女子高生が異世界に来たけれど《アームストロング砲》がいたので安心だったお話
私の名前は三島亜理音。
今年の春から高校に通い始めたばかりの、いわゆる現役女子高生。
中学の時は出来なかったから、髪を少し茶髪にしてみたり、アクセサリーで着飾ってみたり――これから高校生活を楽しんでいこうという矢先のことだった。
「……どこ、ここ?」
――私は、まったく見知らぬ森の中にいた。
見渡しても、どこもかしこも木々に囲われた森ばかり。
足元には、謎の落書きだけが残されている。
自転車で高校に通っていた私は、いつも通り朝から高校に向かう途中だった。
違うことがあるとすれば、気分を変えて近道である林道の方を通ったくらい――それ以外、特別なことをした覚えはない。
それなのに、ふと気付いたら知らない森の中にある。
林道は一本道で間違えることはまずないと思うのだけれど――
「自転車もないし……」
代わりに、ちらりと視線を横に向ける。そこにあったのは、木造の枠組みと車輪――鉄製の筒。一言で言えば、大砲が私の傍に寄り添ってくれていた。
「いや、大砲って……」
思わずジト目になりながら、その物騒な存在を見る。仮に林道の中だったとして、どうしてこんなものが置いてあるのだろう。
そう考えていると、視界にぼんやりと文字が浮かんできた。
「え、何これ――《アームストロング砲》……?」
浮かんできた文字をその通りに読み上げる。
アームストロング砲――そこにはそんな風に書いてあった。
どこかで聞いたこともあるような気がするけど、あまり覚えてない。
でも、その響きはどことなく、
「かっこいいじゃん!」
そんな感想が漏れた。
さらに、次々と視界に文字が並んでいく。そこには、
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名前:
種別:アームストロング砲
Lv:1
HP:250
MP:0
攻撃力:570
防御力:68
魔法力:0
魔法:
スキル:砲弾生成Lv1、自動装填Lv1
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「……何これ、ゲーム?」
私もスマホゲーは結構やる方だ。それがステータスを表しているのはよく分かる。
けれど、視界にそれが映るのはよく分からなかった。
それに、ここがどこだか全く分からない。
「誰かー、いませんか?」
森の方に向かって声を上げる。
さすがに、森をかき分けて進む勇気がまだ出なかった。
けれど、今の私の選択肢はここで待つよりも、誰かいるところまで移動することだ。
「……行ってみるしか、ないよね」
悩んでも仕方ない。
私は木々に覆われた森の方へと進もうとする。
少し気になるのは、私と一緒にいたアームストロング砲のこと。
「……さすがに怖いからって持っていけないしなぁ」
車輪は付いているが、とても女の子が押して動かせるような感じはしない。頑張れば動かせるかもしれないけれど――
「……荷物になるし、ね」
私はアームストロング砲を置いてその場を後にする――その時、
「え、なに?」
私の前に、液体が現れた。
本当に、その姿は液体なのだ。
緑色の液体は、地を這うようにぬるぬるとゆっくり動いている。
思わず、一歩後退りをした。
まるで意思でも持っているかのように、その液体は私の方へと歩み寄ってくる。
「スライム……?」
それは、理科の実験などで見たスライムそのものだ。
ただ、それがただのスライムなら何も驚くようなことはない。
よく目を凝らすと、葉っぱなどを飲み込んで溶かしているのを見るまでは。
「ちょ、ちょ! 変な薬品とかじゃないよね……!?」
誰に聞いても答えてくれる人はいない。
よく見れば、森はあちこちにその液体で濡れていた。
――私は今、スライムに囲われている。
まだ私の方に向かって来ているだけみたいだけど、それでも確実に迫ってきている。それはよく分かった。
私は慌てて後ろに下がる。アームストロング砲くらいしか私の傍にはない。
「ど、どうしよう……! 何か近づいてくるし、ハンカチ……とか意味なさそうだし……!」
慌てふためきながら状況を確認する。
