序章 9 『ローゼ家での出来事』
王都レグステリアの国王が人形のように何一つ意思の疎通が出来なくなってから1週間、クロノとウェスタとルシアはマゴニア王国のローゼ家に匿われていた。
村に帰った翌日にウェスタは目覚め、後遺症は無かった。
その後3人はローゼ家の仕事を手伝いながら王都からの追っ手を退ける日々が続いていた。
「ハンクさん、王都にここに勇者達は居ないって言ってくれたのか?ここに来てからの6日間毎日のように来てるぞ」
黒髪の少年が黒と灰色が混じったロン毛の男性に話しかける。
「クロノ君申し訳ないが何度も言っている通り私は聞かれる度にそう答えてるさ。ただ王都の新王 ユーリ レグステリア 18世は私のことを疑っているらしい。まあ、これも勇者を育てた一族の運命なのだよ。きっと近いうちに強制捜索が言い渡されるだろうね、そうなれば私のこの歴史ある素晴らしい書物も回収されてしまうだろう…。そこで、だ。君にこれを見せておこうと思ってな」
ロン毛の男性─ハンク ローゼは本棚から赤い革表紙の薄い小説のようなものを取り出した。
「これはこの前話した東の龍の伝説の第2編だ。ここに載っているのは…そう、初代勇者についてだ。読んでくれ」
黒髪の少年─クロノはハンクからその小説を受け取るとページを開いた。
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東の龍の伝説 第2編
西の大地から来た勇者な…いえ、愚かな男が自分の国へ帰り城を築くと、龍王は東の大地に住む生き物のうち選ばれし1人の男にこの世界が始まる前に活躍したとされる英雄やそれを作り出した神々の力を模した力“加護”を与え、その愚かな男を殺すよう命じました。その男こそ後の時代に波乱を起こす勇者のその初代なのです。勇者は加護の力によって愚かな男が仕向けた刺客を軽々と葬り去り、あっという間に愚かな男が住む城まで辿り着きました。愚かな男と勇者は勝負の末に勇者の勝利という結末で終わりました。勇者はその栄誉を称えられ、真に“勇者の称号”を受け取ることになりました。その記念として王都レグステリア西側の森にアストラの大樹の苗を植え、未来永劫の平和の象徴とされました。やがて勇者の勝利から587年、龍王が2度目の死を迎えてから500年。2代目の勇者となる男がこの世に生を受けました。
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「実に不自然だと思わないかね?なぜこんなものが伝説として残されているのか疑問だよ。私はね、この秘密は第3編に隠されているんじゃないかと思っているんだ。まあ、そんなことよりここに注目してくれ」
ハンクはクロノが持つ小説の1つの行を指さす。
「[2代目の勇者となる男がこの世に生を受けました。]おかしいとは思わないか?第1編で龍王と男が結んだ契約では男が死ぬまで何度でも刺客を送ると記されている。だが、男が死んだあとも新たな勇者が産まれた。それが意味することは…私の単なる予想に過ぎないが聞いてくれ。それが意味するのは今も続く魔王と勇者の戦争じゃないのか?」
「それはつまり…?」
「この愚かな西の大地の男は魔王である可能性が高い。つまり、まだ《伝説》は続いている…!…そう、私は今伝説に生きているのだ…!!!素晴らしい…研究者としてこんなに名誉なことは無い…!あぁぁああぁああ!!これだから研究はやめられない…!最…高…だ!!」
突如として発狂しだしたハンクに対しこの6日間で慣れたのかクロノは「どぅどぅ」と落ち着かせる。
「いつもすまないね…」
「それは言わない約束でしょ」
「ふっ…。まあいい、では次に第4編を見てもらおうか。しかしこれは損傷や落書きが激しくてな、ほとんど読めないんだ。まあ読んだらわかるさ」
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東の龍の伝説 第4編
