泣かないで
「追いかけないの?」
「大嫌いって……」
「あー、俺かなぁ、それか自分だろ?」
「リュー!」
「やっほーリョーイ元気?」
「げんきー」
答えつつもリョーイの声は低い。リューイはそれを綺麗に流して私に向けて続ける。
「あのさ。興味ないならミアに期待させないでくれる? 助けたかもしれないけど、金で買って縛りつけてるなんてあんまり気持ち良い感覚じゃないしね」
かたまった。
ミアがそんなことを考えている?
「まー、いい手段をリョーイが考えつかなかったのが一番悪いんだけどさー」
「えー!」
「じゃあ、年長者責任でスタン?」
「そういうことにしとこう!」
「スタンじゃなくてリョーイがミアの兄貴だろ。だからさ、レン、追っかけんの? 縁切るんだったら、今後一切近寄るなよ」
「ありがとう。リューイ」
機会をくれたことに礼を言い、ミアを追う。
ノアくんにミアの向かった方向を聞いて足を早めた。
そう、機会をくれた。
リョーイもミアも、それをフォローしてくれた大人たちも。
その機会がなければ、私は失ったもの。失われゆくものばかりを見ていただろう。ただ人を信じる事を長く失って取り戻せたかどうかもあやしい。
その、ありがとうという想いを私は彼らに伝えられていない。まだ途中なのだ。返せるものがなく、貰うばかりなのだ。
友人を信じることも、善意を信じてゆくことも力尽くすことの希望を信じていくことも手を差し伸べてくれたからこそ、今もまだ真っ直ぐに見ていられる。
諦めないでいられる。
あの時、差し伸べられた幸運が私を諦めることから救った。
泣かないで欲しい。
失って不安だった私に、私を求めてくれた君が。
差し伸べられる手に甘えて『まだ』返せないと動けなかった私が弱いんだろう。
もしくは、君は大丈夫だと思ってしまっていた。
君は、ずっと子供だったのに。
私は君の望む『素敵な人』になれているのだろうか?
君に救われた。
君がいたから進めた。
もっと知りたいのに邪魔が多くて、その邪魔を受け入れて君との距離をそのままにしてきた。
二人きりのデートを誘う。
君には迷惑かもしれない。
それでも、私の家族に君を紹介したいと思ったんだ。
君は私を信じてくれる?
ミア。