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異世界人観察記録  作者: wawa
ガーランド国境線グルディ・オーサ領~
24/61

上官の婚約者の成長記録(1)



 行動記録報告書


 記録者 アラフィア・クラマ

 運搬者 テルイダー


 記録対象一、大聖堂院 四十五番

 記録対象二、天上人メイ・カミナ


ーーーーーーーーー



 対象 四十五番


 行動 メイ・カミナの補佐。

    トライド領域内道案内は、

    騎士団の定期査察を正確に回避。


 特記 現状問題なし。


 備考 特になし。



ーーーーーーーーー



 対象 メイ・カミナ


 行動 宿屋では、オハシとシタギを作っている。


    文字学習の経過記録。

    現在はファルド国小学科階級、

    ガーランド国幼学科階級並。

  


 特記 特になし。


 備考 上記、天上言葉補足。


 〔オハシ〕

 用途

 天上国で使用していたらしい匙。

 ・形状は二本の木の棒。

 ・強度が少なく肉類には不向きだが、

  小さな豆も選別して掴める優れ物。

 ・使用には慣れが必要。


 〔シタギ〕

 用途

 ・女性用下穿き。

  



ーーーーーーーーー



 (定期報告って、何も変化が無いと面倒だよな。・・・動物ゴウドの連中にイラついた・・・ダメだな。これは書けない。あー、書くこと無い)


 週に二度、定期連絡の為の報告書の提出に、アラフィアは問題なく過ぎ去った道中を思い返す。ガーランドを出発してからトラヴィス山脈を通り、グルディ・オーサ領の農村部の宿屋にたどり着いた。


 対ファルド国攻略作戦、飛竜と引き離されて編制された特別部隊。その隊長となったアラフィアは、直属の上官オゥストロの命令、大聖堂院潜入、及び破壊活動の他に、中央議会より二つの重要な指令を受けている。


 一つ目は、ファルド国大聖堂院の被験者四十五番を、ファルド国内で魔戦士化すること。


 二つ目は、ファルド国英雄、オルディオール・ランダ・エールダーを取り込んだ天上人の巫女、メイ・カミナの存在の見極めである。


 精霊を身に宿す天上人の少女は、北方セウスエスクランザ国の皇太子も認める巫女ではあるのだが、ファルド国の過去の英雄オルディオール・ランダ・エールダーを名乗る精霊の真意は、現地ファルド国でなければ見極める事は出来ない。

 

 ファルド国で、精霊オルディオールがアラフィアを欺し、自国ガーランドの為にならない行動を取れば、速やかにそれを始末するか逆に利用をする。


 (・・・精霊殿が、そうならない事を願うばかりだな)


 寝台で眠る少女たち。アピーは獣人特有で、些細な物音で素早く耳を動かし警戒しながら寝ているが、その隣の寝台で、ころりと無防備に転がるメイは、明らかに熟睡していた。


 (そして精霊殿とは別に、・・・こいつの存在の見極め、隊長の婚約者として、天上人は相応しいかどうか、・・・)


 北方国の天上人への崇拝は絶対的だが、教会の御伽噺に登場する天上人の存在の見方は、ガーランド国の王城中央議会では未だ半信半疑である。


 竜王に対しても物怖じしない不思議な少女ではあるのだが、それだけでは足りないのだ。特士貴族であるオゥストロ、その正式な婚約者として天上人は相応しいのか、〔メイ自身〕の存在の力が問われている。


 ガーランド国では絶対的に必要となる、個人の存在力の強さ。天上人を未だ懐疑的に見ている議会は、敵国ファルドで少女の存在ちからの価値を測っていた。

 

 (・・・まあ結局は、議会のじいさん達は、子供に見えるメイを選んだ隊長の、体裁を整えたいんだよな。わかるぜ、じいさん達の、混乱が。)


 誰しもが認める存在力、オゥストロ・グールドは満場一致で平民から特士貴族となった。そのオゥストロが、年明けの祭典で腕に乗せていた婚約者、これに周囲は盛大に困惑したという。


 (上士の奴ら、その場で固まって動けなかったって聞いたしな。・・・エディゾビア、隠れ高慢ちきの、澄まし顔のあいつが、メイと隊長を見てどんな顔してたのか、あたしも見たかったぜ、)


 ハミアの娘、ファルネイアがオゥストロに纏わり付いていても、結局は上士貴族のエディゾビアと婚姻するのだと、アラフィアも国民も思っていたのだ。


 存在の強さ、実力、容姿、全てに於いて力のあるオゥストロは、男女を問わず魅力する色気も持ち合わせている。かく言うアラフィアもそんな憧れを入隊当初は持っていたが、第三の砦の激務にそれは徐々に薄れていき、オゥストロの真下に副隊長として認められた頃には、尊敬が優り性的な想像など不要になった。


