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時の勇者の伝説  作者: 雨音 陽香 編集:M
序章  『日の沈む国と時の勇者の立志』
1/28

プロローグ  『決戦』

はじめまして、雨音陽香です。

この作品をポチってくれてありがとうございます。

不定期にはなりますが、順次投稿していくので楽しんでくださいね(* 'ᵕ' )

それでは、どうぞ!

 


 ──恐らく今日、全ての終わりが来る。

 古より続いた勇者対魔王の戦いの終わりが。

 俺は勇者だ。その事実だけが胸に、記憶に深く突き刺さっていた。他の何もかもを全て忘れてしまってもそれだけは決して忘れることは許されない。それが俺の使命だから。

 今、伝説の幕を閉じよう。


 魔王城の重厚な扉に手を掛ける。

 全身に緊張が走る。

 落ち着け、落ち着け、と深呼吸をして緊張を和らげる。

 そしてゆっくりとその扉を押し開く。


「──待っていました、勇者」


 その部屋の先にいたのは1人の少女だった。

 その少女は黄金の髪と見る者を魅了する空色の瞳を持ち、その声音は鈴の音のように美しい響きであった。


「お前が魔王か? 戦いの前にその名を聞いておこう。この戦いは伝説となるのだから」


「私はウェスタ、魔王です。貴方の名前は?」


「俺はクロノ、勇者だ。魔王ウェスタ、お互い正々堂々戦おう」


「ええ。では、始めましょうか」


 魔王のその言葉と同時にクロノは剣を構えた。

 ──魔王は剣を持たず、素手だ。ということは彼女は魔法使いに違いない。遠距離の戦闘を避けるために接近戦で勝負するべきだ。


 そう思いクロノは一気に魔王との距離を詰める。

 開戦の一撃が魔王へと振り下ろされる寸前

 ──魔王城が爆ぜた。


 天井に空いた大きな穴から1匹のドラゴンが顔を出す。

 その体は月明かりを鈍く反射する赤色の鱗で覆われており、2人を見つめる紅色の双眸はどこか寂しさを感じさせる。

 その頭には2本の立派なツノが生えており、凶悪な口元からチラリと見える歯はどんなものでも噛み砕けそうな程に鋭く尖っていた。

 ドラゴンは大きな翼を広げ、口も動かさずに話し始める。


「ああ、この時をどれほど待っただろうか。我が名は竜王。この世で最も気高い生き物である竜の一族の末裔である。勇者、それに魔王よ、お前達が相対することを20年前より今か今かと待ちわびていたぞ。この戦いをここで根絶やしにするために数々の策を弄してきた、その結果今こうしてその目的を達成することが出来る。礼を言おう、ありがとうと」


 ──なんだ、こいつは……?


「あなたの目的はなんですか?」


 魔王は竜王と名乗ったそれに対し、手のひらを向け質問した。

 だが、威圧感のあるその行動に対する竜王の回答は回答の拒否だった。


「死にゆく者に語るべきことはない」


 竜王はその凶悪な口を開き、クロノ達めがけて大きな火球を飛ばしてきた。


 恐ろしく速いそれをクロノは危なげに避ける。

 魔王を見れば、それをものともせずに先程の姿勢のままでいた。


「大層な風体をしているのにその程度ですか? 私達を根絶やしにする? 笑わせないでください。あなたはここで私に敗れます。炸裂せよ(バースト)!」


 魔王は伸ばした両手から、水塊と火球をそれぞれ飛ばす。

 それが竜王へ到達すると同時に噴煙をあげて爆ぜる。

 噴煙に紛れて竜王の姿は見えない。


「やったか!?」


「油断しないでください!! 竜王はまだ生きているはずです」


 その直後、凄まじい風圧で噴煙が全て吹き飛ばされた。

 そこに見えたのは翼をはためかせる無傷の竜王だった。


「ッ……!! やっぱり……」


「魔王と言えどもこんなものか、もう少し骨のある奴だと期待していたのだがな。初めから本気で戦うべきだった。もう、遅いがな」


 竜王は牙を剥き出しにした悍ましい口を大きく開け、その内部に力を溜める。


「なんだ……!?」


 竜王はその口から、魔王城全てを飲み込み、焼き尽くしてしまいそうなほどに大きく、そして強大な火炎を凄まじい轟音を立てて吐き出した。


 その熱さを、大きさを目の当たりにしたクロノは死を覚悟する。

 火炎がクロノ達へ迫る。



 だが、その火炎がクロノに当たることは無かった。


「……?」


 閉じた瞼を開けてみれば、魔王が作り出した防壁によって火炎を防いでいた。


「勇者クロノ、ここは悔しいですが共闘を願います! 私の魔法は奴とは相性が悪い、私が援護しますからあなたはなにか攻撃してください! なにか切り札はありませんか!?」


 魔王は額に汗を浮かべてこちらを見る。


 ──なにか……切り札は!?

