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第三話「嘘だろドラゴン退治、色々知るのは大事」

 ドラゴン、というものに対しての俺のイメージは、まあごくごく一般的なものの範疇に収まるだろう。翼を持った大きなトカゲ、火を吐き、宝物を溜め込み、そうして大概、強敵として扱われる。

 児童文学にライトノベルや、ゲームでしか摂取していないような大雑把で継ぎ接ぎの想像。それを伝えてみると。


「だいたい合ってるわよ」


「……合ってちゃ困るんだけれど」


 異世界転移初日にやることでは無い、いや、仮に一年過ぎたとしても、到底倒せるようになるとは思わないが。

 現在、俺は宿屋──街を離れ、そのドラゴンのいる場所やらへと向かいながら、セレメアにレクチャーを施してもらっている。

 話を聞く限り、この世界におけるドラゴンとは、様々なものに収集癖を持った厄介な大型生物という印象が強い。凶暴化したカラス……というとなんだか間抜けだが。本来は目利きな分、被害件数自体は少なく、強さも相まって放って置かれがちらしいのだが、今回の個体は商人のキャラバンを狙うらしく、流通に多大な被害が出ているとのこと。旅の途中でそのことを聞いた俺達は依頼を受け、早速明日の朝一で討伐に行こうと泊まっていたらしい。が、予期せぬハプニングが起こる。


「本当は、私だって今のあんたを連れて行くなんて危険な真似はしたくないわよ。けど、何も分からないままのあんたを置いていく方がより危険だと思うの。それに、ドラゴンなんてラクショーなんだし」

「強いんじゃないのか?」

「そりゃ私──あんたもだけど、Sクラス冒険者なんだから。そんじょそこらの強いより強いのが私達よ。これも、死闘と言うより私闘、小遣い稼ぎみたいな感覚よ」

「Sランク……最上の冒険者ねえ、そんな仕事についていたとは。って、そういえば言葉はどうして通じてるんだ?」

「ああ、ベルが翻訳してるんでしょ」

「そうですよミナトさん、ベルの妖精(フェアリー)()戯言(トラッシュ)のおかげで文字も言葉も問題なしです」

「妖精は無茶苦茶ねぇ」

「魔法はすごいな」

「だから、ベルのは魔法じゃないですよぉ!」

「ベルの使うのは、法則性や規則性のないもっと出鱈目な、妖精得有の力だから魔法とは違うのよね。ま、そういったものも含めて、魔法に関して私がレクチャーするわ。しかし、あんたに魔法を教えることになるなんて……」

「教えることになるなんて? なるほど、俺は魔法を使えなかったんだな」

「違うわ、私に魔法を教えたのがあんたなの」


 さて、ここからは長く複雑怪奇な魔法教室が始まるわけで。しかし、それは元々俺が教えたことというのだから、巡り巡って……いや、パスをそのまま返されたかのような感覚だが、難しいなどの文句も言えず、頑張って咀嚼をするしかない。

 そうして噛み砕いて魔法を説明するならば、現実を改変する方法、理論上はなんでもできる、らしい。


「とは言うものの、魔法っていうのは知性を持つもの、すべての思い込みの力、意思の憶測の願望の力を利用して、世界にそれを……みんなが火を欲しいって思うから、じゃあ世界には火がないといけないよねって生み出す……つまり、みんなが望むような──複雑じゃなくて単純で、直接的かつ暴力的なものが魔法の殆どなの」

「誰かの記憶を弄って、とか回りくどいことよりも、その誰かを力でどうこうするってほうが、多いってことか」

「そもそも原始的な力への渇望とかは子供や、少し頭のいい獣程度でも持ってるからね。それでも魔法という仕組みができてから果てしない時間で改良や革新が積み重ねられてきたけれど、人の思考自体がまだ未知の領域過ぎて、そういった類の魔法が開発されたという話は聞かないわね」

「なら、新しく記憶を取り戻す魔法を造るっていうのはどうだ?」

「選択肢としては候補にあるわ、ただ何十年かかるかもわからない道よ……私はこれでもエキスパートだから十数年には縮められるだろうけど。それに根本的なことが分からないと『再発』するかも知れないし」

