裏側のココロ
「あら、疑われたの。かーわいそ」
ジェスリンが楽しそうに笑う。
なめらかな小麦色の肌をビキニで最小限隠している。シースルーのジャケットはカウントに入れなくていいだろうと思う。
「見て。スタンが買ってくれたのよ」
ライトストーンがきらめくブレスレットとアンクレットの揃い。
そんな何気ない会話を中庭でしていたらスタンの父親の所有する車が外から帰ってきた。
日傘の女性とスタンの父親。
こちらを見た女性がふわりと笑った。
奥で本を読んでいただろうノアくんが小走りに駆けてくる。走っているところなど見ないから珍しいと思う。
「ママ! おかえりなさい!」
走ってはダメよ。などと注意を受けながらノアくんは母親らしい人物を家屋へと導いていく。
ああ、確かにミアの成長した姿のようにも見える。似た母娘なのだろう。
リョーイがいつもよりやや澄ました表情で母親に対応しているのがわかる。
なにか薄い違和感。
「レン」
リョーイがにっと笑って手を振る。
「明日にでも母を紹介したいな」
「今日じゃなくていいのか?」
「今日は移動しているから刺激は充分だと思う」
「リョーイ?」
思ったより素っ気ない対応に疑問が湧く。
「んじゃあ、ジェシーはおとなしーくマダムの目にとまらないようにしとくわね」
ジェスリンがわざとらしくウィンクし、リューイがほどけるように笑った。
「気にしないで大丈夫だよ。母にとってジェシーを敵認識するにはまず父と知り合いじゃなきゃいけないんだ」
「あら。それはないわね」
「だろ?」
「じゃあ、リョーイはママの敵?」
ジェスリンがにこやかに切り込む。
「敵? 違うよ。母にとってぼくらは父を引き止められなかった役立たずなだけだよ」
リョーイにとって母という存在は味方ではないという。よくある情景といっても身近に感じ取れるケースは少なく瞬間的に対応にとまどう。
ふふっとジェスリンが笑う。
「その経験がリョーイをいいオトコに育てるのネ」
「それはそれでいいメーワクだと思わない? ジェシー」
「だって、マザコンじゃないって重要だわ!」
スタンはどちらかと言えばマザコンだ。
「ねぇ、レン」
ジェスリンの声に視線を向けた。そのネイビーの眼差しは静かだった。
「ミアの様子を見てきてはどうかしら?」
そう言いながらリョーイの腕に胸を押しつけて引きとめてあげるわとジェスチャーされた。
「そうだね。もしかしたらミアが未来の母に紹介してくれるかも」
「明日っつっただろ。レン!」
あがくリョーイを黙殺してたぶん、母親から隠れているのであろうミアを探しに行くことにした。
追いつかれるまでは二人で喋れるといいんだが。