姦しい時間
きゅっと背伸びしてハイキングシューズの紐を確認。
荷物は手軽にワンショルダーバッグ。
濃いめのブラウンのスプリングコートの下はサックスのブラウスとネイビーのズボン。くせっ毛を遊ばせないバンダナキャップ。
「麻衣子!」
呼ばれて振り返れば見知った友人。
「菊花、久しぶり!」
抱きついて頬にキスをあびせれば、かわいい悲鳴をあげて逃げ惑う。
逃げられたら追いかけたくなるじゃない。ひとしきりじゃれあって一歩、はなれていたもう一人の友人を抱きしめる。
「おかえりなさい。麻衣子ちゃん」
「うん。元気だった? 愛子」
おっとり腹黒系な愛子はあいかわらずおだやか風に微笑む。
三人での会話はいつだってとりとめのない、それでも大事なことばかり。
好きな人のこと。気になる相手。ちょっと不愉快なこと。これからの野望。会わない間のインパクトある出来事。
菊花は好きな男にじわじわアタック中で、愛子は気になる相手への対処に戸惑い、あたしは好きだなと思ってた相手を振り払うように将来の野望、美しい商材への夢を語る。
見るのも触れるのも好きだ。ただあたしは創るのは不向きな人間だった。
でも、好きなものに関わっていたい。
美しさをもっと知ってほしい。ふさわしい対価が造り手を潤してほしい。
まぁ、雑貨店をしてる母の影響は大きいと思う。
店の中には手造りの造花やアクセサリー。おまじないグッズにアンティークかと思うような人形まで雑多な空間だったから。
「じゃあ、仕入れ行く父さんについていってみたら?」
母の甘言にのって父さんに連れられた放浪の旅。
勢いとジェスチャーと気持ちが大事だった。
だから、菊花を煽って、愛子も気持ちがあるならと煽っておいた。
ああ、ステキな出会いないかなぁ。