この大地ができた頃。世界は………………………………───でした。空………み、───しく、…には………いていました。そう、………。は…で満たされていたのです。ですが、そこに現れたのが××でした。××は……を持ち、様々な………を欲望のままに破壊していきました。その行き過ぎた行いに怒った☆☆は××を滅ぼすために1匹の*をその世界に放ちました。その*が降り立った衝撃で。。は……に二分され、…は………り、………は××を残して全て………ました。人々はその*に対し☆☆を○すから私たちの力になってくれと頼みました。するとその*は了承し、人々に神々………………。を与えました。やがてその*を……………………………と気付き、……しに来た☆☆と××の戦…………………………に「ラグナロク」と…。。…この戦いは☆☆☆…12名の☆を残し全滅し、××はたった2人………のみを残して
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「意図してそうされたかのように所々に焼いて開けた穴が空いているんだ。しかも後半のページは全て破り取られている。そこで君に頼みがある。君達が旅の途中で東の龍の伝説を見つけることが出来たら私の所へ持ってきて欲しい。私はいつでも君達を歓迎するよ」
「ハンクさん…王都からの追っ手が来るんじゃ…?」
「ああ、それなら心配は無用だ。君たちは君たちの度に集中してくれて構わない」
クロノは小説を閉じハンクに返す。
すると書斎のドアが開き
「クロノ、あとハンクさんも。ご飯が出来ましたよ」
この屋敷で借りたレースのワンピースを着たウェスタが入ってきて2人に声をかける。
ウェスタの金髪と白く輝くワンピースの組み合わせは天使を彷彿とさせる。
「ありがとうウェスタ、じゃあ行こうか。ハンクさんも早くね」
「ああ、いつもありがとうね」
「住まわせてもらってるんですからこれくらい当然ですよ」
とウェスタが答え、部屋を出ていった。
その様子を見て(そういえば…今更だがウェスタはいつも表情が変わらないのに俺と母さんには笑ってくれるのはなんでなんだ…?)と思うクロノであった。
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いつもの決まり文句でいただきます。と手を合わせてウェスタとルシアが作ってくれたご飯を食べる。
「今日も美味いな…ウェスタのご飯は美味い」
「あら、それはお母さんが作ったやつよ」
「嘘!?」
「うふふ、冗談よ。ちゃんとウェスタちゃんが作ったやつだから安心して」
「まったく…」
クロノとルシアは記憶が無くなったことなど無かったかと錯覚してしまうほどに親子として成長していた。
「クロノ、ご飯が終わったらお話があります。後で私の部屋に来てください」
するとウェスタが妙に真剣な顔でクロノにそう告げると「ご馳走様でした」と言って自室へと帰ってしまった。
クロノはウェスタをあまり待たせてはいけないと思い少し急ぎめでご飯をかき込み、ウェスタの部屋へと向かった。
トンと扉を1回だけ叩く。
「鍵は開いてますのでどうぞ」
部屋の中から返事があることを確認し扉を開け部屋へと入る。
「お待ちしていましたよクロノ」
ウェスタは何故か先程までの部屋着ではなく、この街で新調した白を基調とした上着を着ていた。
「ウェスタ?どうしたんだその格好は」
「実は、今夜ここを出ようと思っています」
「なんで、そんな急に…まだ病み上がりじゃないか」
「ええ、ですが、私達に止まっている暇などありません。私たちの旅の目的はまだ何一つ終わっていないのです。私達には使命があります。魔王を滅ぼすこと、竜王を殺すこと、そのどちらもこの世界を救うことに繋がります。まあ、今は人類を敵に回しているようなものですが…」
「…そうだな。どこか気が抜けていたみたいだ。ありがとうウェスタ。俺はこの後旅の準備をする。ついでにハンクさんに母さんを任せてもいいか聞いておこう。そして…2時にまたここで」
