爪痕の重さ(その場の追記)
ーーザザーン、ザザーン。
〈少し、よろしいですか?〉
〈ぁあ?〉
〈なに?北方の代表〉
〈南大陸の者が、縄張りの主張に印を付ける事は知っています。ですが、先ほどのお二人の話では、印を付けた事により、この船はヴェクト殿の物だとの認識であると、そうお考えですか?〉
〈当たり前だ〉
〈そうだね。やっぱり、こういう乗り物には、印を多く付けた方が、権利あるかな〉
[・・・・・・・・]
〈で?、なに?〉
〈その主張、南大陸以外では、通用しないのです。現にこの船は、ガーランドの物なのです。巫女様のご迷惑にならないように、お気を付け下さい〉
〈〈???〉〉
〈他国には様々な尊重すべき文化があります。お二人の主張に関するお考えは、他の国では諍いの元となります。それは全て、巫女様、・・・・メイ様の、負担となります。お気を付け下さい〉
〈・・・・・・・・〉
〈多分、大丈夫だよ。争わないよ〉
[?]
〈・・・・・・・・〉
〈だって、この船の場合、結局は印を付けたヴェクトに従わなければ、船を動かしているガーランドの人たち、海に捨てちゃえばいいでしょう?〉
[!!]
〈問題ない。印を付けるという事は、そういう事だ。この場の支配が目的だからな。俺より強いものは、この場には居ない〉
〈そうそう。俺は面倒くさいから、ヴェクトにこの船は譲ってあげたの〉
[・・・・・・・・。]
〈北方の戦士、お前は俺の印に挑戦したいのか?〉
〈ププ〉
[ですから]、
〈それが負担になると言っているのです。先ほど、あの銀色の子供に、序列や常識の話しをしていましたね?その中に、南方の長から、他国の規則に従えとの言葉もありましたが?〉
〈当たり前だ。他の縄張りに入るのに、いきなり荒らしたりはしない〉
〈そうだよ。それは厄災を呼ぶ危険があるからね。知ってる知ってる〉
[ですから、]、
〈その縄張りの主張、この船を、自分の物にするという発想が、そもそも荒らす行為そのものです〉
〈〈??〉〉
〈大体、言うことを聞かないからと、船員を海に投げ入れるという発想は、間違えています。投げ入れて、その後、あなた方は、この船を操作、操舵出来るのですか?〉
〈・・・・〉
〈あー、そうだよね。出来ないかも。大きすぎるよね。手漕ぎじゃないし。面倒くさそう〉
〈そういう事です。巫女様の、ご負担にだけは、ならないで下さい〉
〈・・・・・・・・〉
〈あーえー?、そうか、なるほど、・・・だよねえ、そうだよねえ。危ない危ない。スアハを笑ってる場合じゃなかった。空長の言い付け、自然に俺も、破るところだったよ〉
〈では、失礼致します〉
スタスタスタスタ・・・・。
〈・・・・・・・・フン。〉
〈危なかったねヴェクト、これが文化の違いってやつだよね。スアハに笑われるトコだった。〉
南方民族は、良くも悪くも素直な考え方をしている。この後の道中では、こうした些細な思い違いを他国の同行者が解消し、わかり合う事によって最悪の結果を未然に回避する事になるのだが、その主な役割は、北方の要人警護主任と、ガーランド国の女性警備隊員が請け負う事になる。