 記憶が混濁していて何も思い出せない?

 何故、何故だ!?


「何故、何故何も……思い出せないんだ?」


 記憶の穴を感じる。

 どこか不自然に切り取られたそれはクロノの人格を形成する場所だけを除いてほぼ全て消えていた。


「勇者クロノ! 早く!」


 ──なんでもいい! なにかないか、なにかないか! なにかないか!!?

 何も……無い。


「ッ!!」


 魔王がついに竜王の火炎に押し負け、クロノのいる方へ吹き飛ばされてきた。

 クロノはそれをなんとか受け止め、目の前に迫る火炎を、死を、回避する方法を模索する。


 ──死ぬのか……? ここで終わっていいのか……? 終わっていいわけが……ない。俺が本当に勇者なのなら、絶望を凌駕する力が残されているはずだ。目覚めろ勇者!! 勇者、今こそその力を使う時だ!!


 普通ならば覚醒の場面、起死回生の場面、だが、何も起きなかった。

 彼にはそんなことをする力がなかった。

 ただ火炎を、死を、見つめることだけしか出来なかった。

 いつまでも迫り続ける火炎を見つめることしか出来なかった。


「え?」


 クロノは違和感を感じる。恐ろしいほどに大きな火炎はすぐそこまで迫ってきているのだ。だが、それはいつまでたってもクロノの元に到達することは無かった。


 クロノは気付く、世界の速さが遅くなっていることに。

 迫ってきていた死が止まる。

 混濁する記憶と現実、クロノの頭の中に見たことの無い映像が流れ出す。

 その中の1つを手に取り、見る。



 ……………………

 ………………


 …………。




 記憶が蘇る。





「──スクルド様、時の均衡を崩す者を退治することに成功しました」


 クロノは1人の女性の元へ膝を立て、頭を垂れていた。


 クロノとスクルドと呼ばれた麗しい蒼銀髪の女性がいたのはこの世のものとは思えないほど美しい庭園だった。

 どこかから水のせせらぎが聞こえ、花が咲き、鳥が戯れるような、そんな美しい庭園でクロノは、スクルドという若く美しい見た目をした神々しい雰囲気の女性と会話している。


「ありがとう勇者クロノ。あなたの行いによって未来の世界は救われました。その功績に対しなにか褒美を与えましょう。制限はありません、なにか望みはありますか?」


「……なんでも、ですか? …………それなら私は、運命を変える力が欲しい」


 その発言を聞いたスクルドは驚き、語気を強めて言う。


「それが何を意味するかわかった上での発言でしょうか?」


「はい、全てを承知の上です。私はあまりにも誤りすぎてしまった。その運命を変えることが出来るのならば、この私に授けられた勇者の力“()()”ですら捧げる覚悟です。」


「加護を手放すなど、そう簡単に口にしていいことではありません。あなたのその力は全人類の希望なのです。

 私はあなたの失敗の全てを、この先あなたに降りかかるはずの悲劇も、全てを理解しています。

 もし私があなたに力を与えることでその悲劇を回避することが出来るのなら、いいでしょう。あなたに力を与えましょう。

 あなたに渡す力は過去を変えて未来を変える力。

 ですが、この力は人の身には扱えぬ様な強大な力です。あなたには使う度に幾度となく代償が課せられることでしょう」


「代償を……?」


「そう、例えばあなたのその類稀なる才能や勇者の力、果てにはあなたを形成する人間性などでしょうか。使い過ぎればあなたはきっと人に戻れなくなってしまうでしょう。どうか計画的に、この力に関する記憶は必要な時が来るまであなたの記憶の中から隠しておきます」


「わかりました。ありがとうございます」


「そして、力を与える対価として──」




 …………。


 ………………

 ……………………



 記憶はそこで途絶えた。

 目を開け、脳を覚醒させる。

 世界は未だ静止したままだ。


 ──夢から回帰した俺がするべきことはただ1つだ。


 この権能を使い、始まりの時へと時間を巻き戻すこと。

 クロノは火炎の奥の竜王に復讐(リベンジ)を誓い、覚悟を決める。

 チラリと腕の中でこちらを見上げる魔王の姿が目に入った。

 その情けないほどに人間らしい顔を見て、魔王を抱える腕に力が入る。

 そして、止まっていた世界は動き出す。


 火炎が迫り、全てを焼き尽くそうと、終わらせる炎が迫る。




 クロノは全力で叫んだ。





「──戻れぇぇええ!!」





 世界は白い光に包まれた。



 自分と他の境界が曖昧になり、その光に溶けてゆく。

 混ざり、混ざり、戻る。

 世界は際限なく巻き戻され続ける。



 そして、意識が飛んだ──。



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