「お仕事は何を?」「ダンジョンマスターですが何か?」
思いつきで書いてみました。
「お仕事は何を?」
「ダンジョンマスターですが何か?」
七海の問いにツンケンした答えを彼はした。
七海は天を仰ぐ。
ああ、書類の記入ミスじゃないのね…と絶望を抱えて。
ここは真心会東京支部の一室。
真心会とかいうと、宗教施設ぽいが、実際は設立15年目の結婚相談所だ。
そして七海は勤続8年目の相談員である。
目の前の男は会員歴5年目のベテラン独身貴族だ。
彼の前担当は逃げた。
こんなん、成婚に繋げる自信ないと。
資料を見ると過去三人の担当が同じ理由で逃げている。
七海は先程までは、前担当の無能ぶりを呪っていたが今は自分も逃げればよかったと思っている。
こいつの職業知ってたら私も担当引き受けなかった!
これが七海の本心だ。
しかし、担当になってしまったのだ。
ならば、なんとか結婚相手を見つけなければならない。
改めて会員を見る。
名前:堤下登
年齢:38歳
身長:170センチ
年収2000万〜3000万
職業:ダンジョンマスター
年収だけ見ると上玉なのに。。
てか、開きが1000万もあるってなんで?
「歩合制なんで。」
ダンジョンマスターって歩合制なんだ!
まるで心を読んだかのような答えに驚く。
「因みに福利厚生ってどうなってるんですか?」
「社会保険、健康保険は入ってますし、日本各地に保養所もあります。社宅もありますし、財形、家族手当もでます。」
ちょっと、真心会より保証が手厚い!
「な、なるほど。でも、なんでダンジョンマスターになったんですか?どう考えても結婚に不利ですよね?」
ダンジョンマスターは魔王の手下だ。
魔王は人間の敵。
人間の癖に魔王に降ったいわば裏切者が彼である。
さぞや、重い過去や理由でも…。
「渋谷を歩いていたら魔王様にスカウトされまして。」
まさかのスカウト!
しかも、魔王直々!!
「丁度、就活がうまくいかなくて、すごく辛くて…給料いいし、まあ、いいかなって。」
そんな軽いノリで人類の敵にならないでください。
「まさか、結婚に不利になるなんて思わず。」
いや、そこは真っ先に気づくべきだ。
と、いうか、何故魔族と結婚しない。
魔族は美男美女が多いではないか。
「国際結婚も抵抗あるタイプなんで、異種族間なんてもう、絶対無理です」
意外と保守的だな。
「なるほど。女性の好みは?」
「ダンジョンマスターを受け入れてくれる人ですかね?」
それがいないから5年も成婚してないんだよ!
「転職は考えてないのですか?」
「結婚に不利以外の不便さがないので特に考えてませんね。」
そっかぁ。
じゃあ、マジでダンジョンマスターの結婚相手探さなくちゃいけないのか。
七海はため息をついた。
ここは別にファンタジックな世界ではない。
普通の日本だ。
ただ、20年前に異世界から勇者に追われて魔王が現れ何故か都庁を魔王城にしてしまい、以来普通に住んでいる。
区役所勤めの友人曰くちゃんと住民票がでてるそうな。
魔王は律儀である。
で、日本に住む以上当然税金を納める必要があるので、働いてもらう必要があるのだが、その働き方が異世界流だった。
なんと魔王様、新宿駅をダンジョンにしちゃいました。
意味不明ですよね。
でも、現実新宿駅はダンジョンです。
考えた事あります?
JR、京王、小田急、地下鉄、特急も止まる。日本でトップクラス利用人数を誇る駅がダンジョンになる恐ろしさを!
魔王は言うのです。
「駅使いたきゃ金よこせ。うん?勝手に使う?別にいいけど、迷うよ?ここダンジョンだし。勿論、魔物も住んでるよ。ほら、駅員代わりが必要でしょ?」
新宿駅がダンジョンになってからどれだけの人間が迷惑被った事でしょう!
電車乗る為の運賃以外に道案内料が加算された金額を新宿駅利用者は支払っています。
かれこれ20年。
各種鉄道会社と魔王の交渉は今の所なんの役にもたっていません。
東京住まいの人間なら目の前のダンジョンマスターを憎んでいるといっても過言ではないはず。
「でしたら、堤下様にはお見合いよりパーティがよろしいかと。」
「職業を隠せるから?」
伊達に5年も通ってない。
パーティなら話次第でうまく職業を隠せる。
「僕、話下手なんで、パーティとか苦手なんですよ。」
「そうなんですか?」
意外だな。結構しっかり受け答えしているのに。
「実は、ダンジョンマスターになったら、魔王様から特殊技能を頂きまして。」
なんだ?
ダンジョンマスターってだけでも重たい事実なのに、まだ、何かあるのか?
「僕、人の心が読めるんです。」
「…はい?」
「七海さん。」
「はい?」
「今まで僕の職業きいて引かずにいてくれたのは貴方が初めてです。」
いや、ドン引きでしたが?
「いえいえ。他の方はダンジョンマスターと聞いた途端に顔色悪くして、相談所を辞めるようやんわりと言って来たのですが、七海さんは違いました。」
そういえば、私この人に名前教えてない。
七海は堤下が嘘をついていない事に気づいてしまった。
「曲がりなりにも、僕の結婚に対して取り組もうという姿勢を見せてくれました。」
いや、それが仕事ですから!
「本当に嬉しかった。その資料通り、僕身長は低いけど、年収は高いです。9時5時で終わる仕事で土日祝日は休み。ダンジョンマスターってところだけ目を瞑ればいい物件だと思います。七海さん、彼氏いないみたいですし、僕と結婚しませんか?」
全力回避していいですか?