表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人観察記録  作者: wawa
ファルド帝国とある空き家前~
52/61

天の眼(2)



 「これはエスクランザ国の神官さま、遠いところを我が教会シンシャーに、ご苦労さまです。今日は久しぶりに軍と反乱組織の衝突が少なくて、皆買い物に出てまして、そういえば、エスティー方面で大きな音がしましたが、何かありましたか?」


 「貴族の車だろ?物凄い速さで走ってたよ。でも通りの向こうだったからな。珍しいだろ?奴ら、いつもだらだらとのんびり走らせてるのによ。だから気になったんだ」


 「ええ、見ましたよ。エスティー通りから飛び出てきて、あの角で、子供が轢かれそうになって、びっくりしたんですよ」


 「覚えてますよ!忘れませんね!、黒い立派な箱車です!後ろに荷が積める、最近よく見かける形の中型の、どこかの家の紋章か、なんだったかな、あの家は、」


 「すいません、この子が轢かれそうになって、あたしはその事で、もういっぱいいっぱいで、この道を真っ直ぐ行ったことくらいしか、」

 「僕おぼえてる!黒いとびらに、るべるせいぶん!」

 



ーーーーーーーーー




 アピーが導いた大通り、買い物に出歩く貴族男に黒い車を見たかと訪ねると、北方の奴隷が話し掛けるなと凄まれた。それを殴打し気絶させ、供の者を脅すと直ぐに車の行き先を指差した。


 「あ、あっちです、でも見かけたのは、ここより先の、エール地区の中央線で、」


 エール地区に辿り着くと、大きな通りに教会を持つ天教院の信者を使い、周囲を聞き込みさせて見失った後を追う。入り組んだ見知らぬ大都市の道、信者の集めた情報で、エールの通りから駐留する騎士団を避けるように、裏道に入り込んだ不審な貴族の箱車を見かけた者がいた。


 行商人の男が見掛けたのは、通りの向こうを高速で駆け抜ける不審な箱車。そこから更に進んで、車に轢かれそうになった親子と出会ったが、その親子が示した先には、再び人と箱車が増えた大通りが現れた。


 「銀色ルベル獅子セイブ


 会釈をして去る親子から目を逸らし、貴族の箱車が走り出た大通りを眺めてみる。人が増え、同じ様な貴族の箱車が増えた大通り。既に過ぎ去った刻に苛立ちは募るが、通りに紛れた貴族の車をどう捉えるか、トラーは周囲を見渡した。


 (またこの近くの教会シンシャーを使うか、)


 辺りを見回し信者を探す。ファルドでは下手に通行人に尋ねると、人種の違いに無駄に刻を費やすことになるのだと学んだ。だがこの付近に教会は見当たらなく、目の前を歩く華美に着飾らない女の肩を掴もうとしたところで、背後から声が掛かった。


 「巫女ミスメアリ


 [!?]


 振り返った先には、往来を不自然に立ち止まって、こちらを見ている学生がいる。故意に自分を振り返らせた、その意図にトラーは素早く近寄り袖から出した小刀を首筋に突き付けた。


 「主の名を問う」


 「お、俺はエゥルの使いさ、主なんて、うっ!!」


 刃先が皮膚にめり込んだ。その痛みに身を引こうとするが、目の前の神官の殺気に気圧されて、身動ぎ出来ずに青年は苦痛を堪えて立ち竦む。周囲からは神官が学生の肩に手を掛けて、何かを話し込んでいるようにしか見えず、気にも掛けずに通行人は過ぎ去った。


 「俺は、ライド家のもんだ、」

 「覚えが無い。なぜ巫女様ミスメアリの事を知っている?」


 会話のたびに刃先が沈む。苦痛に呻き声を漏らした青年は、渋々「シオルの関係だ」と漏らした。


 「ソーラウド殿の使いか」

 「正しくは、そうじゃねえ、」


 数冊の本と紙袋を手にした利発そうな青年は、目線を手元の封筒に落とす。ソーラウドの名と共に仕舞われた刃先の代わりに、手にした封筒を押し付けた。


 「エスティー方面から出た貴族の箱車は三つ」


 [!?]


 首元を押さえ青年が憮然と呟いた、話の内容に素早く封筒の中身を取り出すと、三つの透明な魔石には、それぞれ黒の車が写っていた。


 「それぞれ行き先も押さえてあるぜ」


 (荷台付が二つ、扉には紋章付・・・これだ)、

 「銀色ルベル獅子セイブとは、どの家の紋章だ?オーラ一族では無いはずだ」


 王城で見た紫花の紋章がオーラ家のものだと知っている。王城内にも主張されていたヴァルヴォアールやエスティオーサなどの紋章は流し見たが、その他の紋章まで把握してはいない。薄茶色のトラーの瞳にたじろいだ青年は、渋々と呟き漏らしたが、途中で自分の言葉に目を見開いた。


 「・・・銀色ルベル獅子セイブは、メルビウスだ。騎士団の二番目の奴。え?、まさかメルビウスもこの件に関わってるの?」


 「この車の行き先は?」


 「これは東門の方に行ったやつだ、あ、おい!まだ言うことが、・・・クソ!知らねえぞ!」


 無言で走り出した口当て布の男の背中に、礼を言えと無意味な悪態がぶつかり消える。少し走って辺りを見回したトラーは、店先に停車している箱車の馬犬に手を掛けたが、それを別の声に止められた。


