「なら行こうか。“死の迷宮”へ」
2人は同時に歩き出す。一歩、一歩この世界とは別の世界に行くような感覚を覚えながら、名残惜しげに体に残る世界の残滓は歩く事に抜け落ちてゆく。一歩、一歩また1つこの世界から離れる。地獄のような禍々しい魔力が魔宮内から2人に吹き付ける。そして、境界を越えた。
すると2人の頭に言葉が響いてきた。
『我が魔宮へ挑戦する者よ、私は今君たちの頭の中に直接話しかけている。これから話すことはこの魔宮のルールだ。心して聞くように』
「クロノ…」
「ああ、ひとまず聞くだけ聞こう」
『この魔宮には三つのルールがある。一つ、試練が終わるまでここから出てはいけない。試練とはこの魔宮の第4層を突破すること。それぞれの層には私が地獄より蘇らせた魔獣がいる。それを4匹とも倒すことが試練だ。二つ、魔宮内に所々開いている穴を覗いてはいけない。地獄の深淵 タルタロスに落ちたいと言うのならば止めはしないがな。三つ、必ず3日以内に試練を突破すること。以上の事を守らなければ君たちは私のご馳走になる。死にたくなければせいぜい頑張るがいい』
高らかな笑い声を残して頭の中に響いていた声は消え去った。
「クロノ、今の聞きましたか?魔獣がどうとかって…」
「ああ、まずはその魔獣を見つけないとだな」
2人はまずは魔宮を探索することにした。
魔宮内は馬車が問題なく通れるほどに広い道でできており、入り組んだ道が続いていて探索するだけでも一苦労だ。
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やがて5時間ほど探索すると大きな扉を見つけた。
「これは…」
「ほぼ間違いなく試練の1つでしょうね…。入って見ますか?」
「ああ…少し見てやばそうなら作戦を立てよう」
「ええ、じゃあ開けますよ…」
クロノとウェスタは両開きのドアを片方ずつ押して開ける。扉を開けるとその中では1匹の大きな蛇が眠っていた。
「っ!!?」
「なんだ、知ってるのか…?ウェスタ」
「ええ、たしかあれは…ヒュードラと呼ばれる毒蛇だったはずです。私もその名前と見た目を知っているだけで倒し方までは知りません…。どうしたら…」
「倒し方もなにも相手の首を切り飛ばせばいいんじゃないのか?こんなふうに」
クロノはヒュードラへと静かに近ずきその首を剣で切断した!
「あっ…、なんでそんなことをしてしまったんですか?!?逃げてください!」
「なにかダメだったか?それに逃げろって…」
そう言ってヒュードラの方を見たクロノは今まで感じたことの無いような恐怖に襲われた。
獲物を見定めようとする蛇目の双眸が2つ、クロノの顔を覗き込んでいた。シュルシュルと舌を鳴らしながら動きの止まったクロノの周りに静かに尾を這わせる。
「あなた、やっぱりばかなんですかっ!!?」
ウェスタはクロノに叫び助けようとするがクロノは動けない。クロノの周りに這わされた尾がクロノを絞め殺さんと襲いかかる。
「吹き飛ばせ!!」
ヒュードラの尾がクロノに到達する寸前、ウェスタの放った風の塊がクロノを吹き飛ばす。
「っ…ぁっ!!」
吹き飛ばされたクロノが地面を転がる。
狩りを邪魔されたヒュードラは標的をウェスタに変える。
「クロノ!起きたなら戦ってください!!ヒュードラは今まで戦った中で一番厄介な敵です!生半可な覚悟じゃ直ぐに死んでしまいますよ!可能であればヒュードラの首をもう一度切り落としてください!」
ウェスタはヒュードラの攻撃を防御しつつヒュードラに挟まれて姿の見えないクロノに呼びかける。
ウェスタはクロノが自分の言葉を受けとったと判断し動く。クロノがヒュードラの首を落とせるように弱い魔法をぶつけたりして自分に関心を集める。
だが、ウェスタは自分の魔法でヒュードラを消し飛ばせばいいのでは?と思いついた。
