こいしの中の少女(1)
ーードン!
「お前、何ずっと見てんの?」
「おっ、あ、危ねえ!やめて下さいよ、イエルスさん!」
空に翳した転写石。それを窓枠にもたれて眺めていたゼムは、力強く背を叩かれて石を階下に落としそうになった。苛立ち振り返るが、立場の違いに口篭もる。
「ぼーっとしてんなよ。で?、何、それ。いい女でも写した?」
「いい女?・・・・いい女かと言われたら、そこはなんとも」
「なんだそれ?絶世の美人?俺にもよこせ」
「ダメダメ!まだこれ、複写してないから!それに、だから美人と言われると、そこはなんとも、」
「??、」
「でも絶世かと言われると、それはそうかも、」
「なんだそれ?・・・イラつく。よこせ!」
「あ!!」
暴力的に奪われた転写石。それを光に曝した人相の悪い男は、魔石の中の少女に目を見開く。
「お前、これ、」
「資料っすよ。貴重な資料」
「いつ撮ったんだよ。・・・てか、あの部屋で撮ったわけ?・・・お前、あの中で、撮ってたわけ?」
「だって、撮るでしょ?シファルの頭に向かって、あの子、あの態度っすよ?撮るでしょ、」
「・・・・」
ソーラウドが連れて来た小さな少女。ミギノは破落戸たちを睥睨し、彼等の心に本来の立場を思い出させた。封じ込めた先祖から引き継いだ騎士道。少女の言葉は、その燻りに火を付ける。
ーー「お前達は何故、トライド王国が未だ〔属国〕であるか理解しているか?」
ーー「この地をファルド帝国の盾にするためだ」
ーー「〔別の国〕を戦地にする事が重要だ。それだけで、ファルド国内の不満は下がる」
ーー「ファルド国民の不満を下げる。その為だけの盾」
ーー「ファルド帝国の土地を、戦地にしない為だけの盾か、」
あまりにも単純で、それを想像しなかった。この国に生まれた者には、耐え難い屈辱。
ーー「ここは俺達の、帰る場所なんだ」
怒りと共に零れ出た本音。取り囲み迫り、男たちの恫喝を身に浴びた小さな少女は、怯えもせずに破落戸たちを見て晴れやかに笑った。
「俺にもくれ」
「これは駄目です、また今度。別の石に、移してから売ります」
「売るのかよ、」
小さな小石の中、同じ顔で笑う不審な少女は、この後破落戸たちの中で高値で流通されることになった。