 〈こちらを。この場で盗みはいけません〉


 通りすがりの親切な貴族の紳士が、突然トラーに自分の馬犬の手綱を差し出した。だがファルド貴族のはずの金髪の紳士は、さらりとガーランド言葉を話す。


 〈馬犬ドーラの主が直ぐに戻ります。騎士団に煩わされたくはないでしょう?〉


 〈ハインか〉


 〈東側の帝都入り口は二つあります〉


 〈二つ?〉


 話の途中で駆け出した。背についてぶつかった学生の悪態には、続きがあったのだと舌打ちする。だがそこで、トラーは信者の証言と符合した銀色の紋章を紳士に告げた。

 

 〈メルビウスの紋章、その車に巫女様ミスメアリは居るはずだ。その家は、この付近には無いのか?帝都を抜けると見せかけて、拠点に向かったかもしれない〉


 穏やかそうな紳士だが、トラーの言葉に微笑む口元を歪ませる。そして首を傾げると〈おかしいですね〉と呟いた。


 〈騎士団の上位数名は、必ず見張りをつけています。ですがシエテからも、メルビウス家に関してはオーラとの繋がりを聞いていません。それに最近まで、この地域はエールダー公家が管理していました。今は軍の管轄ですが、メルビウスの屋敷はありません〉


 〈だが確実に、その紋章の家の車が攫った事には間違いない〉


 〈だとすれば、メルビウス家の紋章を偽装した可能性も。破落戸がよく使用する手です〉


 〈・・・なるほど、〉


 苛立ちと焦りに思考が狭くなった。軽く頷き用意された馬犬にトラーが跨がると、ハインと呼ばれた紳士は東正門ではなく、商人が多く通過する東裏門に指を差す。その手首には、貴族の礼装には不似合いな、石繋ぎの腕輪が数本重なっていた。


 〈銀色ルベル獅子セイブはあちらです〉


 示された方向に馬犬の首を返すと、速度を上げるために鞭を打つ。悲鳴のような嘶きに走り出した馬犬に、何事かと数人の通行人が振り返った。そこには走り去る馬犬と見送っていた男が一人居たのだが、騎乗した不審な北方の男を見上げて目線を戻すと、そこにはもう誰も居なかった。

 



** 

 


 

 「神官ナーギさん!」


 商人が長い行列をつくる東門に到着すると、並ぶ商人の間をすり抜けて、後ろから走ってきた少年に声を掛けられた。朗らかな笑顔の少年は、ファルドの小さな教会まで誘導してくれた見知った者だった。


 「ソーラウド殿の所に居た、イーファだな」


 「そうだよ!」


 にっこり満面に笑みを浮かべたイーファだが、少し離れた行列から、見る物も無くこちらをじろじろと眺めている商人たちと、更に検問所からは、数が増えて物々しい警備兵たちをトラーの背後に眺め見る。

 

 「ここまで早かったね。これから教えに行こうと思ったのに。まだ一刻半だ、意外と皇帝も頑張ったのかな?」


 「何の用だ?急いでいる」


 「あのね」、と声を潜めた少年に合わせて背を屈めて耳を傾ける。背後では、列に並ばない新参者の二人を、商人たちは険呑な目で見始めていた。


 「まずここで、今日はメルビウス家の黒の箱車が、調べられずに一台通ってる。でね、なんでこんなに兵隊さんが多いかっていうと、更にその後に、黒の馬犬ドーラが単騎で無理やり押し通ったんだって」


 「?、単騎、」

 

 ソーラウドの組織であるイーファが他人事として話し、ハインの男も何も言っていなかった。トラーの追い求める者を、他に追いかける組織が思い浮かばないが、話の途中で置き去りにした青年を思い出した。


 「ライド家と、名乗る組織は?」


 「違う違う。皇帝は、軍相手にこんな危ないことしないよ」


 「なら、その軍ではないか?ファルドの、」


 すると少年は首を振り、「今は違うよ」と否定した。


 「クレイオル・オーラは、今はファルド軍じゃないよね?」


 「なに?」


 「見た目の特徴から間違いないよ。なんかあの人、最近街で目撃されてたからね。箱車に置いて行かれて慌てたのかな?」

 


 [クレイオル・オーラ、・・・・]



 王城の庭に忍び込み、木から落ちた主人を抱え込んだ見知らぬ男。更に主の少女から、その男が去り際に残した異様な言葉を聞いた。


 ーー〈お前の愛を、受け取った〉


 トラーの主に、睦言の様な巫山戯た言葉を置き去りにして、居なくなったクレイオル・オーラはファルド国の敵となった。なのでもう、関わることは無いと、少女への穢れは祓われたものだと思っていた。


 [そうか、あの者が、]


 「な、神官ナーギさん?」


 礼儀正しい天教院エル・シン・オールの神官は、教会ですれ違うと破落戸の少年にも挨拶をしてくれた。そして彼は他の神官とは違い、帯剣する見慣れない神官装は神官騎士シャムラ・ナーギという、ファルド帝国には存在しない職種だとも教えてくれた。だが今は、少年の尊敬するソーラウドが怒りに周囲を威圧する刻よりも、神官騎士の纏う空気の方が重く冷たい。


 「止まれ!何だ貴様は!ここを通りたければ、列の最後尾に並べ!!」


 ーーガッ!!!


 「「!!!」」


 言葉の終わりにトラーに剣の鞘で殴られた兵士は、一撃に白眼を剥いて昏倒した。首が折れたかと思うほどに横倒しに倒れた兵士を見て、驚愕した警備兵達は不審者を咎める前に後退る。


 [退けろ]


 馬犬に飛び乗り静かに落とされた異国語に、見ていた商人たちも自然と道を開け、走り出た暴漢が馬犬止めを過ぎた頃に誰かが「止めろ」と我に返った。



 「す・げーーーーーーー!!」



 その一部始終を見ていた少年は、自分の周囲の者たちとは、違う恐怖を身に纏う者が居るのだと、目を輝かせてそれを見送った。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