知りたい
「え。二人きりの旅行デート?」
お茶を飲んでいたリョーイが渋い顔をした。
「なに。リョーイ、レンは信用できないの?」
「そんなことないけど、ミアはかわいいしさぁ」
どちらかと言えば応援するようにリューイが尋ねリョーイが味方になろうとしつつも妹可愛さとの間で揺らいでいる。
「いいんじゃない。伯父さん達からも評判いいし、なにかあれば責任って言っても婚約してるし、別れた方がいい何かだったらミアはずっと家にいればいいんだから」
あんまり旅行とか経験少ないからよろしくとリューイに頼まれ感謝を込めて了承した。
車窓からの風景に夢中になり、物珍しげに視線を彷徨わせる姿は幼い子供のよう。
「鉄道ははじめて?」
「まさか。久しぶりなだけ。でも、コンパートメントははじめてだし、なんだか映画のセットみたい」
ツンっとふるまおうとして次の瞬間には好奇心が勝っている。ミアは意外に好奇心が強いらしい。
自分の行動に気がついたのか恥ずかしそうに視線をさふらつかせる。
「物知らずで恥ずかしいわ」
「これから知っていけばいいのだし、普段の移動は車が多いのだから」
知る限り、ミアは女学校と家、避暑地の別荘くらいしか移動していない。大切に、外部刺激から切り離されて育てられている。
おだやかに反抗することなくその箱庭で育つミアが思ったより好奇心豊かだったのは新鮮だった。
食堂車での食事もミアはとても楽しんでくれた。
「レンの育った町ってどんな町なの?」
故郷からはなれての寮生活だったとはいえ思い出がないわけではない。
子供の足では隣家にもたどり着かない田舎。
休みの時の訪ねる教会の人出。
両親と弟。
手伝いに来ていた大人たちとその子供たち。
たまに出かける中心部には陽が落ちる頃には店じまいしている店が立ち並ぶ。残るのは僅かばかりの移動店舗。手軽な惣菜、花を売る屋台。帰りゆく人々に最後の芸を売るアーティスト。
たまの朝市へ連れて行って貰うのが楽しみだった。
興味を持ってもらえるのが嬉しくて掻い摘んで話す。
ただ、生家は燃えてしまった。
建て替えられた見知らぬ我が家。
遠縁の彼らは出ていったけれど、私もずっと帰っていなかった。
「ずいぶんと帰っていなかったから変わっているだろうな」
「見ていないと変わっていくものだから……」
そう呟くミアはどこかを思い出していたのだろうか?
家族用とミア用に花を買い贈る。
花にミアの表情もほころぶ。
懐かしい見知らぬ町。
丘の上の教会にミアは嬉しそうに笑っていた。
「レンは私をどう思っているの?」
「ミアはミアかな。出会った当初は驚かされたけれど、愛しく思っているよ」
ふふっとミアが笑って見上げてくる。
クセの強い髪がふわりとひろがる。
「妹みたいに?」
「スタートはそこかもしれない」
「ありがとう」
「今、ミアを妹のようには思っていないよ。感謝はしている。だけど、それに縛られているつもりはないよ」
どう伝えればわかってもらえるのかはわからない。
「そう。ありがとう。レン。でも、恋をだれかにしたら教えてね?」
「ミアが好きだと言ってるのにな」
「だって、難しいお話はわからないし、私はいつだってワガママなんですもの。それにジェシーお姉さんみたいに大人っぽくなれる自信もないもの」
え。
ジェスリンを目指す必要はないよ!?
「ミアはミアらしくあってくれればいいんだよ」
ミアはそのままが可愛らしく癒される。兄である彼等が過保護なのもとてもわかるんだ。
「でもね、自立した女性の方が良いとは思ってるの。でも、でもね。私にはノアちゃんみたいになりたいものもしたいこともできそうなこともわからないし、見えないの」
ダメね。と哀しげに微笑まれた。