ゴーストスイーパー、横島くんの時給は250円。では日本の最低時給とは?
(* ̄∇ ̄)ノ 奇才ノマが極論を述べる。
『GS美神 極楽大作戦!!』は、作者は椎名高志。週刊少年サンデーで連載されたマンガでアニメになった。
このマンガの中でゴーストスイーパーのアシスタント、横島くんの時給はなんと250円。
薄給でこき使われながらも、ちち、しり、ふとももー! と叫ぶ煩悩の男、横島くんは上司の美神さんの色気に負けて、時給250円で働いている。ある意味、潔く男らしい。
とある事件での活躍から時給は255円に上がり、後半でも給料は上がったらしいが、この金額は不明。
最低賃金を完全に無視した薄給で、ゴーストスイーパーという過酷な肉体労働に励むところがギャグとなっている。まあ、マンガなので。
■最低時給
日本は最低賃金法により最低賃金が地域ごとに決められている国。
高いのは東京の1013円、神奈川の1011円。
低いのは青森、岩手、島根などの790円。
これは令和元年のときのもの。
ちなみに、幽霊時代のおキヌちゃんの給料は日給で30円である。幽霊とはいえ、これもまたどうかと。
■世界では
OECD加盟国における最低賃金ランキング(時給換算)のトップ5。データは2017年のもの。
1位、オーストラリア(12.1ドル)
2位、ルクセンブルク(11.8ドル)
3位、ドイツ(10.9ドル)
4位、オランダ(10.4ドル)
4位、ベルギー(10.4ドル)
日本は8.1ドルで11位。
OECDに加盟しているアジア諸国ではトップの日本。
一方で、先進国の中ではアメリカを少し上回ることで、なんとか最下位を免れている。
では改めて日本の最低時給を見てみよう。
■時給5円
時給5円と聞いてどんな感想を人は持つのだろうか?
横島くんより245円も安い。1日7時間働いて35円だ。
ちなみに私は小学生のときに夕刊配達のアルバイトをしたことがあるが、そのときの月給は約3000円だった。一度の配達が一時間ほどで終わるので、時給にすると約100円だろうか。ずいぶんと中抜きされていたようだ。
それでも時給5円と比べたら20倍近い差はある。
では時給5円の仕事とはなにか?
刑務所の囚人の最低賃金は時給5円だ。
■刑務所の作業報奨金
刑務作業で貰える賃金の事を『作業報奨金』と呼ぶ。2015年の作業報奨金の時給は。
1等工、41円90銭
2等工、33円10銭
3等工、26円70銭
4等工、22円00銭
5等工、17円70銭
6等工、15円80銭
7等工、12円20銭
8等工、9円70銭
9等工、7円40銭
10等工、5円90銭
見習い、5円10銭
長く勤めて仕事を憶えて、最高でも時給は41円だ。
この作業報奨金は最低賃金に抵触しないのか、というところでは、労働が刑罰の一種であり雇用契約とはならないので、国の定める最低賃金以下でもいいということになる。
また、刑務作業による売上が約40億円あり、その利益を刑務所の運営費にあてることで、コストを抑えることができている。
人権を無視した安い報酬で囚人を働かせているからこそ、刑務所にかかる金を減らすことに繋がっている。
■出所後の生活の為に
この作業報奨金は出所後の生活基盤を作る為の資金にも当てられる。しかし、時給5円でいったいどれだけ貯金ができるのか。
仕事に就くには住所が必要となるし、連絡手段として電話も必要。仕事先への交通費。履歴書も買わねばならない、場合によってはスーツも必要だ。
それを買うのは時給5円で働いて貯めたお金で。
1等工に上がるまでに3年以上はかかり、途中で懲罰を受ければ10等工に格下げもある。
1年で貯められる貯金が、頑張って約2万円だという。
少ない貯金では身寄りも無く頼る者もいなければ、シャバで仕事を見つけて暮らす為の資金が足りなくなる。
そうなると選べる選択肢は3つ。
① ホームレス
② 餓死
③ 再犯
刑務所にかける金をケチればケチる程に再犯率は高まり治安の悪化に繋がる。
この辺りから刑務所を見ればその国の人権意識が分かるとも言われる。
■日本の刑務作業は奴隷労働?
