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異世界人観察記録  作者: wawa
ファルド帝国エールダー公家~
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首に架けられたもの




 「あの紫石、エミーから直接渡されるんだよね」


 

 目が覚めてから、暫くすると広い部屋に整列させられた。見たことも無い少年や青年たちと共に、見知らぬ場所でぼんやり並んでいると、銀色の長い髪、紫色の瞳を持つ美しい女性が現れた。


 「素晴らしいわね。あなた達に会えて嬉しいわ。私はエミー・オーラ。あなた達の味方。あなた達を愛する者よ」


 与えられた数字を呼ばれて前に出る。並んだ順に、何かの係のものが首の後ろに石を翳すと文字が首に転写された。


 (僕の数字は四十五エルヴィー?)


 前に並ぶ青年は、四十と転写されると微笑むエミーから、首に紫石の首飾りをかけられる。


 (次は、僕の番だよね)


 置かれた椅子に腰掛けて、何も考えずに項を晒して俯いた。ひやりと冷たい魔石の気配がし、係のものが転写の呪文を唱えると、脳から尻まで焼かれたような痛みが突き抜ける。



 「ぐ、か、あ、ぁ、」



 椅子から転げ落ちてのたうち回るエルヴィーを、見下ろした紫色の瞳は溜め息と共に半眼となり、美しい唇が開いた。



 「廃棄ルデアね」



 それがエルヴィーを愛する、エミーが彼に掛けた最初の言葉だった。



**



 「あの石持ってると、あんまり腹減らないらしいぞ」


 「そうなんだ。いいね」


 廃棄ルデアと呼ばれた者達は、魔戦士デルドバルと呼ばれた者達を羨望の眼差しで見つめている。大聖堂院カ・ラビ・オール内では侵入制限が無く、何処でも通過できる彼らはエミー・オーラの私室にも入れるのだ。


 それを第三区画の廊下から眺めていたエルヴィーとロウロウは、グーッと大きく鳴った互いの腹を見比べた。


 「お腹がへるのって、魔素アルケウスが足りないと、疲れるあれに似てるよね」

 

 「あー、わかる。怠くてぼんやりするよな。だから俺、仕事前には娼館行くぜ」


 「え?、なんで?、余計に疲れそうだよね?」


 「なんだけど、娼館行った後の方が、頭がスッキリすんだわ。エミーに言われた石探し、失敗したくないからな。いつもボーッと寝てないで、お前も行ってみれば?」


 「ふーん。そうなんだね」


 「長く生き残ったらエミーに気に入られて、俺たちもあの紫石、もらえるかもしれないしな」



 魔戦士デルドバルに与えられて、廃棄ルデアと呼ばれた自分たちには与えられなかった愛。それを憧れと見ていたエルヴィーだが、ある少女と出会ってからは、その石がそれほど気にならなくなった。





 

 「やっぱりね。この辺に居ると思った」



 娼館が並ぶ通りは、今は内乱により出歩く者が限られている。日々の糧を露店の収入に頼る者たち、それを買いに来る職人たち、軍の統制を気にしない貴族の若者たちが娼館にやって来るくらいだ。


 人気の少ない通りの真ん中、貴族の一人かと思われた美しい青年は薄青色の瞳を真っ直ぐセルドライに向けていた。


 〈・・・お前、四十五エルヴィー番だな?〉


 「・・・・・・・・」


 崩れ落ちた城壁。瓦礫の隙間から出て来たのは、エミーから愛を与えられた魔戦士デルドバルの肢体。その姿は、エミーからの命令を守り、骨皮となって干からびていた。


 (それを見下ろして涙を零したのは、エミーじゃなくてミギノだったんだよね)


 恐らく少女は、彼の哀れな姿に何かを思って泣いたのだ。だがその身体の中に入っていたものは、今は別の身体に入り込んでいる。


 「・・・噂になってるよ。クレイオルさんが市場や下町を彷徨いているって。作戦で立ち寄る事はあっても、こんな汚いところ彷徨く事はしないよね。クレイオルさんなら」


 〈・・・・〉


 「十九セルドライ、これを君に返しておくよ」


 〈!〉


 差し出されたエルヴィーの手、流れ落ちた鎖の先には紫色の石が輝いていた。


 「これ、エミーの愛だよね」


 〈なんでお前が、?〉



 「だってそれ、君には必要でしょう?僕には分かるよ。この世に存在する為の、エミーとの繋がりだものね」



 不気味に人気の少ないファルド帝国の城下街。破落戸も数を減らした娼館通りに、身形の良い二人の男は対峙する。


 〈・・・・〉


 「でも僕には必要ないんだ。僕にはミギノが居るからね。あの子が居るから、僕はこの世に繋がって居られるんだ。自分の存在を、あの子が認めてくれたから」


 〈・・・・〉


 「ミギノがね、それを君に返そうとして、動かなくなった君の身体を見て悲しんでたんだ。だから代わりに僕が返すよ。じゃあね」


 〈おい!〉


 少し進んで振り返ったエルヴィーは、無表情にセルドライを見つめる。


 〈お前は何故、エミーの愛が無くても存在出来る?〉


 「さあ?、よく分からないけど」


 〈・・・あ?〉



 「・・・・僕、君のその新しい姿、大嫌いだよ」



 〈・・・・〉



 「四十五エルヴィーって数字を与えられる前、その身体の男に、好きなひとを盗られた事があるんだ。だから、次はあげないよ」



 〈・・・・・・・・〉



**


 

 立ち去ったエルヴィーの言葉を、ぼんやりと考えてみたセルドライは首を傾げて紫石の首飾りを眺めてみた。暗闇の部屋で過ごした刻、退屈にそれを手にして眺めていたのだ。


 (よく考えたら、これを外して居眠りすると、ルルになって床に落ちてたな)


 ーー「だってそれ、君には必要でしょう?僕には分かるよ。この世に存在する為の、エミーとの繋がりだものね」


 〈・・・・・・・・〉

 

 戻ってきた大切な首飾りを上着の内入れにしまい込む。直ぐに首にかけなかった理由としては、今は別の首飾りがあったからだ。少女から借り受けた、約束の小さな指輪の首飾り。


 戻ってきた紫石の首飾りには喜ぶべきなのだが、少女ではなくエルヴィーからの返却に、よく分からない苛立ちが微かに募る。



 (・・・まあ、とりあえず行くか)



 そして直ぐに少女に会いに行ったのだが、刻が無かったと自分に言い訳をして、直ぐには指輪を返さなかった。セルドライは、次に少女と会える口実になったと、指輪それを陽の光に翳して笑う。




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