「クロノっ!やっぱりさっきのは無しです!私がヒュードラを消し飛ばします。こちらへ!」
ヒュードラの首を切ろうとして好きを伺って居たクロノはその言葉を聞くと急いでウェスタの元へと向かった。
「そんなこと出来るのか?」
「やってみなければ分かりません、建物ごと壊れたりは多分大丈夫です。それでは行ってきます」
ウェスタはヒュードラと距離を開くために走ってヒュードラから離れる。
「消し飛ばせッ!!」
ウェスタは左手から火の玉を右手から水の玉をそれぞれ出し、それを圧縮すると軌道を計算し、風の魔力で押し飛ばした。それは恐ろしいほどのスピードでヒュードラへと迫り、当たる瞬間。それは混ざり合い、一瞬で蒸発された水が気化し、大爆発を引き起こす。
ウェスタはすぐさま事前に用意しておいたバリアを展開し、自らの身と後ろにいるクロノを守る。
血飛沫がバリアにこびりつき、2人は勝利を確信する。
やがて爆発の蒸気が晴れてきた。2人の目に映ったのは首を4本に増やしたヒュードラだった。
「嘘…」
「ダメだウェスタ、一旦退避しよう。作戦を立ててからまた挑もう」
「ええ…!」
そうして2人は戦闘開始から30分後、退避することにした。
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予想通りヒュードラはあの部屋からは出られなかったようで無事に逃げ出せた。
2人は息を整え、今回得られた情報を整理する。
「ヒュードラは多分首を切断されるか消し飛ばされたら倍の数に再生するんだろう。どうする?」
クロノは隣に座るウェスタに質問する。
「そうですね…魔界産の魔獣なら体のどこかに核があると思うのですが…。先程の爆発でもダメージを受けない体だとすると斬撃以外の攻撃が有効ではない可能性がありますね」
「そしたら俺が頼りか、だが単純に切っただけならまた復活されてしまうかもしれない…。どうしたらいいんだ?」
「クロノが初めにヒュードラの首を切った時は傷口がうねうねと動いてふたつの首に変化していました。なら、傷口の細胞を機能させなければいいのでは?」
「そうか…!なら俺が切ってウェスタが燃やしたりして細胞を機能させなくすればいいんだ」
なら早速…と生き急ぐクロノを止めるウェスタ。
「1つ、問題があります。クロノが切ってその後私が燃やしてってやるほどの時間が恐らくありません。あの時の再生速度はとても速かったのでそれを4本もとなれば出来なくはないでしょうが、確実性がありません。もっと確実性のある…例えばクロノの剣に炎を纏わせて切るとかはどうですか…?」
ウェスタはヒュードラを倒す方法としてクロノの剣に炎を纏わせることを提案した。
その提案にクロノは
「それなら勝てるかもな、でも出来るのか?」
「私をナメないでください」
フフンと笑いウェスタは鞄から短剣を取り出すと、それに炎を纏わせて見せた。
「おお!これなら行けるな。…それより、短剣なんて持ってたか?」
今まで持っていなかったはずの存在にクロノは違和感を抱いた。
「ああ、これはですね。マゴニアで買ったんですよ。近接戦闘の弱さが露呈してしまいましたからね」
「?ウェスタはいつ誰と近接戦闘をしたんだ?」
「えっ?あ、あれ…?何故でしょう?そんなことがあったような気がするのですが、どこで戦ったのかも誰と戦ったのかすら分からなくなってしまいました…」
「大丈夫か?少し休むか?」
「いえ…時間はあまりないので休むのは今度でいいです」
「わかった、でも無理するなよ」
「ありがとうございます」
そうして2人は2度目のヒュードラ戦へと挑むのであった。
経過時間6時間20分
残り時間2日17時間40分
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