アメリカとイギリスからは、
『日本の刑務所で受刑者に民間企業の製品を強制的に作らせているのは、ILO条約の禁止する強制労働であり、違法だ』
と、批判されるようになる。
1994年、アメリカ議会下院外交委員会のアジア・太平洋小委員会のアッカーマン委員長いわく、
『自分の選挙区民であるラビンジャー氏から、日本の刑務所で服役した際、民間企業の製品を作るために、時給3セントの賃金で強制的に働かされたことを詳しく聞き、ショックを受けた。これは、日本も批准したILO強制労働禁止条約に明白に違反している』
1995年には、イギリスのインディペンド紙でも、府中刑務所で服役したイギリス人が記事になる。
『イギリス人受刑者、奴隷労働に利用される』
日本の刑務所が懲罰で強制し、受刑者を厳格な規律とわずかの賃金で働かせている。これはILO29号条約に違反しているというもの。
これに対し当時の法務省は、
『日本の懲役による受刑者は刑法で労働を義務づけられており、奴隷労働ではない』
と反論した。
■刑務所ビジネス
獄産複合体とも呼ばれる刑務所ビジネスが盛んだったのはアメリカ。
アメリカには200万人以上の囚人がいる。
その囚人達を時給25セントで働かせることにより、人件費を抑えた労働力になる。
刑務所には労組がないため受刑者からの賃上げ要求も無い。ストライキも起こさない。職を辞する権利も無い。失業保険もいらない。有給休暇や早退を取る権利もない。家族に不幸があっても休みを取ることも許されない。
仕事を拒否するなら独房に入れればいい。
経営する側から見れば理想的な労働力となる。
逆に言えば理想的な労働者とは囚人ということになる。
このために労働力を確保する為に囚人が増えたアメリカ。囚人の人権を守る団体『カリフォルニア刑務所フォーカス』によると、
『人類史上、これほど多くの自国民を投獄した社会は他にない』
囚人を労働力として使おうとすれば、多くの人々を牢屋に閉じ込めようという動機につながる。刑務所はこの刑務所ビジネスの収入に依存している。
労働力を増やす為に刑務所産業で利益を得ている企業株主たちは、刑の執行期間を長くするようにロビー活動を行う。
囚人による仕事が大規模に拡大したことにより利益が発生し、それがより多くの人々をより長期にわたって投獄したいとなる。
刑務所産業複合体は、アメリカで急成長した産業のひとつとなった。その結果に犯罪発生率は下がったのに刑務所と囚人は増加するという奇妙なことになった。
■日本の刑務所利用法
日本では過疎に悩む町が『刑務所誘致』を行うなどする。
2千人規模の刑務所をつくれば、職員を含めて3千人近い人間が増えることになり、住人が増えれば地方交付税を増やすこともできる。
刑務所を誘致し囚人を増やすことが過疎対策になり金になる。地元の雇用も増え、町おこしの起爆剤にもなる。
刑務所誘致の競争率は高まっている。
■経済成長?
日本でもアメリカの真似をして刑務所ビジネスが始まったらどうなるだろうか?
例えば囚人にGPSを埋め込むなどして位置情報を見失わないようにすれば、刑務所の外で働かせることも可能になるかもしれない。労働人口減少への対策にもなる。
人材派遣会社が刑務所を運営するなどすればどうなるだろうか? 時給100円、200円といった低賃金の非正規雇用者が増えるかもしれない。そうなったら人件費の価格破壊となりそうだ。
企業にとっては最低賃金を無視できる労働力は魅力的だろう。人件費が外国よりも安くなれば海外に自社工場を作らなくとも良くなる。
労働人口の減少から人手不足となる日本。かつてのように外国人の労働力に頼るのは難しい。アジア各国の人件費が上昇し日本に出稼ぎに行く魅力が薄れている。
逆に最低賃金が高いオーストラリアなどにワーキングホリデーでアルバイトするなど、日本から海外への出稼ぎに人気が高まる。
最低賃金の高さで人気のあるオーストラリアの最低賃金は、2020年7月以降はフルタイムやパートタイム契約の場合、1時間あたり19.84ドル。約1500円程になる。
■デフレの原因
ここで視点を変えよう。賃金下落、産業競争力低迷、成長期待の低下、政策の誤り。これがデフレの4つの原因と言われている。
賃金下落が消費低迷をもたらし、それが景気と企業業績を停滞させ、さらなる賃金下落をもたらすという。
賃金の下落がデフレの原因となるなら、最低時給を上げ収入を増やし、そこから消費が増加するといい、というのが理想となる。
消費者に金と時間の余裕ができればデフレから脱却できるかもしれない。
だが、働く側から見れば給料は高い方がいいが、雇う側から見れば人件費は安い方がいい。なので現実はなかなか理想には近づかない。
私は政府が率先して奴隷労働を行い、低賃金で人を働かせている国家はデフレ脱却など不可能だろうと思う。上手くいくとしたら、戦争景気ぐらいしか思いつかない。
■私の経験
私はかつて、日本国内の電子部品を作る工場で働いていた。
ある日のこと、原料の入荷が遅れた。
上司は納期に間に合わないと頭を抱えていたが、これまで問題なく入って来ていた原料が入荷できない原因が気になり調べてみた。
紛争鉱物と呼ばれるものがある。武装勢力が資金源とするレアメタルだ。
原料の入荷が遅れたのは、現地の武装勢力が鉱山の奪いあいで銃撃戦を始めたからのようだった。
武装勢力が現地の住民を銃で殺すと脅して鉱山で働かせる。まともに人件費を払わないのでコストが抑えられ、レアメタルの販売から利益が得られる。
企業はそんな武装勢力から原料を仕入れられるので、原材料費を安く抑えることができる。
調べて分かったことに、なんてところから原材料を仕入れているのか、と背筋が冷たくなった。
日本国内で携帯電話、ノートパソコンを購入していた人は、知らないままに武装勢力に資金提供していた、とも言える。
私は真面目に働いているつもりだったが、酷く裏切られたような気分を味わった。
■経済社会の行き着くところは?
