ユイの生死
ユイを病院に搬送する救急車の中で母はともかく泣いた。病院に着いてからもまだ泣いた。泣いて、泣いて、泣いて……ひたすら泣いて。
それでユイが助かる訳では無いのに……。でも、泣くことしか出来なかった。
医師は言った。ユイは非常に危険な状態にあること。そして、事故の影響で脊髄を損傷している危険性が高い為、もし生きることが出来たとしても、一生歩けない可能性が高いこと。
……自分はユイの近くにいたのに。自分がしっかりして無かったから。自分の所為で、ユイはこんなことになってしまった。
だから、母は自分を責め続けた。
連絡して戻ってきた父は何にも言ってこなかった。どう説明したかは覚えてない。でも、普通責めないだろうか。いや、寧ろひたすらに責めて欲しかった。その方が楽だったのに。
母にとっては、この気遣いの方が寧ろ辛いものだった。
今二人は、集中治療室の前にあるベンチに座って、手術を受けているユイを待っている。
その間も母親は相変わらず枯渇することのない涙を流していた。
――手術は早く終わって欲しい。そして、早くユイの無事を確かめて、早く元気になって、また皆で元の生活に戻りたい。
でもその反面、まだ終わるな、そんな気持ちもある。
ユイが死んだなんて、そんなの聞きたくない。それに何より怖い……。
自分の所為でユイが死ぬ。
死ななくても、ユイは一生歩くことが出来ないかもしれない……。
それが怖かったのだ。
しかし、人間がどう思おうと時間が停止することはない。
――遂に治療室のドアが開いた。
医師の姿を確認し、父はすぐに駆け寄り、母親は一呼吸入れた後少し遅れて行く。
その二人に医師ははっきり告げた。
「ユイちゃんは、一命を取り留めました」