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老人とウミ

掲載日:2016/05/21

シャナリ シャナリ

  シャナリ  シャナリ

赤い陽を背に受け、痩せこけた一人の老人が、枯れ葉の積もる並木道を肩をすぼめ、秋風と共にさすらう。

老人は公園の薄汚れた灰色のベンチに腰を下ろし、大きく一度、背伸びをすると、ゆっくりと足を組んだ。

不毛の頭に赤い夕陽が照らし出された老人の頭は、熱く煮えたぎった男性の性器にも見えた。

老人はウエストポーチの中から、ゆっくりとスマホを取り出すと、イヤホンを接続し、両耳にあてる。

老人は先ほどコンビニで購入したおにぎりとお茶を取り出し、おにぎりを少しずつ、一口一口堪能しながら

喉に流し込む。

静かに目を閉じる。

かすかに酌み交わした足下が揺れている。


キィコー、キィコー、キィコー、キィコー・・ガチャッ・・

オカッパ頭の少年の乗った三輪車が老人の足にぶつかった。

老人は驚くこともなく、静かにズボンの裾を手でパッパッ! と、手で払うと何事もなかったかのように

また、自分の世界へと陶酔する

少年は悪びれた素振りも見せず、ジッと老人の顔を見ている。

少年は持っていた水鉄砲で

老人の右目を撃った

勢いよく放たれた水鉄砲の水弾道は的確に老人の右目を捉えた

何が起こったのだろう?

と、考える間もなく、間髪入れず条件反射で少年の頭頂にかかと落としを落下させていた。

少年は泣き叫びながら全速力で三輪車を漕ぎその場を立ち去って行った。

何事もなかったように再び目を閉じ、じっとスマホの音楽に身を投じ出す老人だった。


そこへ赤いコートに身をまとった22,3才の若い女が、老人の横に腰を下ろした。

女はタバコを一服するとバッグから一冊の本を取り出し読み始めた。


15分くらい経ったのだろうか、女が老人をチラチラ横目で見る機会が増えていた

イヤホン越しに漏れてくるサウンドに少々耳障り感を覚え、読書に集中できないのだろう


「すいません・・」

シャカシャカ、シャカシャカ

「すいません・・」

シャカシャカ、シャカシャカ

「すいませーん!すいませーん!」

シャカシャカ、シャカシャカ

「・・・・・・・・」


女は老人の顔をのぞき込むように見ながら、彼の肩を軽くポンポンと叩く

老人はそれに気づくと、ゆっくりと女の方へと振り返った


女は恐縮そうに言った

「すいませ~ん、少し音量下げてもらえませんか?」


「ぉぉ・・ごめんなさい、ごめんなさい・・」


意外と素直で謙虚な態度の老人に、少々好感を覚えた女はちょっと会話がしてみたくなったのだろう


「何を聴かれてるんですか?」


「ヴァンヘイレン・・」


女は小首をかしげ肩をすぼめ、眉を八の字にし知らないという素振りをして見せた。

今度は逆に老人が女に質問をした


「何を読まれてるんですか?・・」


「実録かまやつひろし物語です・・私、ちっちゃい時からかまやつさんのファンなんです」


女はムッシュの歌を歌い出した


「下駄を鳴らぁしぃ~て、奴がぁ来るぅ~!腰にぃ手ぬぐぅい、ぶらさぁあげてぇ~え!!」


老人はポケットからハーモニカを取り出すとその歌にあわせてハーモニカを弾き出した

持っていたギターケースからギターを取り出すとベンチの上に立ちおもむろにムッシュの歌のギターの弾き語りを始めた。


「ぁああーー!ああー!夢よー良き友ーよぉぉぉおおおおおおおっっっ!!!!」


いつの間にか公園のベンチの前は黒山の人だかりでいっぱいになっていた。


その時老人は女を指さし、思い出すように叫んだ。


「あ!・・ウミ!・・」


女は頭を振り乱し、ギターを弾き殴りながら


「そうたい!ウミたい!! やっと思い出したね!! 3日間どこほっつき周りよったとねぇ!! そのたんびぃ、あたしが捜しに行かされるっちゃけんねぇ!じぃちゃん!!みんな心配しとったとよ、もぉぉおおおっ!! たいがいにしとかな、いかんばぁぁぁあああああああいいいいいいっ!!!  さ!もう早よ家に帰ろ!」


女は老人の首根っこを掴み上げ、車の方へ老人を運ぶとドアを開け無造作に入れ込むと、全速力でその場を立ち去って行ったのだった。


ベンチの傍には老人が落としって行ったスマートフォンから激しいヴァンヘイレンの楽曲が流れ続け

すっかり陽も沈み、秋風が吹き抜ける公園の上に鮮やかな中秋の名月の灯りが、先ほど老人がカカト落としを見舞った少年と、その親と思われしきイカつい男の親子を優しく照らし続けていた。



==============END==============








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