「ええ、2時ですね。お待ちしています」
ウェスタと別れ、自分の部屋へ戻るとクロノは急いで旅の支度を始めた。使えそうな道具をバッグに入れ、装備を確認したあとウェスタと同じくこの街で新調した黒いコートを羽織る。
「よし!完璧だな。今は…1時30分か。もう行ってもいいかな?」
クロノは予定よりも30分早く部屋を出た。
再びウェスタの部屋へ辿り着き、扉を1回だけトンと叩く。
「あ、ちょっと待ってください」
しばらくしてもう一度叩く
「あ、ちょっと待ってください」
しばらく間を置きもう一度
「あ、ちょっと待ってください」
これはいよいよおかしいぞと思ったクロノは扉を開いた。
ウェスタがいるはずの室内には誰もいなかった。
「あぁ、クロノでしたか」
背後から声がして振り返るとそこにはウェスタがいた。
「てっきりマルクが止めに来たのかと思って隠れてました。お母さんのことは無事に頼めましたか?」
「ああ、大丈夫だ。それより止めに来るってマルクが?」
「ええ、あの子冒険について行きたいって聞かないんですよね。まあ、連れていく気はありませんけど。連れていかないとなればきっとどんな手を使ってでも止めに来ますよ。前に私たちがこの家を出ていったあとはかなり落ち込んでいたらしいですし…あの子はプライドが高いんだと思います」
「…まさか後付けられてたりしないよな…?」
「近くに人の気配がないので大丈夫だと思いますよ。多分」
「多分って…」
「彼が索敵魔法を回避出来るすべをもちあわせている可能性も…」
「いや、無いでしょ。多分」
「まあ、大丈夫でしょうね。では行きましょうか」
ウェスタは窓を開け、予め吊り下げておいたロープを伝って下に降りた。ウェスタが下に着いたのを確認し、クロノも下に降りる。その後2人は静かに走って門の外に動かさせた馬車に乗り込んだ。すると、
「もう行くのか?」
「うわっ!?」「きゃっ!?」
マルクが馬車に乗り込んでいた。
「俺も連れて行ってくれないか?」
予想通り俺も連れて行けと言うマルク
「うーんそうだな、じゃあ条件をつけよう。このウェスタより魔法の扱いが上手くなることだ」
『ちょっと、それって…』
『大丈夫だウェスタ、これで奴が一緒に冒険することは無くなった…』
2人は小さな声でそっとやりとりをする。
「わかった。なら、俺が世界で1番の絶位魔術師になってやる」
「ああ!頑張れよ!」
クロノは何故か煽るような口調でマルクの応援をする。
「ありがとよ。じゃあ、お前らも気をつけてな。また帰ってこいよ、ここはお前らの家だ。いつでも歓迎するぜ」
とマルクは気にする様子もなく馬車から降りて2人に手を振って見送った。
「あんなこと言ってよかったんですか?」
「うん、今更後悔してる。マルクがあんなにかっこいいやつだとは…俺は惨めで情けない…」
「これから直していけばいいんですよ。失敗があるから人は学べるんです。成功しかしてない人なんていませんよ」
「ウェスタも?」
「記憶にはありませんがなにか大きな失敗をしたという感覚が残っています」
「そっか、ウェスタでも失敗することがあるなら俺が失敗するのもしょうがないな…。以後気を付けます」
「はいはい、それじゃあ南の王国ウェリトンヘ出発です」
2人は王都の南に位置するウェリトン王国へと馬車を進めるのだった。
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番外編
ローゼ家初日の出来事
「君達ちょっと服汚くない?これで新しいのでも買ってきな」
黒と灰が混ざったロン毛の男が黒髪の少年と金髪の少女に金貨がどっさり入った袋を渡した。
「あ、ありがとうございます…えっ!?」
「こ、こんな大金初めて見ました」
袋の中の金貨はざっと100枚はあるだろうか、金貨1枚でリンゴが100個買えるとでもいえばその凄さはわかるだろうか?
