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異世界人観察記録  作者: wawa
ファルド帝国西門~
32/61

こいしの中の少女(3)



 「えーーー、いいなぁー、アミノーサさん、ゼムさんに会ったの?」


 「そうだよチビ。だからなんだ」


 その苦手なゼムにトライドで、数ヵ月前に仕事の手際が悪いと怒られた。老女から子供にまで愛想を振る垂れ目の男は、シオル商会で一番の情報屋であるゼムに目を輝かせた少年に目を眇める。


 「俺、チビじゃなくなった。さっき、イースから名前もらったの。〔イーファ〕って言うんだ」


 「おー、そうか。イーファか。イーって、どこの街だっけ?」


 「それはいいの、それより、ゼムさんの話だよ!」


 「は・あ?」


 ぶり返された苦い思い出。アミノーサの頭であるソーラウドが、トライド王国で命を狙われた後始末だったのだが、久々の作業に腕が鈍ってしまった。目撃していたのが、ゼムの細い目だった。それはアミノーサの不手際に、嫌悪に歪められていた事を思い出す。



 ーー「素人じゃ、ねえんだから、」


 

 「・・・・・・・・」


 「ゼムさん、今度いつ、こっちに来るのかなぁ・・・」


 「なにお前、ゼムさんになんか用でもあんの?」


 「やー、用なんて無いんだけど、俺、ゼムさんに会いたい」


 産まれて直ぐに塵屋の前に捨てられた、イーファという名の少年は、裏道を歩いていてもいつも朗らかな顔をしている。ゼムの侮蔑がもやもやと心に浮かんだアミノーサだが、生まれつき快活な顔の少年が、脳裏の男に憧れて頬を染めた事に首を傾げた。


 「気持ちワリィ。」 


 「なんでなんで?かっこいいじゃん!ゼムさん!」


 「はあ?そう?あの人、いつも笑ってるけど、いつも目は笑ってないからな。きっと、シオル商会の情なし順位三番目だぜ。コワ。」


 破落戸たちの中にも、忠誠心という結束に、仲間を護るという見返りの情が存在するが、情なし上位の者たちには、それが適応されないのだ。シオル商会の役に立たない者は、無価値で存在の意味が無い。躊躇いなく対象者を処分してしまうと有名な、情なし三番目はゼムだとアミノーサが位置づけた。その情報屋に少年は憧れているらしい。


 (うちのイースの女の出所、追えなくて八つ当たりしてきやがったけど、よく考えたら危なかったぜ。余計なこと言って、ヤラレルとこだったんじゃねえ?)


 覗き見ていた透明な転写石。その中の少女を見ていたゼムの目は、今までに見たことの無いくらいに陰鬱だった。 


 「俺、今度会ったら、名前覚えてもらうんだ!えへっ!!」


 「・・・・・・・・」


 自己主張に目を付けられない方が良い。そんな忠告をしようかとも考えたが、嬉しそうな少年のやる気に、水を差す事はやめた。


 (・・・確かに、情報屋としては裏では一番かもしんねえけど。まあ、確かに、情報屋だからこそ、情はない方がやりやすいのか。でもあの人、最近子供連れ歩いてるって噂がある。・・・コワ。何に使うんだろ、)


 ゼムに不似合いな小さな少女を、なぜ傍に置いているのか。想像出来ない知人の姿を想像し、古びた小さな教会の廊下、開け放った空に葉煙草を吹き掛ける。


 「お前ら、邪魔邪魔!!」

 「大情報!大情報!」


 窓辺にもたれたアミノーサ、それを見上げていたイーファ。その横を、バタバタと慌ただしくテルイドとアルドイドが走り去った。


 「おい、なんの話だ?」


 走り去る二人にアミノーサが声をかけると、振り返りアルドイドが「巫女ミスメアリって、あの子、ミギノさんだった!」と叫んだ。


 「は・あー?ミギノさん?イースの女が何だって?もう巫女シストだの巫女様ミスメアリだの、宗教の話はごめんだわ。婆さん話、長えの。」


 「・・・・そうなんだ?」


 吐き捨てて、物憂げに無言になったアミノーサ。彼に挨拶に立ち止まっただけの少年は、雑談の後にくるりと背を向けたが「そうだ」と振り返った。


 「箱車通りで貴族にケンカ売った、説教売りの奴らなんだけど、あれ、イースの女だったんだって。それがさっきの巫女ミスメアリさんて、話だよね?」


 「は??、え、巫女ミスメアリって、神女シストの婆さん言ってた、天上エ・ローハ巫女ミスメアリ?」


 「うん。ファルドに入ってきた、なんか怪しい奴らが居るって、皆で目え付けてたんだ。それ、巫女ミスメアリさんだった。ミギノさんのことだよ」


 「・・・・・・・・え、」


 ゼムが血眼になって探し続けている黒髪の少女の過去うしろ。それをあっさり天上の巫女でしたと、後輩の少年は数日で答を出した。それに思考はついてはいかず、残っていた葉煙草がじりっと手を焦がす。 

 

 「ーッアッツ!、てか、お前、なんでそんなん、情報早いの?どこから持ってきたの?」


 「別の国から来たお客さん、あの人たちの中に、俺みたいに情報しごと探してる人が居るんだよね。その人たちを探ったり、別地区の仲間とか、いろいろ」


 「別の国の、!?、お前、それ、ヤバイ奴らじゃねえ?」


 明らかに、他国の軍関係者の諜報の事だ。少年は朗らかな笑顔で頷き、それを普通に利用していると言った。


 「でもね、その人たちは直ぐに居なくなっちゃうから、長く使えないんだ。その場で終わり」


 「その場で終わりって、お前、見つかったらヤラレルぞ。てか、どうやって見分けてんだよ、」


 玄人にも探すことが難しい。他国の一流の諜報は、人に紛れて見えなくなり、正体を突き止めれば逆に命を奪われる危険性がある。軍関係者ならば、破落戸同様に敵の命を絶つ事に秀でている。


 「なんとなくね。この人そうかなーって思ったら、大体そうなんだ」


 そこから先は、どうやって情報を引き出すか。それをイーファはアミノーサにも話さなかった。専門家として、仕事の手の内は仲間にも明かさない。もちろんアミノーサも、その手段を問い詰める事などしない。


 「・・・へー、ほー、」


 「でもそうか、情報持ってきたら、イースよろこぶよね!その巫女ミスメアリさん、俺が追うよ!すぐに捕まえて、この教会シンシャーまで連れて来る!」


 笑顔で走り去ったイーファ。まだ頼りない細い背中を頼もしく見つめたアミノーサは、将来的にゼムの立場を少年が脅かす事を確信して、言われた嫌味の溜飲を下げた。



 「期待するぜ。イーファ」




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