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現世の防人  作者: 鷹十鷲
1/2

序/ 0.始まりの記憶

就活から、リハビリがてらの投稿。

正式なタイトルが決まってない上にロクな文章じゃないかもしれませんが、定期的に更新しようと思ってるので、見かけたら読んでみてください。


2021/8/12 追記)

本日付けで、こちらの小説を改訂させていただくことにしました。

物語の展開に大きな変化は出ない予定です。

 ――その宝刀を見て最初に自分が感じたのは、安易に形容することがおこがましいと思えるほどに魅せられる圧倒的な”美しさ“だった。

 一点の汚れも無い清らかな純白の鞘。鞘の色と色合いを対比し、互いの美しさを引きたてる緑に色付いた漆黒の柄。そして、鞘と柄の色合いの間を取り持つように華やかな彩りを添える金色の鍔と、装丁だけ見ても非常に美しい。

 が、自分がその刀に大きく魅了されたのはそんな外面的な美しさでなくもっと本質――純白の鞘から刀を引き出した際に見せたその輝き。

 穢れなく純粋で、覗き込んだ者の姿どころか、その奥に潜んだ本性まで見透かしてしまいそうなほど、美しい光沢で磨き上がった銀色の刀身。

 むやみに鞘から抜き出してしまったことを恥ずかしいと思ってしまうくらい、その刀身が醸し出す神秘と、秘められた力に魅了されてしまった。

 しかし同時に、強く不思議に思わざるを得ない。

 神聖で犯し難い美しさと力を有する宝刀が、こんな古びた土蔵の中で今まで見つけられることなく放置されていたのか。

 そして、そんな至高の芸術品を、なぜ、この絶体絶命の瞬間(とき)に見つけることになってしまったのか。


 ――町を襲った未曾有の大火災が広がり始めて数刻あまり。

 何がきっかけでこれほどの災害が起き、そして町全体に拡大したのかについては一切不明。

 少なからず分かっていたことは、この大火災によって故郷の町のおよそ九割が燃えてしまったこと。そして逃げ遅れた者はもちろん、運良く火の手から逃れることができた自分も、ついに最期を迎えようとしている事実だけであった。

 俺が最初にその火災と遭遇したのは、町の市場へ買い出しに出かけた昼頃のことだった。

 その時は誰も、あんな大火災に見舞われることになるとは思ってもみなかったため、市場のある大通りはいつもと変わらない盛況を呈していた。

 港で獲れたばかりの新鮮な魚を売り込む漁師や、田舎から市場へ持ち込んだ米や野菜を売り込む百姓。様々な生活に必要となる品物から、普段見かけない珍しい品物を売り込む人々と、それらを求めて大通りを行き交う群衆によって、町は活気に満ち溢れていたのだ。

 ……しかし、そんな平和は突如として崩壊してしまう。

 客寄せの掛け声と行きかう人々の喧騒で賑わう最中、不意に大きな悲鳴が市場に響き渡った。

 そして、その直後に「火事だーーっ!」の言葉が聞こえた瞬間、大きな爆発音と共に巨大な火柱が、火事が起きたと思われる場所から噴き上がったのである。

 この世のものとは思えない目を疑う光景を目の当たりにした人々は、最初のうちこそ噴き上がった火柱を呆然と眺めるだけであった。が、噴き上がる火柱がまき散らした火の粉が家屋に降り注ぎ始めると、あっという間に混乱が広がることになる。

 なんと降り注いだ火の粉は、火が付いた油を撒き散らすかのように、降り注いだ家屋を次々と炎上させ、平穏だった町に大災害をもたらしたのだ。

 大通りに混乱が広がり始めるまで、俺は夕食に使う魚を買い終えた休憩がてら、店先の縁台に腰かけて団子を食べていたが、噴き上がった火柱と燃え広がる火災を前に一目散に逃げる人々を見ると、すぐに立ち上がって火事の起きている方へ向かって走り出した。

 常識で考えれば、他の人々と同じように安全な場所を探して避難するべきだったのだろうが、今回の火事はあまりに突発的で、かつ不可解な原因によって発生したものだ。

 そうした事態に直面した結果、必死になって逃げようとするあまり、思わぬ事故に遭遇したり、どこに向かって逃げればいいのか分からなってしまったりすることで、結果的に逃げ遅れてしまう人が少なからず出てしまう。

 そうした人たちを少しでも助けたいと思い、俺は敢えて火事が起きた方に急いだのである。

 その後は勢いを増しながら次から次に迫ってくる炎に苦戦は強いられたものの、逃げ遅れた人たちを助けること自体は上手くいった。

 火事がさらに広がり、これ以上続けたら自分が逃げられなくなると判断できるようになるまで、俺はひたすら懸命に救助を行い続けた。

 ……だが結局、そんな思いも、その行いも、すべてが無駄に終わった。

 俺が助けた人たちも、大通りから一心不乱に逃げていた他の人たちも、みんな逃げた避難先で焼け死んでしまったのだ。

 救助を終えて駆けつけた時にはもう手遅れで、既に亡くなってしまった者から、今なお自分の身体が焼ける痛みに苦しんでいる者まで、老若男女問わず犠牲となった、見るも無残な光景を目の前にして、俺はその場で茫然と佇むことしかできなかった。