「確かに。そもそも病気か怪我か、って話なんだもんなこの俺の記憶喪失って」

「あくまで私の見た範囲だけれどね。と、話が逸れたわ。魔法を使う方法はぶっちゃければ意志の力一つでどうにでもなるんだけれど……」

「ミナトさんは、魔法の使えない世界から来たから、『魔法が使える』って意思を獲得するまで随分掛かったって言ってましたよ。会ったばかりのときのことですけど、ベル覚えてます」

「と、いうわけで、やっぱり記憶を取り戻すか、もう一度同じ道を辿ってもらうしか無いみたいね。つまり勉強・練習・実践。流石にいきなりドラゴンと戦えとは言わないけれど、折を見て手取り足取り指導してあげるわ」

「もちろんベルもお手伝いしますよ!」

「ありがたいよ二人とも。しかし、一朝一夕で身につかないとなると、今のところの俺の武器はこれか」


 背中に背負っている剣、重く感じないのは剣の特性なのか、知らぬ間に鍛えられたこの体のおかげなのか。


「夢想剣ザファンね、あんたが手に入れた武器の中で最上級」

「ミナトさんは相棒って呼んでましたよ」

「相棒ねぇ」


 名前を聞いただけだとやや恥ずかしい気持ちだけで、こみ上げる懐かしい気持ちとかはないのだが。いや、中二病的な懐かしさはある。


「私は剣を扱ったことないから詳しいことは言えないけど、素振りとかはしておいた方がいいと思うわ、重心つかめなくてすっぽ抜けていったんじゃ話にならないでしょ。この先の山が、おそらく目標のドラゴンの住処。道中で餌にしてる魔物とかと出会う可能性もあるから、ここで少し練習してみて」


 別に私が守るから、気負わなくていいけど。と、セレメアは言う。彼女の実力を目の当たりにしたわけではないが、実際俺を守りながらの戦闘は苦ではないのだろう。

 けれど、安心なのはともかく、かつて教えていたという立場の俺がなにもできないというのはこう、落ち込む。聞く限り同じ戦力だったみたいだが、一年で強くなるとは思えない。かつての俺は何かしら、俗に言えばチート的なものを貰っていたのか。それともこの剣がチートだったり? と、抜いてみ……引っかかって抜けない。


「肩を屈めて、前に抜くようにしてみて」


 アドバイスをもらいつつ、抜剣。


「この動作ですら苦労しそうなんだけど」

「ま、まあしょうがないわよ、忘れているんだもの」

「大丈夫です! いざってときはベルも守りますから!」


 苦笑するセレメアとベル。

 そりゃ、忘れているだけというのは分かるんだけれど、こんな手前の手前の準備段階で躓いているのは恥ずかしい。


「一メートルくらいか、あんまり重く感じないのは、この剣の効果?」

「そういった魔道具(マジック・アイテム)では無かったはずだけど」

「じゃあ単純に鍛えられているのか」


 と、そんなことを言いながら振ってみる。いや、振ろうとした。言い訳をさせてもらえるならば、前述の通り、手前の手前で躓く始末なのだ。手前の段階、きちんと剣を握るなんていうことは、より、できない。加えて、あまりにも軽いけれど剣なのだと、少し力を込めて、勢いをつけたのは、俺の落ち度だ。

 勢いよく、俺の手からすっぽ抜けた剣。

 それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、目的の山へとすっ飛んでしまった。


「あ」


 と、その間抜けな声を誰が出したか定かではないが。

 呆けた俺達の目の前で剣はどんどん小さくなっていき……山肌に激突、次の瞬間、耳がおかしくなるほどの轟音、そして目も開けていられないような衝撃が、俺たちを襲った。

 踏ん張ることもできない俺はごろごろと、後方に転がりつつ「ぎゃわあ」飛んできたベルをついでにキャッチする。

 そして砂埃が収まってみると。

 少々前衛的な形に削り取られた──まるで大口を開けて齧られたような山がそこにあった。


「……そうか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「むしろ、適切な力の込め方は忘れている分、セーブできないから出力が滅茶苦茶になってるわね……」

「あれ、ドラゴン生きてますかね? お山の上の方無くなっちゃってますよ」


 男子、三日会わざれば刮目して、とはよく言うが。一年ぶりの自分は、やり過ぎだ。

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