「まあ、好きに使っていいからさ。街の服屋とか行ってきな」
2人は「「ありがとうございます!」」と言って早速屋敷を飛び出した。
「ウェスタ、何か欲しいものとかあるか?」
「私、人界の町は初めてでどのお店も興味深いものばかりなのでクロノが行きたいところでいいですよ」
「そっか、なら良かった。たしかあそこは…この先だな」
そういうとクロノはウェスタの手を引いてどこかへ走り出した。やがてたどり着いたのは街で1番大きい防具屋だった。
「クロノ…何故ここに?」
「ウェスタの防具を買うために決まってるだろ。お前は剣や棒で叩かれたら見た目そのままの耐久力しかないんだから買っとかないとそう、色々まずいだろ…?」
「ふふ…ありがとうございます!では早速見て見ましょうか」
クロノがウェスタをそこへ連れてきた理由を聞いてウェスタは一気に笑顔になる。そして2人は早速店内に入った。
「すごい…!こんなに沢山の種類があるんですね…」
その店内は壁だけでは飽き足らず床や天井にまでも防具が展示されていた。2人はそれぞれ相手に合いそうなものを探そうということで店内を見ていた。
「ウェスタ、これどうだ?」
早速クロノが持ってきたそれは魔法の力で物理攻撃に対する防御力を上げるという魔法のチョーカーだった。
「良いですね、ちょっと付けてみます」
ウェスタは嬉しそうにそれを受け取ると早速自分の首に着けた。
「…どうですか?」
「ぷッ!あははは!!ははは!!」
その様子を見たクロノは突如大笑いを始めた。
「ど、どうして笑うんですか!?」
「ご、ごめん…はは。なんか、犬みたいだなーって思って…はは」
「犬っ!?もう…!からかわないでください!」
ウェスタは恥ずかしさと悔しさから頬を赤らめクロノをポカポカと殴りつける。
「あはは!…はは!ははは!ご、ごめん…はは。と、とりあえず外してくれ…ぷッ!あはは!」
「もう…」
ウェスタは笑い続けるクロノに若干呆れながらチョーカーを外す。
「ごめんウェスタ、笑うためにこれを渡した訳じゃなくて…」
「いいですよ、別に気にしてなんかいませんからっ!」
とあからさまに気にしているオーラを出すウェスタと
「あっ、ウェスタこれはどう?」
一切気にする様子のないクロノである。
次にクロノがウェスタに見せたのは金で縁取られた青い指輪だった。
「これ、なんかの効果があったりするんですか?」
「えーっと、なになに…?3回までどんな攻撃でも防ぐシールドを出せる…?えっすごい」
「これ、ホントなんですか?例えばクロノのゲイボルグでも防げるんですかね?あれは確か百発百中じゃないですか」
「うーん、それは多分当たるまで何度も刺さろうとし続けるんじゃないか?」
「あー、そういうのには効果は薄いですね。でも、何かの保険として持っておくのはありかもしれませんね。クロノも買ったらどうですか?」
「それだと俺とウェスタでお揃いになっちゃうけど良いのか?」
「ぁっ…べ、別に私はそんなこと気にしませんけどね。だ、だってこの指輪は同じものが世界に何個も…」
「その指輪は世界に2つだけ、この店オリジナルの品だ」
と、店主が言うと
「ご、ごほん、えー…ソレデモワタシハキニシマセンヨ」
「それ思いっきり気にしてる時の言い方だよね?まあ俺のはいいよウェスタのだけでも」
「クロノがそういうなら別にいいです。予備のために一応二つ買いますけどね。そう、予備のために…。これください」
ウェスタはその指輪を2つとも持って会計をしに行った。
「絶守の指輪2個で金貨80枚だよ」
「は、80…!?あ、あぁ…こ、ここ、こ、これでお願いしますっ!」
予想外の金額の高さに焦ったウェスタはハンクに貰った袋をそのまま差し出した。
「78、79、80…。はい、ちょうど貰ったよ。毎度ありー」
店主は手際よく金貨を数え会計を済ませた。2人はそのままの流れで店を出た。
「…や、やってしまいましたっ!こんなに高いならひとつにしておけば良かったです!」
あまりの金額の高さに取り乱すウェスタの肩に手を置きなだめる。
「大丈夫だウェスタ、多分全部使っても問題ない!」
クロノはグッとサムズアップしてみせると
「じゃあ次は服だな。服はウェスタが選んでくれよ。あとはせっかくだし高いご飯でも食いに行くか」
「え、えぇ〜大丈夫ですかね…?嫌な予感しかしませんよ〜!」
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「で、全部使ったと?」
案の定説教されていた。
「「はい…」」
「買ったのは指輪二つ、それぞれの上着1枚づつ、で、残りは食事代か…?はぁ…子供に大金を持たせた私が馬鹿だった。自由に使えとは言ったが普通こういう時は半分くらいで済ませておくものだ。はぁ…罰として私の仕事を手伝ってくれ」
「「はい…ほんとにすみません…頑張ります…」」
こうしてクロノとウェスタはローゼ家の屋敷で1週間お手伝いをすることになったのだった。
序章 『日の沈む国と時の勇者の立志』
〜完〜
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