カバンは自転車と一緒に消えてしまっていて、私の近くにあるのはこのアームストロング砲だけ。
アームストロング砲の背後に隠れるようにうずくまると、不意に視界に模様が浮かび上がる。
それは、まるで森の中にいるスライムを狙っているかのようだった。
「え、え……ロックオンしてる? もしかして撃てるの……? で、でも撃ち方とかまったく分からないんだけど……!」
色々と確認してみるけれど、筒上の本体以外に目新しいものは見つからない。
その間にも、私の方へとゆっくり――確実にスライムは迫ってきていた。
たまらず、私は声を上げる。
「も、もうどうすればいいの! 『撃て』ーっとか言えばいいの!?」
――瞬間、ドンッという大きな音が周囲に鳴り響く。
私は驚きと共に、耳を防いだ。
並ぶ木々を薙ぎ倒しながら、音を立てて砲弾が飛んでいく。
着弾と共に、小規模な爆発が発生したのが見えた。
「え、え……!?」
砲弾を撃ったのは、アームストロング砲だ。
煙が筒の先から上がっているからよく分かる。
先ほどロックオンしていたスライムの何体かが消えている。
――今の一撃が、スライムを倒したのだ。
『アームストロング砲のレベルが上がりました』
「!? だ、誰……!?」
『スキル《自動操縦》を習得。スキル《自動ロックオン》を習得』
「な、何なの!?」
私の声には誰も答えてくれない。
ただ、その言葉が聞こえたあとに、ズズズと音をたてながら――アームストロング砲が動き出した。
「ひぇ……」
思わず変な声が漏れる。
車輪を動かしながら、アームストロング砲は別のスライムへと狙いを定めた。
そして、再びの静止――先ほどのことで、何となくだけれど理解できた。
私の言葉に、このアームストロング砲は反応するのだ、と。
「でも、なんで……ううん。今は一先ず、あなたに頼るしかないから……! 『撃って』!」
再びの砲撃。
私の言葉に従って、アームストロング砲は砲弾を撃ち放つ。
砲弾が着弾するのは森の奥の方で、スライム達を消し飛ばしているのは砲弾による衝撃の方だった。
何体かスライムを倒すたびに、変な声がまた聞こえてくる。
『アームストロング砲のレベルが上がりました。スキルレベルが上昇しました』
「スキルレベル……?」
やはりゲームか何かの言葉ばかりが羅列されている気がする。
私は再び、アームストロング砲を凝視する。
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名前:
種別:アームストロング砲
Lv:5
HP:547
MP:0
攻撃力:748
防御力:99
魔法力:0
魔法:
スキル:砲弾生成Lv2、自動装填Lv2、自動ロックオンLv1
パッシブスキル:自動操縦
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……ちょっと強くなっていた。
なんだか分からないけれど、しばらくこれを繰り返すうちに私の周囲の木々は薙ぎ倒され、スライム達も跡形もなくなる。
「……助かった? ――よかったぁ……」
その場に脱力するように座り込む。
ギギギ、と音を立てながら、アームストロング砲が私の隣にやってきた。
「えっと、自動操縦だから勝手に動くってこと? お話とかはできないのかな……?」
『……』
アームストロング砲は答えない。
けれど、私の傍から離れようとするわけでもない。
むしろ、立ち上がって歩き始めるとアームストロング砲は私の後ろについてきた。……まるでペットの犬みたいに。
「……よく分からないけど、とりあえず誰かいないか探してみよっか。アーム……呼びにくいから『アムちゃん』でいい?」
『登録しました』
「! 今のって決まりでいいってこと? よろしくね、アムちゃん!」
『……』
誰も答えてくれないけれど、私はアームストロング砲と共に人を探して旅だった。
ここが《異世界》であるということに気付いたのは、これからしばらく後のことだ。
その時には、アームストロング砲はすっかり強くなっていたので、特に問題はなかった。
女子高生を異世界送りにしたかったので考えたネタです!
連載するとしたら、たぶんだんだんとコメディに振られていく感じだと思います!