裏方万歳
別荘の管理人はうだうだと惚れた女の自慢をする。化粧っ気はないが家族思いで一途。叶わない相手に恋してる。この時点で当て馬かよ。管理人。
別の別荘の管理人家族の娘さんはしゃきしゃきした働き者。見かける限り二人の仲は悪くなく周囲はいずれくっつくと見ているようだった。
「嫁に来い」と言うたびに思いっきり拒否されてはいるけれど、彼女もまんざらではないのではないだろうかと言う反応なのだ。
彼女の別荘の持ち主は我らが姫の許嫁。
まぁ、別荘が悪趣味なのは当人の趣味ではないので放置だ。しかし改装プランは思いついて欲しいところだろう。
ちびっこどもが見上げてくる。その物言わぬ眼差しは雄弁に『なんでいるの?』と言っている。ああ、邪険にされてる。
「あ、バイパーも夕飯食っていくだろ?」
「はい。よろこんでー」
ちびっこどもの視線温度がなお下がった。
うまうまと夕食を済ませふらりと外に出る。
甘いお姫様の匂いを感じる。
みっともなく涙をこぼしながらものすっごく前方不注意で進んでいく。
なにかあったかと思うけれど、仕事はお姫様の安全確保だ。
足元の枝は取り除き、凹んだ場所には板を敷き出来るだけ先回りして害虫駆除。湖を前にしてお姫様が立ち止まる。うん。流石に前進されるとおっちゃんちょっと困るなー。
「私はお父さんの娘だから愛されてるのにね」
まぁ、その通りなのだけど。
「オイヤですー?」
あの方の血と同じ血を持つから守る愛する。本能のように。
「好意は嬉しいの」
少し思うところがあるのはわからないでもない。
「でも、条件が同じなら私じゃなくてもいいんでしょ」
小さな声は素直な屈託だろう。
「もちろん、坊っちゃんたちも愛おしく思ってますよ。ですけどね。俺らにも好みってヤツはあるんです」
お姫様は好きだとも。
だから、案内するのは決まってる。
「おかえり。バイパー。……あれ、ミア?」
「ち、千秋兄!」
飛び込んできた妹分に赤毛が揺れる。
「久しぶりだね。どうしたの?」
「ママに会いたかったの! 千秋ママに!」
「誰がママだ! 誰が!」
「やーん。千秋兄こっわーい」
元気が出たようでなにより!