天上の巫女(5)(その場の追記)
***
ーーーグルディ・オーサ戦場域上空。
シーーーーン。
ザワ?
〈なんだあいつ、今、隊長の黒長鼠のこと、ファミアって言わなかった?ファミアって、東側の婚姻者のことですよね?〉
〈聞こえた。間違いない〉
〈センディオラ分隊長、やはりファルドのヴァルヴォアールは、ここで片付けておきましょう。目障りです〉
ーーシャリン。
〈同意だが、この場はオゥストロ隊長が絶対だ〉
〈妻ですよ?あの黒長鼠を、あの男は自分の妻だと言ったのですよ!?〉
〈・・・・・・・・〉ギリ。
〈やっぱり奴はイカレテル。あんな小さな子供を妻などと、変態野郎め〉
〈エミュス、故意に自軍の上官を貶すことはやめろ。軍法会議にかけるぞ〉
〈分隊長、僕は敵軍の将を非難したのです。我らがオゥストロ隊長は、婚約者だとしか宣言していません。あんな子供を妻だと宣言した変態野郎だと、そこまではっきりオゥストロ隊長に負の意見を述べてはいません〉
〈ギャギャギャ?〉
バサバサ、バサバサ。
〈ギャギャギャ・・・〉
バサバサ、バサバサ・・・。
〈〈・・・・・・・・〉〉
***
ーーーグルディ・オーサ戦場域地上。
「団長、妻って言ったぞ」
「言いましたね。婚約者ではなく、妻だと黒竜将に宣言しました」
「確かに、ガーランドの者達を前に、巫女姫は我が軍のものだと宣言することは必要だ」
「はい。先ほどの我々の進言が役に立ちました。団長から、あの少女への熱意を感じます」
「それだ。」
「?、なんですか?」
「なんだろうか、その熱意、ガーランドに対し、この場で宣言してしまったことに、違和感が生じる」
「エンゲイウス殿、歯切れが悪いですね」
「妻だとの宣言は、必要なのだろうか。我が軍の巫女姫で、よくはないか?」
「なんですか?先ほどの、彼女に従うと言った言葉は偽りですか?我々は、天上の巫女姫を支持すると決めたのです」
「その気持ちに偽りは無いのだが、」
「はっきりと仰って下さい。我が国の統轄騎士団長、自分の上官が、敵対国ガーランドの竜騎士を前に、あの少女を妻だと宣言したことが恥ずかしいのだと」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「無言は肯定ですね。エンゲイウス殿、大丈夫です。この場の半数以上が、おそらく同じ不透明な感情に囚われているでしょう」
「・・・・・・・」
「ですがご安心下さい。我が国内では、既に団長があの少女に懸想しているというあること無いことを、既成事実として国民は証言してくれるでしょう。この勝負、我が軍の勝利です。勝てばなんでも良いのです。勝者こそ正義。巫女姫が見た目に子供だとしても、勝者が大人だと言えば、それが真実になるのです」ニコリ!
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
とある国境線の、勝利を譲れない一戦。だがこの場での不透明な落着は、様々な人々にもやもやと禍根を残す事になる。




