第3話 フラグと回避
あれから3日が経った。
あの後俺の必死の弁解により何とか無実だと証明できた。
そもそもあの少女がむやみやたらに叫ばなければこんなことには…まあ夜中に声掛けられたら叫びたくもなるか。
そんな当たり前のことを考えながらも本当に疑いが晴れてよかった。
異世界に来て1日で犯罪者は洒落にならないからな。
俺の容疑は晴れたがそれでもそのまま釈放!という訳にもいかず、念の為留置場で3日の拘留となった。
特に行くあても無かった俺にとって3食寝床付きの生活は案外快適だった。
でもなんか違和感があったんだよな‥‥。
うやむやにされたというか。
俺のことなんてどうでもよくなった感じだったな。
2日目のがなんだか慌ただしくて3日目に急に釈放って言われたんだが何かあったのだろうか?
まあそんなことはあまり気にしなくてもよくて、釈放されてから今何をしているのかと言うと今日泊まる宿を探している。
なぜこの世界のお金を持っているのかと思っただろうが誤認逮捕の謝礼としてあの警官がくれた。
暫くはこの金で過ごせるから安心だ。
ここ数日でこの世界―ユグドラシルについて分かった事がいくつかある。
まず1つ目はこの世界には冒険者なる者がいるということ。
異世界なんだから当たり前といえば当たり前の設定なんだが、これが意外と大事だ。
せっかく異世界に来たのに魔法使ったり、モンスターを倒せないなら意味が無い。
宿を見つけたら冒険者ギルドに行こうと思っている。
2つ目は言葉や為替レートが日本基準だということ。
あまり意識していなかったが言葉が通じるのは本当に助かる。
流石にご都合設定過ぎる気がしなくもないがまあこの際いいか。
ネコ型ロボットの翻訳なんちゃらとか使ってるんだろ。
因みにさっき貰った金額は30万ガルムだ。
つまり30万円だな。
ガルムっていう単位の由来についてはなんかその昔ガルムンドという勇者がこの世界に平和をもたらしたからなんだとか。
最後は今ユグドラシルは魔王と交戦中だということ。
そこは全然いいのだがここからが問題だ。
なんでもこの世界には既に勇者がいて、もうほぼほぼ魔王を倒すだけの状態らしい。
雑魚モンスターがまだ蔓延っているとはいえそれも魔王が倒されれば自然消滅するんだと。
……どう思います?
これ俺が召喚された意味あるのか?
これ知った時結構ショック受けたんだよな…。
「よぉ兄ちゃんシケた顔してどうした?りんご1つでもどうだ?50ユグドだよ!」
ザ・青果店の店主の様な男が急に声をかけてきた。
りんご50円か…安いな。
というか普通にりんごとか売ってるのか。
よく見たらぶどうにバナナ、デコポンなんかも売っている。
そう言えば拘置所にいたときサバの味噌煮とか出てきたっけ。
ここ実は日本だったりしない?
どうにも異世界に来た気がしないんだよなぁ。
まありんご1つくらいお金もあるし買ってもいいか。
「それじゃあ1つください」
「まいどあり!」
「随分と新鮮なものが安くてにはいるんですね。」
お金を払いながらふと思った事を聞いてみる。
「そりゃあ勇者様が魔物をどんどん倒して下さるおかげで物の流通が安全で素早く出来るようになったのさ!いやぁ~勇者様さまさまだよ!!」
もしかしたら何かの手違いで自分が勇者なんじゃないかと思っていたがその希望は崩れ去った。
りんご片手にとぼとぼ歩いていると宿が見えてきた。
4、5階建てのお城の様な建物だ。
さすがは異世界。
日々魔物と戦っている冒険者を泊める宿は豪華みたいだ。
「よしっ!今日はここに泊まろう!」
久しぶりにフカフカのベッドで寝たい。
拘置所のベッドは硬かったからなぁ…。
色々と初めて続きであまり寝られなかったし。
今日は安眠が約束されたな!
ピコンッ。
…フラグが立ちやがった。
さっきのフラグが何を引き起こすのかは恐怖しか感じないが今考えても自分のフラグは見えないから意味がない。
ここ数日で俺が見ることの出来るフラグ(と読んでいいのか分からないが)についてもある程度分かってきた。
まず1つ目は見えるのもフラグが立った時の音が聞こえるのも俺だけだということ。
さっきも言った通り自分に立ったフラグは頭の上にあるから見えなんだが…。
鏡にも映らないし。
正直使える能力とは言い難いが自分だけの特殊能力みたいでちょっと嬉しい。
2つ目は誰でもフラグは立てれるということ。(意識はしてないが)
正確には俺の周囲にいる(半径約5メートル位の)人達が力を二次的に使えるようになるみたいだ。
力を共有する感じとでも言えばいいのだろうか?
これも能力の1つなのかな?
最後はこれが1番肝心なことなんだけど…。
「パパ!今日は早く帰ってきてよ!」
「ああもちろんだ!今日はお前の誕生日だからな。とびっきりの大物を狩ってきてやるよ!」
冒険者風の男とその息子らしき親子が会話しているのが聞こえてきた。
「絶対!?絶対だよ!?約束だからね!じゃあ早く狩って帰ってきてよ!!」
「ああ約束だ!すぐにでも帰ってくるさ!!」
ピコンッ!!
聞き飽きた通知音が高らかに鳴った。
この状況はもう何のフラグが立ったのか言うまでもないだろう。
赤色の旗に黒字で「死」の文字。
フラグとして恋愛フラグと同じくらい有名なんじゃないかと思われるフラグ。
死亡フラグだ。
それが今目の前の冒険者に立っている。
今すぐにでも今日の狩りはやめた方がいいですよと言いたい。
だがそうしない。
しても無駄だとわかっているからだ。
俺はこんな力を持っていながら人ひとりが死にに行くのをただ見てることしか出来ない…。
1度立ってしまったフラグはどんなフラグだろうが絶対に回避が出来ないのだ