 亡くなった人々が逃げたこの避難先は、建物一つ立ってないどころか草木さえ碌に生い茂ってない川辺の広場であり、近くに火が迫っても燃え広がることは、ほとんどあり得ない場所だ。

 そんな安全と思われた場所が、今やこの世の地獄を体現したかのように、地面は燃え、生き物の焼ける嫌な臭いを放ちながら、焼け死んだ人々の身体が至るところに転がっているなんて、にわかには信じられなかったのである。

 とはいえ、いつまでもぼーっとしているわけにはいかなかった。

 火事の勢いは未だ衰えておらず、このまま佇んでいたら自分も彼ら同じように焼け死んでしまう。人々を助けられなかったことへの動揺は大きかったものの、今は生き残ることを一番に考えて動かなければならなかった。

 そうして他に逃げられる避難先を探して、すぐに移動し始めた。

 相変わらず激しく燃え広がる炎に囲まれないよう移動先を変えたり、時には携えた二振りの刀を抜いて行く手を阻む障害を強引に突破したりするなど、さっきと同じように迫りくる火の手から逃れつつ、新しい避難先を探し続けた。

 誰かの命を守るために戦う以外で刃を振るうことに、若干の躊躇いはあったものの、「誰かを救いたいのであれば、まず己の身を救うために太刀を取れ」という親父の遺言(ことば)を思い出して、迷いを払いながら進んだ。

 しかし、どんなに進んでも、見つかるのは最初に見た避難先と同じ、燃え上がる地獄の業火の中で焼け死んだ人々の骸が積み上がった悲惨な光景ばかり。

 さらに別の避難先へ移動する道中でも、俺が助けられなかった逃げ遅れた人々の骸を何度も何度も見せつけられ、最初の避難先から離れる際にしまい込んでいた悲しみや悔しさ、そして何よりも激しい怒りが沸々と湧き上がっていた。

 ……余りにも理不尽だった。

 つい数刻前までは、誰もが命の危険に脅かされることのなく平和を享受し、笑顔と活気に満ちた幸せな時間を過ごせていたのに。

 助けることができなかった人々はもちろんだが、あれだけの混乱が広がる中で辛くも逃げ切ることができた人々ですら、あんな悲惨な最期を迎えなければならないなんて。

 そんな状況や救えなかった人々に対して何もできない自分の無力さを、終始味わわされたのである。


 そしてついに、新たな避難先を探しながら懸命に逃げ続けていた俺も、より一層激しくなった炎から逃げられないところにまで追い詰められてしまう。

 このままでは自分も、逃げ遅れた人々と同じように焼け死んでしまうことは明らかであったため、やむを得ず逃げる途中で見つけた古い土蔵へ逃げ込み、火の勢いが収まるまで立て籠もることを余儀なくされた。

 周囲に大火災が広がる中、いくら燃えにくい素材でできている建物とは言え、屋内へ避難することが如何に危険な選択であるかは先刻承知であったが、それ以外に選べる策がなかったこともまた事実だった。

 不幸中の幸いだったのは、逃げ込んだ先が比較的大きな土蔵だったことだろう。

 古びているが内部の構造にさして傷みは無く、扉や窓も問題なく閉めることができたため、極限まで呼吸を抑え、徐々に上がっていく蔵の中の温度に耐えられれば、一時しのぎの場としては使えそうだったからだ。

 さすがに半日以上は難しいだろうが、それまでには蔵の周りにある他の建物は燃え尽き、火事もある程度は下火になっているはずなので、なんとかなるだろうと思い込んでしまったのである。

 ……だが結果として、その見積もりはかなり甘いものだったと思い知らされてしまう。

 蔵の中の空気と、温度の変化に注意して耐えればどうにかなると思っていた火事との戦いは、閉めたはずの扉や窓の隙間から侵入してきた炎によって敢え無く終わりを迎えてしまったのだ。

 予想だにしなかった展開に不意を突かれこともあって、侵入してきた炎は瞬く間に壁を伝って天井へ燃え移り、蔵を燃やし尽くすための準備を整えた。慌てて消し止めようと動いた時にはもう手遅れで、蔵の中で燃え広がった炎を抑え込むことができなくなってしまったのである。


 ――そうして絶体絶命の状況に陥った中、それでも生き延びることを諦めず、蔵に保管されていた物品から何か使えそうなものを探している時に見つけたのが、手に持っているこの宝刀だったという顛末だ。

 だが、如何に霊験あらたかな美しい宝刀を手にしたところで、燃え広がる炎に対してどうにかできるわけでもない。剣豪を志す人間がこんな感想を抱くのは罰当たりかもしれないが、この窮地の中で見つけた物としては期待外れもいいところである。