 (尊敬すべき、第三の隊長か・・・、)


 竜騎士同士の婚姻者も多く存在し、恋愛が認められないわけではないのだが、オゥストロに関しては、本人が情人、仕事を完全に分けており、それを彼自身に寄せ付けない雰囲気があったのも理由に挙げられる。


 (尊敬すべき、・・・・。)


 だから今回、公的とはいえ砦内で小さな少女を気にかけていた事に、アラフィアは首を傾げていた。


 (・・・・・・・・本気?マジで隊長、メイがあれ以上、成長しなかったら、どうするつもりなんだ、)


 『すぴ、』


 〈・・・・・・・・十九歳セルドライ。〉


 ころりとまた転がった少女の、腹から布団がずり落ちた。それを掛け直して椅子に戻ったアラフィアは、上官の情人であった華々しく妖艶な女たちを思い出す。そして最後に、再びいけ好かない上士貴族の白竜騎士を思い浮かべた。


 『くー、くー、すぴ、』


 どう考えても、美丈夫オゥストロの隣に立つ連れ添いは、白竜の相棒である、美しい竜騎士がお似合いである。婚約者のお披露目に、釣り合いの取れないメイを、腕に乗せてしまったオゥストロの心中をアラフィアはもの悲しく思った。


 〈・・・・・・・・メイ、大きくなれよ。そして私の隊長への尊敬を、お前がへし折らない事を天に祈るぞ〉


 見た目は子供に見える女性。それを婚約者だと王城で披露したオゥストロ。周囲のオゥストロへ恋情を抱いていた優れた者たちの驚愕は見物であったと想像出来るが、現状問題として、その見た目に子供を今後上官がどう婚約者として扱うのか、アラフィアの心には晴れない靄が立ち篭める。


 『すー、すー、すぴっ、』


 〈・・・・・・・・あ、忘れてたぜ、成長記録、仕上げないと、〉


 明日には、通りすがりの諜報の運び屋に手渡す現状経過報告書。ファルド国内の調査記録とは別に要注意人物の二人の行動を記した行動記録書は、いつの間にかアラフィアの脳内では対象少女の成長記録と化している。今回、大して特筆も無い内容の無いそれに目を落としたアラフィアは、上官に婚約者の少女の最新情報を付け加えることにした。


 (メイは、宿屋で、オハシとシタギを手作りしている・・・)


 手の大きさに丁度良い二本の木の棒を見つけると、少女は暇を見ては宿屋でそれを削っている。聞けばその頼りない二本の棒を匙代わりに考えているらしく、まだ未完成のそれで、片手で豆菓子を掴んでみせた。


 (天上人、器用、・・・これでじいさん達、婚約者として納得してくんねえかな。じいさん達には、きっとこの棒の使用は難しい。あとはシタギ・・・)


 その内容は、下衣の中に着る下穿き。小さな端布をトラーに与えられたメイは、それで毎夜こつこつと縫い物をしている。布は下穿きになると、アラフィアにこっそりと教えてくれた、メイの頬は赤く染まっていた。


 (下穿き、手作り、天上人、・・・そうか、こいつ、たしか、身体が小さいから、子供用しか無いんだよな・・・)


 オゥストロに釣り合おうと、下穿きから大人として振る舞おうとしているメイ。そんな少女をしんみりと思ったアラフィアだが、出来上がった報告書を読み返して首を傾げた。



 〈下穿き・・・、作ってるって、隊長に報告する内容じゃねえかな?・・・ま、いいか。書くこと他に、今はネエしな〉



 書き終えた報告書を衣類の中に忍ばせる。未だ星は遠くないが、今日こそは睡眠を取るのだと、早めに寝ることにしたのには理由があるのだ。旅慣れない獣人の子供たちは、夜が更けると毎夜騒ぎ走り回る。それに備えて早めに灯りを消して、寝台に転がり込んだ。



**



 [巫女様ミスメアリ、そんな、私ごときに、自らのお手で、!?、]



 翌日、聞きなれないエスクランザの神官騎士の上ずった声が、宿屋の入り口近くで響いた。



 〈え・・・?あれ、下穿きじゃなかったのか?〉



 出来上がった形の違う一枚は、口当て布だとトラーに手渡されていた。呑気に笑うメイの前には、恐縮に何度も叩頭するエスクランザ国の将軍。その現場に遭遇し、アラフィアは、もう既に渡してしまった報告書の内容が、上官をからかい侮辱するための虚偽に相当するのかと、ぼんやり寝不足の身を固めて見つめていた。




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