第六話「過去と加減と可愛いと」
謎のイケメン対策会議は混迷を極めていた。
「私達『超越の勇士』のメンバーではないことは確かね。鎧ってことは王国の騎士連中かしら?」
「漆黒の鎧なんて採用しているとこありましたっけ? 後の特長は、金髪と……イケメンですよね」
「ああ、美しいというか、整った顔っていうやつだったな、それこそ元の世界なら妖精とか言われそうだ。けど、今思ったんだが、美醜に関しての価値感がこの世界と同じとは限らないから、そこで差異があるとか?」
「セレメアさんはよく美人さんだって言われてますよ」
「じゃあ合ってるか」
「いいいいいきなり、ときめかせないでよ二人とも! ……そんなこと言われた後に言うのは、なんか恥ずかしいけど、そんな顔なら印象に残りそうよね」
「冒険者ではなかったんだよな?」
「ええ、とは言っても『この街の』という一文が付くけどね。見ない顔だって、受け付けが言ってたわ」
「じゃあ、この街に着いてから知り合ったってことはなくなるな」
「そもそも決闘っていうのがひっかかるわね、ある程度の教養は持ち合わせていそうだわ」
「前にミナトさんがお姫さまと結婚しかけたときに怒ってた貴族さんじゃないですか?」
「え、俺、お姫さまと結婚しかけたの!?」
「み、未遂よ未遂! 詳細はまた今度話すけど、政治的問題を解決するための作戦で……」
「でもお姫様結構本気でしたよ」
「わー! わー! ともかく、あのボンボンならまだ牢獄ブチ込まれてるはずよ。万が一出てたら、一度見逃がすなんて余裕あるとは思えないし」
「えー、じゃあベルの知らない人ですかねえ」
「私達の中で一番つき合いが長いベルが知らないとなると、一人で会ってたってことね」
「でもベル、ミナトさんとはお風呂も一緒ですよ?」
「そうなの!?」「ええ、嘘!?」
「あ、でもごくたまにベルを連れてかないで夜中出かけることが」
「ちょっとその話詳しく聞きたいわね」
「いや、多分夜景とかみてたのかな! 俺、夜景好きなんだよ! 異世界に来て余計そう思ってたのかなぁ!」
「一応そこでの知り合いってこともあるかもしれないけど。私達が知ってる姿とは変わってる、っていうのがあり得そうな答えかしら」
「あ、ベル分っちゃいました! 私達が知っているのとは違う姿、つまり魔王の転生した姿なんです! 黒いですし!」
「あのねえ、転生なんてあるわけないでしょ」
「転移はここにいるけどね」
ああでもない、こうでもない、おぼえてないの三重奏は当前の如く不協和音。
ついに脱落者も出始めた(ベルが寝た)、そうして、決断が下される。
「無視してクルクスに会いにいきましょう」
「でもそれは」
「でももかかしもないの、あんたは今記憶喪失っていう大変な事件に巻き込まれているのよ! そんなときに決闘とかしてられないわ! そもそもこんだけ考えて心当たりないのよ、あっちが間違えてるんじゃないの!?」
きぃっ、と声をあげ頭を押さえながら机に突っ伏す。
確かに、力加減ができない今の状態ではどうやったって何がしか被害が出てしまう。ということは、誰だか思いあたったとしても、決闘は回避しなければならない。
「でも、逃げ出して何か問題にならないか?」
「ならないわよ、ノーダメージ。魔王倒してる私達に何か脅威があるのかしら、仮にできても踏み倒せるわ。最強は、勝ち負けで覆らないから最強なのよ。それより、明日行って、記憶がないことが知れ渡る。そっちの方が、ダメージ大きいわ、あんたの記臆取り戻すのにも影響が出るかもしれないし」
正論だ。現状一番の脅威はこの俺の身に起きているのだし。
優先度を真違えてはならない。
「それに、そいつは万全の状態を希望してるのよ? しっかり記憶を取り戻さないと、戦力として万全とはいえないでしょ」
「……」
で、翌日。
「ここから目的の街まで何日くらいかかるんだ?」
「そこそこ近い距離だから、歩いて三日くらいね」
「うへえ、聞いただけで足が棒になりそうだ」
「能力はそのままなんだから、飲まず食わずで十日間歩き続けても平気よ」
「どんな体力してるんだ俺……」
すまない謎のイケメン、記憶が戻ったらいくらでも相手をしてやるからな……
一応の謝罪は心の中で済ませ、気持ちを切り変える。
そもそも今回のような面倒臭い事件が起こったのは、俺が戦えないからである。
極端な話、俺が力加減さえ取り戻せていたらさっさと決闘を終えるという手方が取れていたはず。
今回はたまたま相手側が理知的で、余裕があったため逃れたが、いきなり襲いかかる同じような輩がいないとも限らない。
防衛するためにも、このリミッターが外れた力をどうにかしなければならない。
と、言うわけで移動の長い時間を用いた修行を二人にお願いした。
「力を下げる修行っていうのも変な話ね」
「皆さん、強くなるための修行はたくさんやりましたけどね」
「この世界での強さとか、剣の使い方も、魔法の使い方もわからない。今や俺の身体に詳しいのは、俺よりも二人だと思うから、指導してくれ」
「ちょ、ちょっとアヤシイ響ね、身体に詳しい……」
「まあベルは実際隅々まで見てますし」
「ごほん、今後の風呂事情については追々話し合うとして。とりあえず身体の動かし方を覚えて貰わないとね」
「と、いうわけでミナトさんには、ここから目的地に辿り着くまで、ベルと追っ掛けっこしてもらいます! ベルを捕まえれたらクリア、眠ることができます」
「え、待ってくれ、それなら捕まえない限りは」
「言ったでしょ、飲まず食わずで歩き続けても平気だって。ま、精神的な疲労は当然あるでしょうけど」
「ちなみにベルは道通りじゃなくて森とか見えづらいところを通ります、見失ったらキツイですよ。頑張って追い掛け続けてきてくださいね」
「なるほど、走るときに気合入れ過ぎて追い抜かしても駄目ってことか」
「そ、先周りとかはさせないわ。で、その、さ、さらにそれに加えて」
セレメアの手が伸びて、僕の手を取る。
「わわ私を引っ張りながら、やってもらうわ! 手が離れたらアウトだから、しっかり繋ぎなさい!」
女の子の手ってこんなに柔かいのか? と、驚愕している俺をさらに次から次へとの衝撃が襲う。
あたたかい感覚が手の平から身体に伝わってくる。
ドキドキという音がするのは、彼女のが伝わってきているのか、それとも俺自身の心臓の音なのか、反別がつかない。
思わず彼女の顔を見ると真っ赤になって。
「優しく……してよね」
上目使いで、おねだりされた。
いつの間にこんな可愛い彼女ができたんだよ俺!
記憶の無い間だよ!
なんで彼女との記憶が無いんだよ!
早急に記憶を取り戻す必要がまたできた、などと思っていると。
「あの〜、手を握るのに強くしすぎないのは、追い掛けているという状況下でもうまく力加減が出来ているかというのを調べるためなんですからね? ベルは置いてけぼりで少しさみしいですよ、分かってます?」
冷ややかなベルの声に姿勢を正す俺だった。
「ミナトさん、ベルの全身を弄ったときにもそんな反応しなかったのに〜」
「……どういうこと?」
「あれ、おかしいな左手が痛いぞ。セレメア、力加減間違えてないたたたたたった」
このドキドキは、多分さっきのとは違う。