企業にとって都合のいい労働者とは刑務所の囚人。
人の作った経済が行き着く人の理想の経済社会とは。
一握りの裕福な上級国民が、数多くの囚人を労働力として使う、国家という名前の巨大な刑務所なのかもしれない。
■刑務所のマシなところ。
だが、一部において刑務所の方がシャバよりマシなところもある。
長時間労働が問題になる中で、西日本新聞が掲載した記事が話題になった。
『受刑者の労働 楽すぎ? 出所者雇う企業から批判 1日7時間で休日も多い』
刑務所で行われている受刑者の刑務作業時間が短いため、企業から不満が出ているのだという。
出所者を雇用する企業からは、出所者は労働に耐える集中力、忍耐力が無いと言う。
刑務所の作業時間は原則として一日につき8時間を超えない範囲内と定められている。カレンダー通りに土日祝日は休み。労働時間は週40時間を越えず、残業は無い。
囚人の労働時間を増やすと、ただでさえ人手不足の刑務官の労働時間を増やすことになってしまう。
法務省は2014年度から一部の刑務所で1日8時間制を導入。
だが、これはおかしな話だ。是正すべきは刑務所ではなく一般社会の労働時間の方ではないのだろうか。
労働基準法には原則1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないと定められている。
企業は労働基準法の通りにすれば、経営が成り立たないと諦めている。働き方改革など絶望的に不可能だから、囚人の労働環境も悪化させて比較させないようにしよう、ということらしい。
日本では社畜が刑務所の囚人以下の待遇で働くのが、いつの間にか当たり前の国となってしまった。
ここから囚人の懲役は犯した罪によるが、シャバの就職は自動的に懲役40年と揶揄される。
刑務所の方がシャバよりマシとなった時点で、社会は狂っている。
■正社員をリストラして刑務所アウトソーシング
シャバの人間が囚人に『俺たちは長時間働いているんだから、お前たちももっと働け』というのであれば、逆もまたあり得る。
『囚人は時給5円で働いているんだ。お前たちは給料貰い過ぎだろう? 減らしてはどうだ?』
刑務所ビジネスから囚人を低賃金で働かせるようになれば、企業も経営の為に労働者をリストラして刑務所のアウトソーシングを活用しよう、となるだろう。
アメリカの工場では人件費削減の為に、150人の労働者をリストラし、私設刑務所であるロックハートテキサス刑務所から囚人労働者のサービスを請け負い、IBMやCompaqなどの企業向けの回路基板組み立て作業に従事させるところもある。
囚人を低賃金で働かせることの結果に、未来には自分達が職を失う心配に繋がる危機がある。
日本でも刑務所ビジネスが始まれば、人材不足を補う新たなビジネスとしてアメリカのように景気は良くなるかもしれない。経済が回り人手不足に悩む企業は活性する。
その為の犠牲としてリストラは増え、最低時給を無視した労働力確保の為に、犯罪発生率とは無関係に刑務所と囚人が増えるのでは、と考えられる。
■社会の歯車
社会の一員となることを社会の歯車という言い方もする。
しかし、歯車とは埃を取り除き、油を差さなければ満足には動けない。歯車が欠けたら修理しなければならない。
翻って、歯車のように大事に扱われる労働者とはいるのだろうか?
2018年度、全国の労働基準監督署が監督指導した外国人技能実習生の働く事業場、7334ヵ所のうち、70.4%が労働基準関係法令に違反していた。
賃金の未払い、暴力、長時間労働、安全基準の違反などなど。
外国人技能実習生を働かせる企業の70.4%は、その利益が少なすぎて労働基準法を守ることができないのだろう。
問題の無い29.6%の企業を称賛したい。
奴隷労働は短期的には利益を上げる。
資本主義リアリズムは時代が変わろうとも、いつまでも奴隷を手放せないようだ。