 ……一応、この宝刀を振るって侵入してきた炎を消し飛ばすことは可能だろうが、それなら手持ちの二振りの刀で事足りる上に、そんなことをすれば蔵ごと吹き飛ばして、追い詰められたこの状況をさらに悪化させてしまうだけだった。

「…………お手上げか」

 悔しさと諦めの入り混じった声で、思わずそんな弱音を吐いてしまう。

 ここまで幾度となく救えなかった命を目の当たりにし、その度に突き付けられた自身の無力さに忸怩たる思いを抱きつつも、生き延びるために懸命に逃げ続けてきた。

 しかし、脱出できる経路も無ければ、それを作り出すための手段も持ち合わせてない現状においては、自分の命運は尽きてしまったと言っていい。

「――冗談じゃない」

 ……しかし、それでも諦めることはできなかった。

 死ぬ覚悟ができなかったわけではない。むしろこれから間もなく自身の身に訪れるであろう『死』に対して形容しがたい高揚感を覚えており、『恐怖』という感情は既に自分の中から消え失せている。

 だが、それで出来ることを何もせず全てを観念し、死が訪れるまでを待つだけになるのは、これまでの人生で掲げてきた自らの意志をドブに捨てることと同義なのだ。

〝もうなんだっていいっ! 何かこの窮地を乗り切ることのできる手段は何かないのか!?〟

 持っていた宝刀を強く握り締め、脱出のための活路を見出そうと改めて周囲を見渡すが、やはり完全に火の手が回り、退路を断たれた蔵の中から脱出するなど不可能に近い。

 もはや奇跡でも起きない限り、ここから無事に生き延びることなど叶いそうになかった。

 抗いたくても抗えず、このまま何もできずに最期を迎えなければならない、という非情な現実に、いよいよ押しつぶされそうになった、――その時である。

「がッ!!? ~~~~っ。なんで、急に、こんな耳鳴りが……ッ!」

 思わず耳を塞いでしまうほどの強い高音が頭の中で急に響き渡り、その不快な音響に耐えきれず俺は床に倒れてしまった。

 持っていた宝刀も落としてしまうが、正直そんなことに気を配っていられないほど、頭の中に大音量で鳴り響く高音がきつい。こんなのをずっと……それこそ死ぬ直前まで聞き続けたら、気が狂ったまま最期を迎えてしまいそうだ。

「~~~~ッ、………………くそっ。一体何だったんだ、今のは?」

 そうして、ようやく耳鳴りが収まり、未だ頭の奥でズキズキと痛む頭を押さえながら、俺は起き上がって周囲の状況を確認した。

 ――その時である。

「…………おい、待てって。なんだよ、これ」

 耳鳴りのせいで倒れた際に落としてしまった、至高の美しさを持つ霊験あらたかな宝刀。

 それが今、正体不明の淡い白光を放っていたのだ。

 それは『行灯』が放つ今にも消えそうな弱々しい光とは異なる、朧気であるが力強く、何よりも温かで優しさを感じさせ、まるでこの世のありとあらゆる苦しみから人々を守る御仏の加護のような光だった。

 宝刀から放たれる光は時間が経つにつれてその輝きを増していき、終いには直視するのが困難になるほどの大きなものになった。

 また放たれる光の強さが増していくにつれて、先ほどの耳鳴りとはまた異なる高音が響いてくることにも気がついた。頭の中でつんざくように酷く不快に鳴り響いていたモノとは違い、どこか高尚で、聞いていると心地よい感覚に包まれる不思議な音だった。

 突然聞こえた耳鳴りから、床に落とした宝刀が見せる不可解な怪奇現象に目を奪われている間に、侵入した炎はいよいよ俺と目の鼻の先にまで迫ったようであるが、もはやそんなことは今の自分にとってどうでもいい。

 何か計り知れぬ大きな力が蓄積されるかのように強まっていく、床に転がった宝刀の輝きと聞こえてくる不思議な高音に俺は完全に心を奪われてしまった。

 ほんの数尺、屈んで手を伸ばせば拾える距離にある幻想的な美しさに、とうとう俺は好奇心を抑えきれず――神聖な武具に手を触れることへの躊躇いは若干あったものの、倒れた時に落としてしまった宝刀を拾い上げた。

 ――――そして、宝刀に触れた瞬間、聞こえていた高音と輝いていた光が、一際大きくなったことを確認したのを最後に、俺の意識は途絶えてしまった。


2021/8/12

仕事が落ち着いて、設定資料諸々の整理にも概ねケリがついたため、

本腰入れて執筆していこうと思って読み返したら、昔の自分が書いた文章が

あまりにひどく、恥ずかしくて死にそうになりました。

(文章のひどさは、今も大して変わってないかもしれないですが……)


どうせなので、もう一からやり直す意味で書き直そうと決心し、

今回修正させていただきました。

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