第一話
穏やかな土曜日の朝。
広大な宮廷内の一室に横たわるラウンドテーブルの前の大椅子。
そこに座るにしてはあまりに華奢すぎる体にサイズの合わないオレンジ色のドレスを着た女性の非常に不機嫌そうな声が響く。
「私言ったわよね?この料理嫌いだって。それになんなの?この趣味の悪い食器、私この色嫌いだからもう使わないで」
あまりに理不尽で傍若無人。出てきた料理を王族根性丸出しの傲慢さで容赦なく切り捨て、今にも皿を払い除けそうな剣幕で傍らの給仕姿の若い男性を睨みつける。
「お言葉を返すようですけどね王女殿下」
一方給仕の男の方も慣れたもので負けることもなくこれに言い返す。
「私は国王陛下から留守の間、くれぐれも王女様のわがままに振り回されないこと、たとえ嫌がってもバランスのとれた食事を食べさせるよう言付かっております。食器に関してはお気に召さなかったのなら今後は使わないようコックと女中に伝えておきますが、この献立に関しては私がコックと綿密に相談した上で選んだものです。残念ですが嫌いだとしても食べていただきますよ」
「……なによブラントのくせに」
ブラント――給仕の言葉に聞く耳を持つ気はないわがまま王女はそのように呟いて料理から目を背ける。
「どうしても殿下がこの朝食を食べる気がないとおっしゃるなら、残念ですがこのあとの庭のお散歩は――」
「待って!ちょっと待ってそれだけは!」
ただでさえ貴族の娘というのは軽々しく外に出ることを禁じられていて気分転換の機会がない。王女とは言え同じこと、というよりなおさら厳しい。彼女にとって週末の午前中にこの若い給仕を引き連れて庭園を見て回るのはほぼ生きがいといっても過言ではない時間であった。
必死になって給仕を引き止めた彼女は、目を閉じてまるで自分に何かを言い聞かせるようにブツブツとつぶやいていたが数秒後、目を開けて出された料理を食べ始める。それを見てブラントもホッと胸をなでおろした。
「ほら、食べたわよ。出かける支度をしなさいブラント」
「お供をいたします」
足早に逃げるように食卓を後にする自由な王女を追いかけるようにブラントがついていく。
数日後の大事件とは無縁ののどかな午前のひと時であった。